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どんな方式でも落札額は同じ!?-オークション理論「収入同値定理」の考え方

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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絵画や造形などの美術品や骨董品のオークションは、昔からよく行われている。ときどき、海外から、著名な音楽家が愛用していた楽器や、スポーツのスター選手が試合で着用したシューズが、時価〇億円で落札された、といったニュースが流れてくることもある。だが、そうしたオークションハウスで行われるようなオークションに参加した経験がある、という人は限られるだろう。
ただ、近年は、インターネット上でのオークションが当たり前に行われるようになっている。有名人が自身の所有物を出品して、収益金が社会貢献や自然保護などの活動資金として寄付されるチャリティオークションもネットで行われている。こうしたネットオークションへの参加であれば、経験がある人も多いはずだ。
オークションの入札の形式や、落札額の決定方法にはいくつか種類がある。ただ、ある条件下では、平均的には落札額はオークションの種類によらないという「収入同値定理」が成り立つという。今回は、オークションと、この定理について見ていくこととしよう。
◇ オークションは、“不完備情報ゲーム”
囚人のジレンマでは、各囚人が黙秘した場合と自白した場合の利得がそれぞれの囚人、つまりプレーヤーによく理解されている。こういうゲームは、“完備情報ゲーム”と言われる。
ただ、社会では、競争条件のルールや、競争関係にある相手の手の内がよくわからないままに、行動(プレイ)せざるを得ない状況がしばしばある。こうした利得に関する情報が完備ではないゲームは“不完備情報ゲーム”と言われる。
オークションでは、出品されたものに各参加者がどういう評価額をつけているのかがわからない。このため、オークションは不完備情報ゲームの一種とされる。
◇ オークションには、いくつかの入札形式がある
まず、入札形式。公開入札と封印入札がある。公開入札では、自分の入札額が他の人にわかってしまう。美術品などのオークションは、通常、低い価格から始まる。参加者が徐々に高い値段を入札していくことで、価格が競り上がっていく。このため、「価格競上げ式オークション」と呼ばれる。
ネットオークションでも、入札額が他の参加者にわかる仕組みとなっていることが一般的であり、価格競上げ式オークションの一種とされる。
プロが参加する市場の競りの多くも、この価格競上げ式で行われる。だが、伝統的に、生花の競りでは、“下げ競り”という独特の方式がとられる。高い価格から始まって、価格が下がっていき、参加者のうち誰かが入札した段階で落札となる。これは、「価格下降式オークション」と呼ばれる。
価格競上げ式オークションや価格下降式オークションは、公開入札の形式で行われる。一方、国や地方自治体の公共事業の発注時のオークションは、入札額が他の人にわからない形で行われる。これは、封印入札の形式と言える。
◇ 落札額・支払額の決定方法にも、さまざまな種類が考えられる
これとは別に、最も高い金額を入札した買い手が落札するが、支払額は2番目に高い入札額とする「二位価格オークション」もある。
二位価格オークションは何か複雑な感じがするが、ネットオークションではこの二位価格での落札が一般的とされる。ネットオークションでは、自動入札や代理入札と言われる仕組みが取られることが多い。まず、参加者は、自分の入札額の上限を指定する。システムはその指定された金額の中で、それまでの入札額のうち最も高い額に少しだけ上乗せした金額を入札する。つまり、指定額を最終的な入札額と見た場合に、落札可能となるよう二位価格で入札するわけだ。
他の参加者が入札して、入札された最高額が上がった場合、システムが自動的にその最高額に少しだけ上乗せした金額を入札する。このようにして、二位価格での支払いを維持しながら落札を目指していくというものだ。
この他にも、落札者の支払額を入札額のうちの最高額と2番目に高い額の平均とする方法。落札の有無にかかわらず、入札した人は自分の入札額を必ず支払わなくてはならない方法など、いろいろな種類のオークションが考えられるようだ。
◇ どんな方式でも落札額は同じ !?
この定理は、次の2つの条件が成り立つ場合、平均的に、落札額はオークションの入札形式や落札額の決定方法に左右されない、というものだ。
・買い手の評価額が同一の分布から引き出され、他の参加者の入札結果に左右されない
・すべての参加者が金銭価値を期待値で把握する
この定理の内容は、一見すると、かなり意外な感じがするかもしれない。一位価格オークションでも、二位価格オークションでも平均的には、落札額は変わらない。価格競上げ式オークションも価格下降式オークションも落札額の平均は同じ、ということを主張していることになる。
売り手からすれば、どのやり方でも落札額、つまり受取額は平均的に同じになるのだから、オークションの形式や種類をどうするか、あれこれ悩む必要がないということになる。
これは、オークション理論の代表的な定理とされている。1996年にノーベル賞を受賞したアメリカの経済学者ウィリアム・ヴィックリーは、この理論の開拓者であり、公開入札の価格競上げ式オークションと封印入札の一位価格オークションが平均的に同等となることを示した。その後、収入同値定理を大幅に一般化したアメリカの経済学者ロジャー・マイヤーソンは、2007年にノーベル経済学賞を受賞。さらに、2020年には、オークション理論の発展や実用化への貢献により、ポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンの、アメリカの経済学者2氏にノーベル賞が授与されている。
◇ 定理について大まかな考え方を見ていく…
本稿では、そうした計算は専門書に譲ることにして、大まかな考え方を見ていくことにしよう。
(価格下降式オークション = 一位価格オークション)
まず、価格下降式オークションと一位価格オークションの落札額は、定理の条件によらず、常に同じになる。価格下降式で価格が下がっていくときに入札してその金額を支払って落札することは、参加者のうち最も高い価格を入札してその金額を支払って落札することと同じだからだ。
(価格競上げ式オークション = 二位価格オークション [定理の条件が成り立つ場合])
次に、1つ目の条件のうち、買い手の評価額が他の参加者の入札結果に左右されない、という部分が成り立つ場合には、価格競上げ式オークションと二位価格オークションの落札額が同じになる。
価格競上げ式では、買い手は最終的な入札額、つまり入札額の上限を胸に秘めつつ、入札そのものは、それまでの入札額のうち最も高い額に少しだけ上乗せした金額を入札していく。そして、新たな入札が行われなくなったときに落札者が決まる。これは、一斉に入札した場合に最高額を入札した買い手が二位の価格を支払って落札することと同じことになるからだ。
ただし、入札額の上限が、他の参加者の入札行動によって変化してしまうようだと、価格競上げ式オークションと二位価格オークションの落札額は一致しなくなる。買い手の評価額が他の参加者の入札結果に左右されないことが、条件となるわけだ。
(一位価格オークション = 二位価格オークション [定理の条件が成り立つ場合])
理解が難しいのが、一位価格オークションと二位価格オークションの落札額が同じになる点だ。一見すると、一位価格オークションと二位価格オークションで落札額は異なるように見える。
だが、一位価格オークションでは、通常、買い手は、自分の評価額をそのまま入札することはしない。評価額を入札して落札できたとしても、評価額と落札額の差として計算される、金銭的なお得感(=「効用」)は得られないためだ。
一位価格オークションでは、買い手は、自分の評価額の範囲内で落札できると見込まれる最低の金額を入札する、つまり効用を最大化することを目指すこととなる。しかし、オークションは不完備情報ゲームなので、その金額がいくらなのかはわからない。
そこで、オークションを数式を使ってモデル化して、効用の平均値(=「期待効用」)が最大となるような入札額を計算してみよう、ということになる。(ここで、「すべての参加者が金銭価値を期待値で把握する」という定理の条件が成り立つことが前提となっている。)
定理の2つの条件が成り立つとして、条件のうち、「買い手の評価額が同一の分布から引き出され」の部分で、「同一の分布」を“一様分布”とした場合を考えてみる。この場合、参加者がn人の一位価格オークションでは、買い手は、「評価額に (n-1)/n を掛け算した金額」で入札すると期待効用を最大化できる、ということが計算で示される。たとえば、オークションの参加者が10人 (n=10) の場合は、評価額の9割で入札する、といった具合だ。
これに対して、二位価格オークションでは、買い手はそれぞれ、自分の評価額をそのまま入札する。落札できた場合に、入札額が落札額に直接影響しないからだ。落札額は二位価格、つまりこの場合は落札者の評価額の9割となる。その結果、一位価格オークションと二位価格オークションの落札額が揃うこととなる。
もっと一般に、買い手の評価額の分布を一般の分布とした場合でも、一位価格オークションで最高の評価額を持つ買い手は、二位価格で入札することで期待効用を最大化できることが示される。つまり、平均的に、2つのオークションの落札額は同じになる。
※ 一位価格オークションで、二位価格で入札すると、入札額の最高額が複数となる可能性がある。最終的な落札者をどう決定するかという問題が生じるが、これについては本稿では論じない。
(2023年01月17日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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