2023年02月21日

資産形成に向いている投資商品とは何か-何に投資をしたら良いか迷うのであれば、iDeCoやつみたてNISAなどを活用すべき

金融研究部 研究員 熊 紫云

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【株式】
株式の場合、インカムである債券の利息に相当する配当がある銘柄が多い。ただし、債券と違って配当が実際に支払われるのか、いくら支払われるのかは確定しておらず、あくまでも予想や期待である。図表5で株式取引の具体例を見てみよう。
【図表5】株式
Aさんが株式会社の株式を100万円分購入し、時価110万円でBさんに売却した。Aさんの保有している間、会社が成長途上にあったため、配当はなかった。

次にBさんの保有している間も配当がないまま、Bさんは時価80万円でCさんに売却した。

次にCさんの保有している間、会社が順調に成長して売上好調で利益が出て10万円の配当があり、Cさんは時価110万円でDさんに売却した。

10年後、会社が成長した結果、株価が120万円に上昇し、Dさんは、保有期間中に配当の20万円を受け取った。

すると10年後の各投資家の損益状況は、Aさんが売却益+10万円、Bさんが売却損▲30万円、Cさんが配当受取+10万円、売却益+30万円で+40万円、Dさんが配当受取+20万円、含み益+10万円で+30万円である。投資家全員の利益合計はインカムである累計配当受取+30万円と会社の価値増加+20万円で、合計+50万円である。

業績が好調な会社の株式はインカム(配当)と長期的に価値が増加していく仕組みの両方が期待できる商品である。投資する会社の商品が好調に売れ、売上が増加し、利益が出ていれば、その利益の一部が配当として株主に支払われたり、内部留保として事業拡大に向けた投資などが行われたりする(図表6)。株価というものは投資家間の需給関係などによって理論的もしくは本質的な会社価値(ファンダメンタル・バリュー)から離れて変動する。しかし、今後も利益が入ってくることが見込まれる場合、会社価値が中長期的に増加していくとともに、株価も上がっていくことが十分期待できる。このように、株式には長期的に価値が増加していく仕組みがある。
【図表6】中長期の株価変動と会社価値の増加
株式は良い会社を数多く選択し分散投資すれば、今後の投資家全員の持ち分合計が増えていき、将来の投資家全員の利益合計がプラスとなるプラスサムゲームであることが合理的に期待できる。従って、株式の長期保有は「投資」であり、資産形成に向いている。適切な方法での株式投資は、けっしてギャンブルでも投機でもない。
【図表7】不動産 【不動産】
不動産は、債券の利息や株式の配当に相当するインカムである家賃収入がある。図表7でワンルームマンションやアパートをイメージして説明する。

大家さんが購入した不動産を入居者に貸し出し、毎月、入居者が家賃を大家さんに支払う。良い物件であれば、修繕費や管理費用等のコストはかかるものの、長期的に利益が出て、安定したインカムが期待できる。

また、自分の持ち家の場合も、定期的に家賃を払わなくても良いという経済的利益を享受できるので、賃貸マンションと同様にインカムがあると考えることが可能である。

不動産は良い場所にある複数の優良物件に分散投資し、適切に管理・運用すれば、長期的に利益が安定的にプラスになることが十分期待できるため、プラスサムゲームであると言える。不動産の長期保有は「投資」であり、資産形成に向いている。

4――資産形成に向いている貯蓄と投資の違い

4――資産形成に向いている貯蓄と投資の違い

リスクを取って長期保有をすることでお金を増やすことが期待できる「投資」と異なり、お金を貯めることで家計の基本となる「貯蓄」は元本保証があって基本的にリスクがない。

預貯金や元本保証型保険等、貯蓄商品は信用力がある銀行や保険会社などにお金を預けて運用してもらうことになるため、不確実性がなく安全性が高い。

また、多少ではあるが、貯蓄商品は利子がついたりするので、参加者全員の持ち分合計が大きくなり、利益合計が少しプラスになる。プラスサムゲームの貯蓄は資産形成に向いていると考えられる。

入学時期がほぼ決まっている教育資金など近い将来に必要な資金や、必要な時期が決まっている資金の準備は、安全性と換金性がより求められるので、元本毀損リスクがない貯蓄商品で対応すべきである1

一方、老後資金といった残りの投資期間が長い資金の準備であれば、積極的にリスクを取って長期保有のメリットを享受できる投資商品を購入して効率的に資産形成すべきである。
 
尚、一部のiDeCoなどでも取り扱いがある「金」は大昔から貴重な財産として取り扱われており、腐食耐性と換金性も高いので、長期的には値上がりして価値がゼロにならないという歴史的経緯から、多くの人から信用力が高く安全な資産として認識されている。また、インフレヘッジ機能があるとも言われている。

すべての財産を金にすることはお勧めできないが、少し保有するのであれば資産形成に向いていると思われる。ただ、金はやや特殊なので、このレポートでは説明しない。
 
1 一般社団法人全国銀行協会の資料(https://www.zenginkyo.or.jp/article/life/mariage/9836/)を参考した。

5――まとめ

5――まとめ

今回のレポートでは、参加者全員の利益合計がゼロかマイナスかプラスかという観点から、投機とギャンブル(賭け事)と投資の見分け方を説明してみた。
 
投機、ギャンブルや宝くじは、ゼロサムゲームもしくはマイナスサムゲーム、または将来の価値が不明なので資産形成に向いていない。一方、投資は参加者全員の持ち分合計が増えていき、将来の利益合計がプラスになると合理的に期待できるプラスサムゲームなので、資産形成に向いている。
 
投資には、インカムもしくは価値増加を期待できる仕組みがある。債券には利息、株式には配当、不動産には賃料収入という定期的にインカムを受け取る仕組みがある。さらに、株式には将来的な会社価値の増加を期待できる仕組みもある。これらは投資商品であり、長期で分散投資するなど、適切な投資手法で活用すれば、長期の資産形成に向いている。
 
尚、貯蓄は多少利子がついたりするので、参加者全員の利益合計がすこしプラスになるので資産形成に向いている。各人の資産状況、残りの投資期間、ライフプランと資金の目的に応じて、貯蓄商品と投資商品を使い分けることが望ましい。
 
多種多様な金融商品から、何に投資をしたらよいか迷う人は、良質な投資商品が数多くある現行つみたてNISA、新NISA(つみたて投資枠)、確定拠出年金制度(企業型DC及び個人型のiDeCo)等の税制優遇諸制度の対象である投資商品から選択すべきであろう。それでも迷う人は株式インデックス商品やバランス型などを選択しておけば良いと思う。(参考:熊 紫云「確定拠出年金では何に投資したら良いのか?-外国株式型、国内株式型、バランス型、外国債券型と国内債券型でパフォーマンスを比較してみた」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=70490?pno=3&site=nli

そして、十分な資産形成をするためには、適切な投資商品をよく吟味し慎重に選択して、少額でも良いので積立投資を始めるなど、資産形成に向けて、なるべく早く準備を始めることが何より重要であると考えている。まずは実際に投資を始めてみてはどうだろうか。

次回のレポートでは、資産形成に向いていないギャンブルと投機に注目して、FX取引の短期売買や暗号資産(仮想通貨)やNFTなどが投機であることについて説明するとともに、資産形成のために投資商品を活用する際のポイントについて述べていきたい。

 
【附表】まとめ
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   研究員

熊 紫云 (ゆう しうん)

研究・専門分野
資産運用・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     2020年   日本生命保険相互会社入社
     2021年4月 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年02月21日「基礎研レポート」)

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