2023年10月31日

2023年7-9月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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● 7-9月期は年率▲0.9%のマイナス成長を予測

2023年7-9月期の実質GDPは、前期比▲0.2%(前期比年率▲0.9%)と4四半期ぶりのマイナス成長になったと推計される1

輸出は前期比1.2%と2四半期連続で増加したが、輸入が同2.2%と4四半期ぶりに増加し、輸出の伸びを上回ったことから、外需寄与度が前期比▲0.2%(年率▲0.7%)と成長率を押し下げた。

民間消費は、物価高による下押し圧力の強い状態が続く中でも、雇用所得環境の改善や社会経済活動の正常化を背景に、前期比0.2%と2四半期ぶりに増加したが、設備投資(前期比▲0.4%)、政府消費(同▲0.1%)、公的固定資本形成(同▲1.0%)が減少したため、国内需要はほぼ横ばいにとどまった。

実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が▲0.0%(うち民需0.0%、公需▲0.0%)、外需が▲0.2%と予測する。
 
名目GDPは前期比0.5%(前期比年率2.0%)と4四半期連続の増加となり、実質の伸びを上回るだろう。GDPデフレーターは前期比0.7%(4-6月期:同1.6%)、前年比5.4%(4-6月期:同3.5%)と予測する。輸入物価の上昇を国内に価格転嫁する動きが広がり、国内需要デフレーターが前期比0.3%の上昇(4-6月期:同0.7%)となったことに加え、輸出デフレーターが前期比3.0%の上昇となり、輸入デフレーターの伸び(前期比1.1%)を上回ったことがGDPデフレーターを押し上げた。
 
11/15に内閣府から2023年7-9月期のGDP速報が発表される際には、基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから、成長率が過去に遡って改定される。当研究所では、2023年4-6月期の実質GDP成長率は外需の上方修正を主因として、前期比年率4.8%から同5.1%へ上方修正されると予想している。
 
2023年10-12月期は、海外経済の減速を背景に輸出が伸び悩む一方、民間消費、設備投資などの国内民間需要が底堅く推移することから、現時点では年率1%程度のプラス成長を予想している。
 
1 10/31までに公表された経済指標をもとに予測している。今後公表される経済指標の結果によって予測値を修正する可能性がある。

●主な需要項目の動向

● 主な需要項目の動向

・民間消費~対面型サービスを中心に2四半期ぶりの増加~
民間消費は前期比0.2%と2四半期ぶりの増加を予測する。物価高による下押し圧力の強い状態が続いたが、雇用所得環境の改善や社会経済活動の正常化を背景に、外食、宿泊などの対面型サービス消費を中心に増加した。
消費関連指標の推移 2023年7-9月期の消費関連指標を確認すると、供給制約の緩和を受けて増加が続いていた自動車販売台数は、前期比▲3.6%(4-6月期:同5.6%)と5四半期ぶりに減少したが、国内旅行、インバウンド需要がともに回復していることから、延べ宿泊者数が前期比1.2%(4-6月期:同10.2%)と増加が続いたほか、外食産業売上高は物価高の悪影響を受けながらも、経済活動の正常化が進む中で前期比2.4%(4-6月期:同1.3%)と堅調を維持した。

また、小売業販売額指数は前期比1.5%(4-6月期:同▲0.2%)と2四半期ぶりに増加した(いずれもニッセイ基礎研究所による季節調整値、外食産業売上高、小売販売額指数は消費者物価指数で実質化)。
・住宅投資~資材価格の上昇一服が押し上げ要因に~
住宅投資は前期比1.4%の増加を予測する。
新設住宅着工戸数の推移 新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2019年10月の消費税率引き上げ後に90万戸を割り込んだ後、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化した2020年度入り後に80万戸程度へと水準を大きく切り下げた後は、概ね80万戸台で一進一退の推移が続いている。足もとでは、資材価格の上昇一服が住宅投資の押し上げ要因となった。

 
・民間設備投資~2四半期連続の減少~
民間設備投資は前期比▲0.4%と2四半期連続の減少を予測する。

設備投資の一致指標である投資財出荷指数(除く輸送機械)は2023年4-6月期の前期比2.2%の後、7-9月期は同▲4.0%となった。また、機械投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は2023年4-6月期に前期比▲3.2%の減少となった後、2023年7、8月の平均は4-6月期を▲2.2%下回っている。日銀短観2023年9月調査では、2023年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が6月調査(前年度比15.3%)から上方修正され、前年度比16.0%の高い伸びとなった。

設備投資は、高水準の企業収益を背景に基調としては底堅さを維持していると判断されるが、生産活動の停滞等を反映し、2023年度入り後は弱めの動きとなっている。
設備投資関連指標の推移/設備投資計画(全規模・全産業)
・公的固定資本形成~6四半期ぶりの減少~
公的固定資本形成は前期比▲1.0%と6四半期ぶりの減少を予測する。
公共工事請負金額、出来高の推移 公共工事の先行指標である公共工事請負金額は2023年7-9月期に前年比1.3%と3四半期連続で増加したが、1-3月期の同14.7%、4-6月期の同7.1%から伸びが鈍化し、季節調整値(当研究所の試算値)では、2四半期連続の減少となった。

公共工事の進捗を反映する公共工事出来高(建設総合統計)は、2023年4-6月期に前年比6.8%と3四半期連続の増加となった後、7、8月の平均は同4.0%と伸びが鈍化した。

公的固定資本形成は増加傾向が続いているが、補正予算の効果一巡などから7-9月期は減少に転じたとみられる。
・外需~成長率を押し下げ~
需寄与度は前期比▲0.2%(前期比年率▲0.7%)と2四半期ぶりのマイナスを予測する。輸出は前期比1.2%と2四半期連続で増加したが、輸入が同2.2%と4四半期ぶりに増加し、輸出の伸びを上回ったことから、外需は成長率の押し下げ要因となった。財輸入は低調だったが、海外旅行の回復を受けてサービス輸入が高い伸びとなったことが輸入全体を押し上げた。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 2023年7-9月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比3.4%(4-6月期:同3.3%)、EU向けが前期比3.4%(4-6月期:同4.8%)、アジア向けが前期比2.7%(4-6月期:同0.5%)、うち中国向けが前期比0.5%(4-6月期:同6.8%)、全体では前期比2.3%(4-6月期:同1.9%)となった。

2023年7-9月期は主要国・地域向けがいずれも前期比で上昇し、底堅い動きとなった。ただし、中国向け輸出は、中国経済の停滞に加え、ALPS処理水放出を受けた日本の水産物輸入停止の影響で、持ち直しのペースが鈍い。

 
日本・月次GDP 予測結果
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2023年10月31日「Weekly エコノミスト・レター」)

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