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韓国の老人長期療養保険制度の現状と課題-2020年3月現在-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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韓国における老人長期療養保険制度は、高齢や老人性疾患などが原因で日常生活を一人で営むことが出来ない高齢者等に身体活動あるいは家事支援等の老人長期療養保険制度からのサービスを提供することにより高齢者の老後の健康増進や生活安定に寄与し、その家族の負担を減らすことで国民の生活の質を高めることを目的としている。
韓国の老人長期療養保険制度は、日本の介護保険制度をモデルとして研究して導入されたものの、制度の施行においては被保険者層を拡大し、手続きやサービスの内容を簡素化するなど国の財政的・行政的負担を最小化しようとした。例えば、日本の介護保険制度は40歳以上を被保険者(65歳以上の高齢者は第1号被保険者、40~64歳までは第2号被保険者)にしたことに比べて、韓国の老人長期療養保険制度は、公的医療保険の被保険者すべてを老人長期療養保険制度の対象にしている。
保険料率は日本が介護保険の保険料率を別に設定しているのに比べて、韓国は公的医療保険の保険料に一定比率(2019年基準8.51%)をかけて計算している。
一方、サービスが利用できる対象者は65歳以上の高齢者や65歳未満の老人性疾患を抱えている者に制限した。財源の仕組みは両国ともに保険料と国庫負担、そして自己負担を基本にしているものの、介護サービスを利用するときの自己負担割合は日本が在宅・施設サービスともに10%に設定していることに比べて、韓国の場合は在宅15%、施設20%で日本より自己負担割合を高く設定した。
このように韓国が日本よりサービス利用時の自己負担割合を高く設定しているのは「財政支出の最小化」という韓国政府の財政運営方針に基づいていると考えられる。これは政府支出の対名目GDP比や債務残高の対名目GDP比からも間接的に確認することができる。実際、2017年における韓国の政府支出の対名目GDP比は32.4%でOECD平均(加重平均)38.7%を下回っており、OECD加盟国の中でこの比率が韓国より低い国はメキシコとアイルランドのみであった(図表6)。
長期療養給付の申請者は図表8の等級判定手続きによって「認定者」と「等級外」に区分される。等級判定は日本のコンピュータによる判定等を省略することによって簡素化した。また、日本が介護認定の「等級」を軽い症状から順に、「要支援1」、「要支援2」、「要介護1」、「要介護2」、「要介護3」、「要介護4」、「要介護5」と7段階に区分していることに比べて、韓国は軽度のものから順に「5等級」、「4等級」、「3等級」、「2等級」、「1等級」と5段階に区分している(図表9、導入初期には3段階であったものの、2014年から5段階に拡大実施)。1等級から5等級までの認定者は長期療養認定書に書かれている「長期療養等級」、「長期療養認定有効期間」、「給付種類及び内容」に基づき、自ら選んだ施設等と契約を結ぶことにより長期療養給付を利用することができる7。韓国には日本のケアマネジャーのような仕組みがないので、サービス利用者は自ら利用するサービスや施設を決めている。一方、「等級外」として判定された者は地方自治体が提供する、情報サービスや老人福祉館の利用など一部のサービスしか利用できない。長期療養等級の有効期間は1等級が3年で、2等級~5等級は2年である。さらに、韓国政府は、2018年から軽い認知症の症状がある高齢者を対象とする「認定支援等級」を新設し、認知症の進行を遅らせるためのプログラムも提供している。
7 長期療養認定書が到着した日から長期療養給付を利用することができる。
図表12は、老人長期療養保険制度の管理・運営体系を示しており、保健福祉部や地方自治団体、国民健康保険公団、被保険者、長期療養サービス事業者の間に密接な関係があることが分かる。つまり、制度の主な指導及ぶ監督は保健福祉部や地方自治団体が担当する代わりに、等級判定やサービスモニタリングの実施、資格管理・保険料の賦課・徴収、等級判定委員会の運営という業務は国民健康保険公団が担当している。また、被保険者は保険料を納める義務があり、老人長期療養保険制度からのサービスの利用を希望する時には等級判定を申込み、認定されたらサービスに対する利用者負担金を支払うことによりサービスを利用することができる。長期療養サービス事業者が提供サービスは在宅サービスと施設サービスがあり、在宅サービスとしては、訪問療養、訪問入浴、訪問看護、昼・夜間保護、短期保護、福祉用具の購入・貸与などのサービスが提供され、施設サービスは老人療養施設や老人療養共同生活家庭(グループホーム)で利用することができる。
(2020年03月30日「基礎研レポート」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
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