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インド経済の見通し~感染爆発の第2波を乗り越えたが、感染リスクがくすぶり、当面は緩慢な回復が続く(2021年度+9.2%、2022年度+6.3%)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠
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経済概況:昨年の都市封鎖の反動増で過去最高の上昇率に

4-6月期の実質GDPを需要項目別にみると、内需は民間消費が同+19.3%(前期:同+2.7%)、総固定資本形成が同+55.3%(前期:同+10.9%)となり、それぞれ大幅に上昇した一方、政府消費は同▲4.8%(前期:同+28.3%)と減少した。
外需は、輸出が同+39.1%(前期:同+8.8%)、輸入が同+60.2%(前期:同+12.3%)と、それぞれ大きく増加した結果、純輸出の成長率寄与度は▲3.6%ポイント(前期:▲1.0%ポイント)とマイナス幅が拡大した。
4-6月期の成長率の大幅な上昇は主にベースの効果の影響が大きいとみられる。インドでは3月中旬に新規感染者数が1日当たり2万人まで増加すると、英国型の変異株やインド由来の二重変異株による感染爆発が生じて第2波が到来し、5月上旬には1日当たり40万人を突破して深刻な医療崩壊が生じた(図表2)。国内各地では州独自の封鎖措置が敷かれることとなり、4-6月期は経済活動に急ブレーキがかかることとなった。しかし、中央政府は昨年の経済打撃を鑑み、全土封鎖に踏み切らなかったため、前年同期と比べて実質GDPの落ち込みが小幅に止まり、成長率(前年同期比)は急上昇した。Googleが提供するCOVID-19コミュニティモビリティレポートによると、小売・娯楽関連施設への人流は5月中旬にコロナ前の6割減となったが、全土封鎖が敷かれた前年の8割減と比べて減少幅は抑制されている(図表3)。このように4-6月期の実質GDPは見かけ上、高い伸びを記録したが、コロナ前(2019年10-12月期)より1割ほど低い水準であった。
需要項目別に見ると、民間消費(同+19.3%)と総固定資本形成(同+55.3%)がそれぞれコロナ前より約1~2割ほど低い水準にとどまる一方、政府消費(同▲4.8%)と輸出(同+39.1%)はそれぞれコロナ前より約1~2割ほど高い水準にある。緩和的な財政・金融政策や世界経済の回復による輸出の拡大がインド経済の回復をけん引している。

産業部門別に見ると、第一次産業は同4.5%増(前期:同3.1%増)と堅調に拡大した。農業部門はコロナ禍でも一貫してプラス成長を続けている。
第二次産業は同46.1%増(前期:同7.9%増)と大きく上昇した。製造業が同49.6%増(前期:同6.9%増)と好調だったほか、建設業(同68.3%増)が力強く回復した。このほか、電気・ガス(同14.3%増)と鉱業(同18.6%増)がそれぞれ二桁成長となった。
第三次産業は同11.4%増(前期:同1.5%増)と急上昇した。対面型サービス業を中心に感染第二波の影響を受けたものの、前年同期からの反動増によって商業・ホテル・運輸・通信が(同34.3%増)とプラスに転じた。また行政・国防(同5.8%増)は回復が続いた一方、金融・不動産(同3.7%増)は鈍化した。
1 8月31日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2021年4-6月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
経済見通し:当面は感染リスクがくすぶり緩慢な回復、来年はワクチン普及に伴い回復強まる
しかし、人流の増加を受けて新規感染者数が直近2週間で2万人台から4万人台まで増加しており、足元の感染状況は再び悪化しつつある。9~11月はガネーシュ・フェスティバルやナヴラトリ、ディワリを控える祭事期であり、社会的距離の確保やマスク着用・手指消毒などの感染対策への意識が下がりやすい。州政府は慎重なペースで活動制限の緩和を進めており、祭りや宗教的集会に対して制限を課しているが、今後1~2ヵ月で感染第3波が到来する恐れがある。もっとも、感染第3波が生じた場合、その経済活動の落ち込みは第2波より小さくなるだろう。特に対面型サービス業への影響はワクチン接種の進展により抑制されたものとなりそうだ。
来年は世界的にワクチンの普及が進むなかで内外需要が増加し、今年に比べてしっかりとした成長となりそうだ。インド政府は年内に全ての成人に対するワクチン接種を目指している。現在のところ成人人口(9億4,400万人)の約55%が部分接種を終え、約16%が完全接種を終えているが、欧米に比べて遅れている。しかし、最近はワクチン接種ペースが加速して1日約900万回まで増えてきている。もう1段階加速させることができれば目標達成が不可能ではない段階まできている。ワクチンの効果はどの程度持続するのか、はっきりとしていないが、都市封鎖まで感染状況が悪化するリスクは徐々に低下していくと予想される。こうして22年度はワクチン接種の更なる進展により、これまで回復が遅れていた対面型サービス業が持ち直し、経済活動は安定感が増していくだろう。
また国内外の需要拡大を受けて製造業は引き続き経済成長の牽引役となるだろう。政府は経済再生を優先して道路や鉄道、農村開発などのインフラ整備を拡大させており、緩和的な金融政策の継続も景気の下支えとなりそうだ。
実質GDPは、前年度が低水準だったことによる反動増により21年度の成長率が前年度比+9.2%(20年度の同▲7.0%)と上昇し、ワクチン普及に伴う経済回復により22年度が同+6.3%と高めの成長が続くと予想する(図表6)。
(物価の動向)供給網混乱による押し上げ圧力は和らぐが、内需回復によって横ばいの推移

先行きのインフレ率は、原油価格上昇に伴うエネルギー価格の上昇や南西モンスーンの雨不足による食品価格の上昇などが押し上げ要因となる一方、行動規制の緩和による供給網の改善がインフレ抑制に繋がり、横ばい圏の推移が予想される。来年はワクチン接種の進展により内需の回復が加速すること、また輸入急増に伴う経常収支の悪化によってルピー安が進み、輸入インフレが物価の押し上げ要因となるだろう。しかし、世界的な供給網の改善が進むほか、来年度年後半と予想する利上げなどによって持続的な物価上昇には至らず、インフレ率は物価目標の中央値をやや上回る水準で推移すると予想する。結果として、インフレ率は高水準の続いた20年度の+6.2%から21年度が+5.3%まで低下し、22年度は+5.0%と概ね横ばいの推移を予想する。
(金融政策の動向)来年前半まで金利据え置きを予想

先行きは、RBIが来年前半まで政策金利を据え置くと予想する。当面は経済の本格的な回復が見込めず、インフレ率は目標圏内に収まると予想され、現行の緩和的な金融政策が維持されるだろう。しかし、来年後半は内需の回復ペースが強まるなか、ルピー安に伴う輸入インフレの進行を未然に防ぐために段階的な利上げを実施する展開を予想する。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年09月03日「基礎研レター」)

03-3512-1780
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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