2021年05月19日

韓国の生命保険市場の現状-2019年と2020年のデータを中心に-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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1――加入状況

韓国の保険研究院(KIRI)が2019年に実施したアンケート調査1の結果によると、2019年における生命保険の世帯加入率は80.9%で、2018年の85.9%に比べて5.0%ポイントも低下した2。さらに、生命保険加入世帯の平均加入件数は3.0件で2018年の3.7件に比べて0.7件減少している(図表1)。
図表1 韓国における生命保険の世帯加入率や生命保険加入世帯の平均加入件数の動向
地域別には、大都市の加入率が83.5%で、中小都市(78.9%)と郡地域(78.3%)を上回っている。世帯主の年齢階層別には50代が87.9%で最も高く、次いで40代(86.0%)、30代(77.4%)の順であった。世帯主が60代以上世帯の加入率は、2018年の84.0%から2019年には74.4%に大きく減少した。また、所得階層別には高所得世帯の加入率が86.3%で、中所得世帯(80.8%)や低所得世帯(73.1%)より高く、所得水準が高い世帯ほど加入率が高いという結果となった(図表2)。
図表2 地域及び世帯属性別加入率
2019年における生命保険の商品別世帯加入率は、疾病保障保険が61.0%で最も高く、実損填補型医療保険(33.3%)、死亡保険(19.9%)、災害傷害保険(15.5%)などの他の商品の加入率を大きく上回った(図表3)。一方、2019年における生命保険の個人加入率は72.7%で、2018年の79.5%に比べて6.8%ポイント低下した。加入率を男女別にみると女性が75.0%で、男性の70.4%より高く、婚姻状態別には、既婚者が76.0%で未婚者の62.1%を大きく上回った(図表4)。
図表3 生命保険の商品別世帯加入率
図表4 生命保険の個人加入率や個人加入件数の動向(性別・婚姻状態別)
 
1 保険研究院(2019)「保険消費者アンケート調査」、調査対象:全国(済州道を除く)の満20歳以上の男女2,464人、調査期間:2019年6月3日~2019年7月22日。
2 一方、2019年における損害保険の世帯加入率は88.5%で2018年の91.0%より2.5%ポイント低下した(2019年の加入世帯の平均加入件数は3.5件)。
 

2――収支の概況

2――収支の概況

2020年第2四半期における生命保険会社の保険料収入総額は27.4兆ウォンで、対前年同期比2.8%増加した。商品類型別の保険料収入は、保障性保険と貯蓄性保険が増加したことに比べて、退職年金と一般団体保険は減少した(図表5)。
図表5 生命保険の商品類型別保険料収入の推移

3――市場シェアの推移

3――市場シェアの推移

2020年第2四半期における生命保険市場の市場シェア(保険料収入が基準)は、大手3社(サムソン生命、ハンファ生命3、教保生命)が47.1%で、中小生命保険会社の32.1%や外資系生命保険会社の20.7%を上回った(図表6)。
図表6 生命保険業界の市場シェアの動向
 
3 2010年9月以前には大韓生命。

4――販売チャネル

4――販売チャネル

生命保険の販売チャネルの推移を初回保険料を基準としてみてみると、過去には保険外交員による販売が多かったものの、バンカシュアランスが登場してからは保険外交員のシェアは低下傾向にある。2020第2四半期におけるバンカシュアランスと保険外交員のシェアはそれぞれ55.2%と11.7%で前年同期に比べて4.9%ポイントと0.1%ポイント減少した。このように両販売チャネルのシェアが減少した理由は、新型コロナウイルスの感染拡大により対面より非対面の販売チャネルが強化された点が挙げられる。
図表7 生命保険の販売チャネルの推移(初回保険料基準)

5――結びに代えて

5――結びに代えて

新型コロナウイルスの影響が長期化する中、韓国における2020年第2四半期の生命保険の総資産は937兆ウォンで、前年同期の890兆ウォンに比べて5.3%増加した。また、同時点の保険料収入総額は27.4兆ウォンで、対前年同期比2.8%増加した。新型コロナウイルスの影響にもかかわらず、保険料収入が増加した理由としては保障性保険と貯蓄性保険の販売が増加した点が挙げられる。

しかしながら、韓国における今後の生命保険市場の見通しは明るいとは言えない。2020年に史上初めて人口が減少し、2020年には合計特殊出生率が0.84と過去最低を更新するなど少子高齢化が急速に進んでいるからだ。さらに、2023年からは15歳から64歳までの生産可能人口も減少すると予想されている。韓国より先に人口減少社会を経験した日本の生命保険業界の対応を参考に、迅速で緻密な対策を実施する必要がある。韓国の生命保険業界の今後の対応に注目するところである。

参考文献

日本語  
韓国語
  • 保険研究院(2017)「2017年保険消費者アンケート調査」
  • 保険研究院(2018)「2018年保険消費者アンケート調査」
  • 保険研究院(2020)「2019年保険消費者アンケート調査」
  • 保険研究院「保険動向」各号
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~  日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2021年05月19日「保険・年金フォーカス」)

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