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- 今なぜ働き方改革が進んでいるのだろうか?-データで見る働き方改革の理由-
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2――働き方改革が急速に進んでいる三つの理由
日本政府が最近、働き方改革を進めている一つ目の理由として、日本の人口、特に労働力人口が継続して減少していることが挙げられる。2016年1月1日現在の日本の人口は1億2,682万人で、ピーク時の2008年12月の1億2,810万人に比べて128万人も減少した。また、労働力人口も1998年末の6,793万人から2015年末には6,598万人まで減少している。さらに、労働力人口を15~64歳(生産可能人口)に限定すると状況はより深刻である。全人口に占める15~64歳年齢階層の割合は1920年の58.3%から1992年には69.9%まで上昇したが、その後は減り続け、2015年には60.8%で1955年の水準(61.2%)まで減少した。一方、同期間における65歳以上人口の割合は5.3%から26.7%に大きく増加した。全人口に占める15~64歳年齢階層の割合の減少は、生産活動に参加できる人口、つまり生産可能人口の縮小を意味する。日本では1996年から15~64歳の人口が減少し始めており、さらに2012年からはその減少幅が大きくなり、毎年80万人以上の生産可能人口が減っている状況である。
このように少子高齢化が進行し、労働力人口が減少している中で、企業は労働力を確保するために、既存の男性正規職労働者を中心とする採用戦略から脱皮し、女性、高齢者、外国人などより多様な人材に目を向ける必要性が生じた。しかしながら、既存の働き方は、急な配置転換や転勤、サービス残業や仕事が終わってからの上司や同僚との飲会等に耐えられる男性正規職労働者に向いており、育児や家事を主に分担している女性、フルタイム仕事よりはパートタイム仕事を希望する高齢者、日本の企業文化に慣れておらず、長時間勤務に抵抗感がある外国人労働者を活用するためには限界があった。そこで、将来の労働力を確保し、成長戦略を実施するためには同じ場所で社員皆が長時間働く既存の働き方を全面的に修正し、社員一人一人の状況に合わせたより多様な働き方の実現が要求されることになった。
働き方改革を推進している二つ目の理由としては日本の長時間労働がなかなか改善されていない点が挙げられる。2015年に政府が発表した「「日本再興戦略」改訂2015―未来への投資・生産性革命」では、「長期的な視点に立った総合的な少子化対策を進めつつ、当面の供給制約への対応という観点からは、労働生産性の向上により稼ぐ力を高めていくことが必要である。その際、何よりもまず重要なことは、長時間労働の是正と働き方改革を進めていくことが、一人一人が潜在力を最大限に発揮していくことにつながっていくとの考え方である。 長時間労働の是正と働き方改革は、労働の「質」を高めることによる稼ぐ力の向上に加え、育児や介護等と仕事の両立促進により、これまで労働市場に参加できなかった女性の更なる社会進出の後押しにもつながり、質と量の両面から経済成長に大きな効果をもたらす。加えて、少子化対策についてもその根幹とも言える効果が期待されるとともに、地方活性化等の鍵ともなるものであり、幅広い観点から日本全体の稼ぐ力の向上につながっていくのである。そうした意識を我が国 全体で共有し、醸成していくことが重要である。…(中略)…長時間労働の是正等を通じて女性が活躍しやすい職場づくりに意欲的に取り組む企業ほど「選ばれる」社会環境を作り出していくため、各企業の労働時間の状況等の「見える化」を徹底的に進めていく。」と明記されており、長時間労働を改善する必要性を強調している2。
図1は日本の労働者一人当たりの総実労働時間等の推移を示しており、パートタイム労働者を含めた労働者一人当たりの平均総実労働時間は1994年の1,910時間から2013年には1,746時間に大きく減少していることが分かる。しかしながら、パートタイム労働者を除いた一般労働者(フルタイム労働者)だけの平均総実労働時間をみると、2013年に2,018時間で1994年の2,036時間と大きく変わっていない。つまり、日本の最近の労働時間の減少はパートタイム労働者を含めた非正規職の増加に影響を受けた可能性が高く、実際に正規職の労働時間は大きく変化していない。
日本政府は長時間労働に対する対策として年次有給休暇の取得を奨励しているものの、有給休暇の取得率もあまり改善がみられない。図2を見ると、2014年の労働者一人当たりの年次有給休暇の取得率は47.3%で、2004年の46.6%と比べて大きな差がなく低水準にあることが分かる。また、2014年の年次有給休暇の平均取得日数も8.8日で、2004年の8.6日と大きく変わっていない。
このように日本の有給休暇取得率や平均取得日数が改善されない理由としては、日本の祝日数が昔に比べて増えたことや、完全週休2日制3が少しずつ定着することにより、労働者の休日数が平均的に増加したことが考えられるが、より根本的な理由は有給休暇が取れない又は取りづらいという職場環境にある。
2 首相官邸(2015)「「日本再興戦略」改訂2015―未来への投資・生産性革命」2015年6月30日
3 「週休2日制」と「完全週休2日制」を区分する必要がある。一般的に求人広告などに掲載されている「週休2日制」は、1ヶ月の間に週2日の休みがある週が1度以上あることである。一方、「完全週休2日制」は、毎週2日の休みがあることを表す。いずれにしても、どの曜日が休みになるかは企業次第であり、「完全週休2日制」と表記されていても、企業によっては平日の2日が休みになっている可能性もある。
(2016年09月15日「基礎研レター」)
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                                        生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
                                研究・専門分野
                                高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
                            
03-3512-1825
- プロフィール
 【職歴】
 独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
 ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
 ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
 ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
 ・2021年~ 専修大学非常勤講師
 ・2021年~ 日本大学非常勤講師
 ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
 ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
 ・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
 東アジア経済経営学会理事
 ・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
 【加入団体等】
 ・日本経済学会
 ・日本労務学会
 ・社会政策学会
 ・日本労使関係研究協会
 ・東アジア経済経営学会
 ・現代韓国朝鮮学会
 ・博士(慶應義塾大学、商学)
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