2023年01月18日

全国旅行支援の利用状況-「第11回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」より

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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3――「全国旅行支援」を利用した理由~お得感は子育て世帯で強く、高収入層の旅行需要の後押しにも

1全体の状況~最多は割引額の魅力で過半数、次いでクーポン、そろそろ旅行へ行きたかったも3割超
「全国旅行支援」の利用状況で「複数回利用・利用予定」や「1回だけ利用・利用予定」、「利用を検討中」を選択した回答者に対して、利用した・利用を考えた理由を尋ねたところ、最も多かったのは「割引額が魅力的だから」(55.9%)で過半数を占め、次いで「クーポン券が魅力的だから」(45.7%)、「行きたい地域があったから」(38.1%)、「そろそろ旅行へ行きたいと思っていたから」(36.6%)までが3割を超えて続く(図表7)。

前節の結果を踏まえると、時間や経済的に比較的余裕のある層が、割引額等に魅力を感じ、積極的に旅行をしているという様子が見て取れる。
図表7 「全国旅行支援」を利用した・利用を考えた理由(複数選択、n=696)
2性年代やライフステージ別の状況~子育て世帯は割引額の魅力を強く感じ、高齢層は目的地も重視
性年代やライフステージ別に見ても、「割引額が魅力的だから」や「クーポン券が魅力的だから」が上位を占めるが、40歳代や第一子小学校入学では2位に「そろそろ旅行へ行きたいと思っていたから」があがる(図表8(a)・(b))。

全体と比べると、「割引額が魅力的だから」は30歳代(63.1%、全体より+7.2%pt)や第一子誕生(63.6%、同+7.7%pt)で、「クーポン券が魅力的だから」は30歳代(55.3%、同+9.6%pt)や20歳代(53.0%、同+7.3%pt)、第一子誕生(54.5%、同+8.8%pt)で、「行きたい地域があったから」は第一子独立(45.1%、同+7.0%pt)や末子独立(44.4%、同+6.3%pt)で、「そろそろ旅行へ行きたいと思っていたから」は30歳代(44.7%、同+8.1%pt)や第一子誕生(50.0%、同+13.4%pt)、第一子小学校入学(41.9%、同+5.3%pt)などの子育て世帯で、「時間的な余裕があったから」は第一子小学校入学(27.9%、同+8.5%pt)で多い。

つまり、性年代やライフステージによらず、「全国旅行支援」を利用する主な理由は割引額やクーポン券のお得感であるものの、子どもの年齢が比較的低い子育て世帯では、お得感をより強く感じている。また、高齢層では目的地が対象であることも重視する傾向がやや強いようだ。

なお、「物価高進行下の消費者の状況」(2022/10/21)で見た通り、子育て世帯ではコロナ禍で収入が減少した層が比較的多く、物価高への負担感が強いため、不要品の購入控えやポイントやセール等の活用、低価格製品への乗り換え、外食や洋服の購入、旅行などを控えるなど、あらゆる面で支出を抑制する工夫が見られた。また子育て世帯では従来から旅行やレジャー需要が強い。これらの背景が子育て世帯では「全国旅行支援」に対して、お得感をより強く感じていたり、「そろそろ旅行へ行きたいと思っていたから」といった理由が多いことにつながるのだろう。
図表8 性年代やライフステージ別に見た「全国旅行支援」を利用した・利用を考えた理由
3|職業や年収別の状況~高収入層は割引がきっかけというより、もともと旅行需要があり、施策が後押し
職業や年収別に見ても、割引額やクーポン券の魅力が上位を占めるが、自営業・自由業や無職では2位に「行きたい地域があったから」が、世帯年収1,000万円~1,200万円未満では首位に「そろそろ旅行へ行きたいと思っていたから」があがる(図表9(a)・(b)。(c))。

全体と比べると、「割引額が魅力的だから」は無職(61.2%、全体より+5.3%pt)や個人年収200万円未満(61.3%、同+5.4%pt)、世帯年収200万円未満(71.0%、同+15.1%pt)、世帯年収400~600万円未満(65.1%、同+9.2%pt)で、「行きたい地域があったから」は無職(47.8%、同+9.7%pt)や自営業・自由業(43.8%、同+5.7%pt)、世帯年収1,000万円~1,200万円未満(45.5%、同+7.4%pt)で、「そろそろ旅行へ行きたいと思っていたから」は専業主婦・主夫(42.7%、同+6.1%pt)や個人年収200万円未満(44.9%、同+8.3%pt)、世帯年収1,000万円~1,200万円未満(63.6%、同+27.0%pt)で、「行きたいホテルや旅館があったから」は専業主婦・主夫(28.2%、同+5.9%pt)や世帯年収200万円未満(29.0%、同+6.7%pt)で、「時間的な余裕があったから」は世帯年収800万円~1,000万円未満(29.3%、同+9.9%pt)で、「特に心配な感染状況ではないと思ったから」は個人年収600~800万円未満(18.8%、同+7.9%pt)で多い。

なお、以上にあげた全体と比べて何らかの理由が多い層のうち、60歳以上の割合(「全国旅行支援」利用・検討中の層全体では35.2%)が高いのは、職業別には無職(85.1%)や専業主婦・主夫(61.8%)、経営者・役員(58.3%)、自営業・自由業(45.8%)、個人年収200万円未満(50.7%)、世帯年収600万円未満(各層で5割前後)である。よって、これらの層で行きたい地域やホテル等があったという目的地も重視する理由が比較的多い背景には、前項で見たように、高齢層が多い影響があるのだろう。

また、世帯年収1,000万円~1,200万円未満でも目的地も重視する傾向が見られるが、当該層の60歳以上の割合は24.2%と低い。また、前述の通り、当該層では他層と異なり、首位が6割を超えて「そろそろ旅行へ行きたいと思っていたから」であった。よって、他層では「全国旅行支援」の割引額の魅力をきっかけに旅行を考えた一方、高収入層では、もともと旅行需要があったところに「全国旅行支援」が始まり、これが後押ししたといったプロセスの違いがある様子がうかがえる。
図表9 職業や年収別に見た「全国旅行支援」を利用した・利用を考えた理由

4――「全国旅行支援」を利用していない理由

4――「全国旅行支援」を利用していない理由~経済的余裕のなさ、高齢層は感染不安、雇用者等は日程

1全体の状況~最多は「経済的な余裕がないから」で29.6%、次いで感染不安が約2割
「全国旅行支援」の利用状況で「利用していない・利用予定はない」を選択した回答者に対して、利用していない理由を尋ねたところ、最も多かったのは「経済的な余裕がないから」(29.6%)であり、次いで「(新型コロナウイルスに対する)感染不安から、外出を控えているから」(21.5%)、「国内の感染者数が増えているから」(20.3%)までが2割を超えて続く(図表10)。なお、「特に理由はない」(19.3%)も約2割を占めて目立つ。
図表10 「全国旅行支援」を利用していない理由(複数選択、n=1,657)
2性年代やライフステージ別の状況~高齢層は感染不安、子育て世帯は経済的余裕のなさと日程あわず
性年代やライフステージ別に見ても、「経済的な余裕がないから」が上位を占めるが、70~74歳や孫誕生では首位に「感染不安から、外出を控えているから」があがる(図表11(a)・(b))。

全体と比べると、「経済的な余裕がないから」は第一子高校入学(38.9%、全体より+9.3%pt)で、「感染不安から、外出を控えているから」は70~74歳(35.5%、同+14.0%pt)や60歳代(28.0%、同+6.5%pt)、孫誕生(33.4%、同+11.9%pt)、第一子独立(30.7%、同+9.2%pt)で、「国内の感染者数が増えているから」は70~74歳(30.6%、同+10.3%pt)や60歳代(25.9%、同+5.6%pt)、孫誕生(27.9%、同+7.6%pt)、末子独立(26.8%、同+6.5%pt)で、「スケジュールがあわなかったから」は40歳代(25.7%、同+8.9%pt)や第一子誕生(31.3%、同+14.5%pt)、第一子小学校入学(26.0%、同+9.2%pt)、第一子高校入学(25.9%、同+9.1%pt)、第一子大学入学(23.9%、同+7.1%pt)で、「特に(旅行へ)行きたい・(ホテルに)泊まりたいと思っていなかったから」は70~74歳(23.4%、同+6.6%pt)で、「ワクチン接種証明等を用意できないから」は第一子小学校入学(14.6%、同+7.4%pt)で、「すでに(行きたい地域やホテルの申し込み枠が)上限に達しており、申し込めなかったから」は第一子誕生(13.4%、同+10.1%pt)で多い。また、「特に理由はない」は20歳代(30.2%、同+10.9%pt)や30歳代(25.4%、同+6.1%pt)で多い。

つまり、「全国旅行支援」を利用していない主な理由は、感染による重篤化リスクの高い高齢層では外出自粛によるもの、子育て世帯では経済的な余裕のなさに加えて、学校生活と日程があわないことなどがあがる。
図表11 性年代やライフステージ別に見た「全国旅行支援」を利用していない理由
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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