2022年03月15日

J-REIT市場の動向と収益見通し。今後5年間で+8%成長を見込む~コロナ禍で剥落した収益回復分を除けば、横ばいとなる見通し

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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賃貸マンションはテナント入替時の賃料上昇が大きく鈍化。東京23区は人口流出に転じる
住宅系REIT主要5社の開示資料によると、テナント入替時の賃料変動率は大きく鈍化し、2021年下期は5社平均で+1.4%となった(図表―9)。この要因の1つに、保有マンションの7割を占める東京23区の人口流出が挙げられる。住民基本台帳人口移動報告によると、2021年の転入超過数は▲14,828人となり、1996年以来の転出超過となった(図表―10)。また、リーシング・マネジメント・コンサルティングのデータによると、東京都心5区に所在する賃貸マンションの募集賃料(月坪)は直近のピーク水準から5区平均で▲5%下落している。こうした市場環境を勘案し、テナント入替時の賃料上昇率は直近実績と同水準である+1%を想定する。
[図表-9] 賃貸マンションのテナント入替時の賃料変動率(住宅系REIT主要5社)/[図表-10] 東京23区の転入超過数(月次累計値)
コロナ禍による減収金額(2021年下期)は▲298億円。本格回復は2023年以降となる見通し
J-REIT各社の開示資料をもとにコロナ禍による減収金額(変動賃料の減少や賃料減免など)を推計すると、2021年下期は合計で▲298億円となり、経常利益を▲9%押し下げる結果となった(図表―11)。内訳は、ホテル(88%)と商業施設(11%)で全体の99%を占める。本来、コロナ禍に伴う減収は一過性のものであり、翌年以降、DPUの押し上げ要因となる。しかし、年明け以降もコロナ第6波に伴う経済活動の制約が繰り返されるなか、ホテル市場や商業施設の回復時期は後ずれする可能性が高い。そこで、減収金額については、減収額の8割が2023年から2026年にかけて段階的に回復することを想定する。
【図表-11】コロナ禍に伴う減収金額(億円)
借入利率の変動によるDPUへの寄与度は今後5年間でゼロとなる見通し
日銀による金融緩和策が継続するなか、J-REIT各社は好条件でデット資金を調達できている。2021年にJ-REITが発行した投資法人債の平均利率は0.50%(期間9.8年)で、J-REIT全体の負債利子率(融資関連費用を含む)を下回り、支払利息の減少がDPUにプラス寄与している(図表―12)。

ところで、ニッセイ基礎研究所の中期経済見通し3によると、「日銀の長短金利操作のもと、10年国債利回りは現状よりも多少上振れるものの、日銀の設定するレンジの上限(0.25%程度)が壁となり、上昇幅は限定的となる(メインシナリオ)」としている(図表―13)。この金利見通しを利用して、一定の前提条件(稿末に記載)のもと借入利率の変動に伴うDPUへの寄与度(今後5年間)を計算した。結果はメインシナリオでゼロとなり、借入利率の変動は業績に対して概ね中立となる見通しである。
[図表-12] :負債利子率、10年国債利回り、投資法人債利率の推移/[図表-13] 10年国債利回りの見通し(2021年度~2026年度)
2021年は取得利回りが大きく低下。今後の外部成長はDPUにプラス1%寄与する見通し
J-REITによる物件取得(外部成長)は、高い水準を維持している(図表―14)。2021年の取得額は1.6兆円(前年比+15%)となり、2019年並びに2020年の取得額(ともに1.4兆円)を上回った。一方で、国内外の投資マネーが流入し不動産利回りが低下するなか、2021年の取得利回りは4.1%となり大きく低下した。

そこで、現在の取得環境を踏まえて、今後の外部成長について以下のシナリオを想定しDPUへの寄与度(今後5年間)を計算した(年1.5兆円取得、取得利回り4.1%、借入比率50%、増資PBR1.4倍4、借入利率:金利シナリオに準ずる)。結果は、取得利回りが既存ポート利回りを下回るものの、プレミアム増資(高PBR)の効果によりプラス1%寄与する見通し5である。しかし、プレミアム増資はREIT価格の水準に大きく依存することに留意する必要がある。
【図表-14】J-REITによる物件取得額と取得利回り
 
4 2月末時点の市場平均PBR(株価純資産倍率)は1.4倍である。
5 取得利回りの低下に伴う総資産利益利率(ROA)の悪化を、プレミアム増資に伴う1口当たり純資産の上昇が補いプラスに寄与する。
今後5年間のDPU成長率は+8%(年率+1.6%)となる見通し
最後に、上記で設定したシナリオをもとに今後5年間のDPU成長率を試算した(図表―15)。オフィス賃料(標準)と金利(メインシナリオ)を組み合わせた場合、DPU成長率は+8%(年率+1.6%)となり、業績の回復が期待できる結果となった。内訳は内部成長が7%(このうちコロナの収益回復が8%)、外部成長が1%、財務がゼロとなる。2022年は概ね横ばいで推移するものの、来年以降、回復に向かう見通しである。ただし、DPUの成長ドライバーはコロナ禍により剥落した収益の回復であり、この要因を除くとDPUは概ね横ばいで推移する見通しである。また、オフィス賃料上振れ(楽観)と金利低下を組み合わせた場合、DPU成長率は+18%(年率+3.6%)、オフィス賃料下振れ(悲観)と金利上昇を組み合わせた場合、DPU成長率は+3%(年率+0.6%)となった。

現状、長引くコロナ禍の影響に加えて金融市場、国際情勢が不安定さを増すなか、J-REIT市場の不確実性は一段と高まっている。引き続き、不動産ファンダメンタルズや金利動向、グローバルの資金フローについて注意深く分析することが求められそうだ。
[図表-15] :今後5年間のDPU見通し(2021年下期=100)
<主な前提条件>
 
 

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2022年03月15日「基礎研レポート」)

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