2024年02月07日

東京オフィス市場は賃料が下げ止まり。宿泊需要はコロナ禍前を上回る-不動産クォータリー・レビュー2023年第4四半期

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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1.経済動向と住宅市場

2/15に公表予定の2023年10-12月期の実質GDPは、前期比+0.2%(前期比年率+0.9%)と推計される1。2四半期ぶりのプラス成長になるものの、7-9月期(前期比▲0.7%)の落ち込みを取り戻すには至らず、景気の回復ペースは依然として緩やかなものにとどまる見込みである。

経済産業省によると、10-12月期の鉱工業生産指数は前期比+1.4%と2四半期ぶりの増産となった(図表-1)。業種別では、供給制約の緩和を受けて回復が続く「自動車」(前期比+3.3%)や在庫調整の進展を受けて「電子部品・デバイス」(前期比+6.7%)が増産となった。

ニッセイ基礎研究所は、2023年12月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2023年度+1.5%、2024年度+1.3%、2025年度+1.1%を予想する(図表-2)2。民間消費、設備投資などの国内需要を中心に景気の回復基調は維持されると予想するが、内外需ともに下振れリスクの高い状態が続く見通しである。
図表-1 鉱工業生産指数/ 図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、前期に販売状況の回復の兆しが見られたものの、住宅価格の上昇が続くなか、再び停滞傾向となっている。

2023年12月の新設住宅着工戸数は64,586戸(前年同月比▲4.0%)となり7カ月連続で減少、10-12月累計では約20.3万戸(前年同期比▲6.3%)となった(図表-3)。建築コスト上昇の影響などを受け、着工戸数が減少している。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2023年12月の首都圏のマンション新規発売戸数は5,975戸(前月同月比+3.8%)、10-12月累計では10,204戸(前年同期比▲10.4%)と減少した(図表-4)。12月の平均価格は6,970万円(前年同月比+25.4%)、m2単価は107.2万円(同+23.5%)、初月契約率は66.1%(同▲8.7%)となった。 2023年の販売戸数は26,886 戸(前年比▲9.1%)と2年連続で3万戸を下回り、1992年以来の低い水準となった。一方で、平均価格は8,101万円(同+28.8%)と過去最高値を更新し、なかでも東京23区は高額物件の供給増加により1億1,483万円(同+39.4%)と初めて1億円を突破し注目を集めた。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2023年12月の首都圏の中古マンション成約件数は2,941件(前年同月比+3.7%)、10-12月累計では9,128件(前年同期比+4.9%)となり、2四半期連続で増加した(図表-5)。2023年の成約件数は35,987件と2022年の35,429件から+1.6%増加した。12月の中古マンション平均価格は4,784万円(前年同月比+9.4%)、m2単価は74.8万円(同+7.0%)と、取引価格の上昇が続いている。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(月次、前年比)
また、日本不動産研究所によると、2023年11月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は前年比+4.1%と、50カ月連続での上昇となった(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2.地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2023年第3四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「78」(前回74)、横ばいが「2」(前回6)、下落が「0」(前回0)となった。住宅地では6期連続で全ての地区が上昇となり、商業地では横ばいから上昇へ移行する地区が増加した(図表-7)。同レポートでは、「住宅地では、マンション需要に引き続き堅調さが認められたことから、上昇が継続。商業地では、人流の回復を受け、店舗需要の回復傾向が継続したほか、東京都心部でオフィス需要の持ち直し傾向が見られたことなどから、上昇傾向が継続した」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
また、野村不動産ソリューションズによると、首都圏の住宅地価格(1月1日時点)は14四半期連続プラスの前期比+0.9%となり、上昇率は前期(+0.8%)をわずかながら上回った(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3.不動産サブセクターの動向

3.不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2023年12月の東京都心5区の空室率は6.03%(前月比横ばい)となった。2023年は新築ビルの供給が増加したものの需要が上回り、空室率は2022年12月の6.47%から低下する結果となった。また、平均募集賃料(月坪)は19,748円(前月比+0.1%)と、41カ月ぶりの上昇となり、コロナ禍以降の賃料下落局面が終了したのかどうか、今後の動向が注目される。他の主要都市をみると、札幌の空室率が3%台と低位を維持する一方、大阪が4%台、名古屋・福岡が5%台、仙台・横浜が6%台で推移するなど、新規供給の影響によって都市間で差が生じている3(図表-9)。
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2023年第4四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は25,240円(前期比+2.4%)となり、4四半期ぶりに上昇した。また、空室率は6.9%(前期比+0.2%)に小幅上昇した(図表-10)。三幸エステートは、「2024年のAクラスビルの供給量は2023年の3分の1程度に止まる見込みだが、足元では一次空室の消化は緩やかなペースとなっており、今後も空室率は比較的高い水準で推移する」としている。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
ニッセイ基礎研究所・クロスロケーションズ「オフィス出社率指数」によると、東京都心部のオフィス出社率は2023年12月末に69%(前年同期70%)となった(図表-11)4。2023年に入り、ポストコロナに移行するなかオフィス回帰の動きが一部見られたが、その足取りは緩やかなものにとどまっている。
図表-11 東京都心部のオフィス出社率
 
3 2023年12月時点の平均募集賃料は、前年同月比で、札幌(+4.2%)・仙台(+0.7%)・東京(▲1.6%)・横浜(+1.4%)・名古屋(+1.8%)・大阪・(+0.9%)・福岡(+1.2%)となっている。
4 オフィス出社率指数は、スマートフォンの位置情報データをもとに東京都心部のオフィス出社率を推計したもの。算出方法の詳細は、以下を参照。佐久間誠『人流データをもとにした「オフィス出社率指数」の開発について-オルタナティブデータの活用可能性を探る』(ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2021年6月2日)
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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