2023年10月30日

2023年6~9月の自社株買い動向~PBR1倍割れ企業の株価はPBR1倍以上企業より大きく反応~

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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■ 自社株買いへの意欲は高い

まずは、2023年4~9月の状況を確認する。TOPIX構成銘柄企業の自社株買いの設定件数は383件と2018年4~9月以降最大だった。設定金額は5.4兆円と2022年4~9月の5.7兆円は下回ったものの、過去5年平均の4.1兆円は大幅に上回った。
図表1 自社株買い設定額・設定件数の推移

■PBR1倍割れ企業の自社株買いが劇的に増加した傾向は見られず

■ PBR1倍割れ企業の自社株買いが劇的に増加した傾向は見られず

東京証券取引所は、中長期的な企業価値向上に向けた取組みの動機付けの一つとして、継続的にPBRが1倍を割れている上場企業について改善策の開示を要請している。これをきっかけに、資本効率の改善や企業価値の向上がより強く意識され、自社株買いの設定が増える可能性が指摘されていた。そこで「2023年4~5月の自社株買い動向」(2023年6月22日付)のレポートでは、2018~2023年の4~5月に自社株買いを設定した企業をPBR1倍以上と1倍割れで分け、2023年4~5月とそれ以前で変化があるのか確認した。その結果、2023年4~5月は、PBRの水準によらず設定金額や件数が劇的に増加した傾向は見られなかった。
 
今回は、同様に2023年6~9月の自社株買い設定動向について集計した。図表2は、PBR1倍以上とPBR1倍割れで分けて集計した設定金額及び設定件数の年ごとの6~9月の推移である。PBRは、2023年6~9月であれば2023年3月末時点の値を基準としている。棒グラフは各年6~9月の設定金額及び設定件数の合計を、折れ線グラフは、PBR1倍割れの企業の数字が全体に占める割合を示している。
図表2 設定金額、件数では大きな変化は見られなかった
2023年6~9月全体の設定金額は1.41兆円と2022年6~9月の1.51兆円、過去5年平均の1.6兆円を下回った。2020年はソフトバンクグループ1社が1.5兆円の自社株買い実施を発表しているため単純に比較はできないものの、2023年6~9月の設定金額は、2019年以降の6~9月では最も低かった。ただし、設定件数は、145件と2022年の141件を上回り、過去5年平均の132件も上回った。例年と比較すると、自社株買いを実施する企業は増えたが、設定金額自体は相対的に小さかったようだ。
 
次に、PBR1倍割れ企業について確認したところ、設定金額は0.55兆円と2022年の0.87兆円は下回ったが、過去5年平均の0.51兆円は上回った。設定件数も63件と、2022年の73件は下回ったが、過去5年平均の60件は上回った。2023年6~9月に2000年4月以降初めて自社株買いを実施した企業は6社あったが、そのうちPBR1倍割れの企業は1社のみだった。設定金額、設定件数ともに過去5年比較では増加しているものの、2022年を下回っており、2023年6~9月についても4~5月と同様に自社株買いの設定が特に増えている様子は見られなかった。

■PBR1倍割れ企業の株価はPBR1倍以上より大きく反応

■ PBR1倍割れ企業の株価はPBR1倍以上より大きく反応

自社株買い設定の発表は、アナウンスメント効果もあり株価には一般的にプラスに働くと考えられている。過去の集計では、平均して2~3%はTOPIXを超過する傾向があった。
 
2023年6~9月に自社株買いを設定した企業の株価はどうであったか。図表3は、自社株買いの設定を発表した企業全体およびPBR1倍以上とPBR1倍割れの株価推移をまとめたものである。左は2023年6~9月に自社株買いの設定を発表した企業、右は2018~2022年の6~9月に自社株買いを設定した企業について、自社株買い設定日を基準日(0日)として、対TOPIX超過収益率を単純平均している。①、④の灰色は自社株買い設定企業全体、②、⑤の青色はPBR1倍以上の企業、③、⑥のオレンジ色はPBR1倍割れ企業の株価推移である。
図表3 PBR1倍割れ企業の株価は発表翌営業日は全体よりも上昇
図表3を見ると、①の2023年6~9月に自社株買い設定を発表した会社全体では、発表翌営業日に対TOPIXで2.5%上昇と、④の2018~2022年6~9月の過去5年平均と同程度、上昇している。その後はほぼ横ばいで推移しており、2023年6~9月も引き続き自社株買い実施企業の株価は投資家からはポジティブに反応されていたようだ。
 
PBR1倍以上とPBR1倍割れ企業で株価推移に違いがあるか確認したところ、③の2023年6~9月に自社株買い設定を発表したPBR1倍割れ企業の株価は、発表翌営業日に対TOPIXで約4%上昇と、②のPBR1倍以上企業より約2%も大きく上昇し、その後もその差が維持されていた。⑤⑥の過去5年平均や2023年4~5月は、PBR1倍以上とPBR1倍割れ企業で株価推移に大きな差は見られなかったため、2023年はこれまでと変化がみられるといえよう。
 
ただし、自社株買いの実施は決算発表と合わせて公表されることが多いため、図表3の結果をもってPBR1倍割れ企業の自社株買いが、2023年に入ってより好意的に評価されたとは、一概には言えない。実際、今期業績見通しの下方修正や大幅減益を発表している企業は自社株買いの実施を発表しても、株価は下落する傾向が強かった。あくまでも業績に安心感や成長性が感じられなければ、自社株買いを実施しても評価はされないということだろう。とはいえ、PBR1倍割れ企業には好調な業績見通しとともに資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応策を発表している企業もあり、こうした企業の姿勢の変化が今までよりも注目を集めた可能性はありそうだ。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

(2023年10月30日「基礎研レター」)

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