2025年03月21日

サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(2)-消費者はなぜ動かない?エシカル消費の意識・行動ギャップを生み出す構造的要因

生活研究部 准主任研究員 小口 裕

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3|性別・年代別の比較~若年層(20代)で特に高い「社会との関わり」意識
次に、「持続可能性(サステナビリティ)に関する考え方」の性年代別傾向を確認する(数表2)。
数表2 サステナビリティ意識(考え方)性年代別の傾向
全体として、性別や年代によって意識に差が見られることがわかる。

20代は「社会との関わり意識(因子1)」が全般的に高めであり、サステナビリティについての日常的な学びの機会の好影響が伺える。また、「サステナに関する情報を収集している」(25.9%)、「サステナについて家族や友人と話すことがある」(23.2%)など、情報収集や発信に積極的でもある。

その一方で、「責任意識(因子4)」や「自分ごと意識(因子5・因子6)」において若年層の意識は高いとは言えず、年代を重ねるにつれて意識が高まる傾向が見られる。また、「障壁意識(因子7)」をみると、「サステナに関わる行動に興味はあるが、具体的に何をしたらよいか分からない」が女性で高い。特に30代女性では55.7%と高く、サステナ意識の高まりと実践の間で思い悩む実態もうかがえる。
4|世帯年収・金融資産額別の比較~年収や資産の大きさと比例する「自分ごと意識」「責任意識」
同様に、世帯年収や世帯金融資産額別の分析を確認する(数表3)。
数表3 サステナビリティ意識(考え方) 世帯年収・金融資産別の傾向
前稿では、サステナブルキーワードの認知数と世帯年収・世帯金融資産額別の解析を行い、年代とは独立に「世帯年収」や「金融資産額」が高いほど認知が高まる傾向があることを明らかにした(例えば、20代であっても世帯年収が上がればサステナブルキーワードの認知数が上昇し、逆にシニア・シルバー世代であっても、世帯年収や金融資産額が低い場合、認知数は高まらない)。今回の調査においても、基本的に同様の傾向が見られている。

特に「責任意識(因子4)」は、手間や金銭負担を前提として責任感を問う項目となっており、「自分ごと意識」も同様に、金融資産の影響を強く受ける傾向がうかがえる。

3――消費者の「サステナビリティに関する日常行動」の動向

3――消費者の「サステナビリティに関する日常行動」の動向

1|消費者の「サステナビリティに関する日常行動」(全体)~日々の習慣や節約に直結する行動が上位
次に、「持続可能性(サステナビリティ)に関する日常行動」について、「日頃行っていること(日常行動)」のデータを確認する。複数回答形式で聴取し、それを集計したデータを示している。
数表4 サステナビリティ行動 2024年調査と2023年調査の比較 分析対象とした27項目の日常行動データについて、「持続可能性(サステナビリティ)に関する考え方」に合わせて、「社会との関わり(行動)」「日常習慣(行動)」に分類し、後者をさらに「生活行動」「積極購入(バイコット)」「ボイコット(積極非購入)」に細分化している。

日常行動で全体的に高いのは、「生活行動」であり、「買い物の時はエコバッグを持参するようにしている」(82.9%)、「リサイクル可能なゴミを分別して出している」(44.4%)、「外出の際はマイボトルを持参するようにしている」(40.6%)など、習慣化しやすい行動が4割を超えている。

また、「積極購入(バイコット)」では、「洗剤やシャンプーなどは詰め替えできる製品や量り売りのものを買うようにしている」(56.5%)、「長く使える製品を買うようにしている」(47.5%)など、単なるエシカル消費にとどまらず、コスト削減やごみ減量といった生活上のベネフィットと結びついた行動が支持を集める傾向がある。「社会との関わり行動」では、「地元の食材を買うようにしている」(25.8%)が比較的高めとなった。また、「ボイコット(積極非購入)」については、総じて10%未満と低めの水準にとどまっている。
2|2023年調査との時系列比較~物価上昇の影響か、「生活コスト節減を意識した」行動が増加
次に、2023年度との比較を確認する(引き続き数表4)。全般的に有意(p<.01)に変化したのは「日常習慣行動」で、特に「生活行動」と「積極購入(バイコット)」となった。ただし、「積極購入(バイコット)」は増加した項目が多いが、「生活行動」では増減がまばらとなった。

「生活行動」で有意(p<.01)に増加したのは、「買い物の時はエコバッグを持参するようにしている」(+9.1pt)、「外出の際はマイボトルを持参するようにしている」(+6.2pt)、「レストランなどで余った食事は持ち帰るようにしている」(+2.3pt)であった。プラスチック削減に関する政策や企業の取り組みが消費者のエシカル意識にポジティブな影響を与え、エコバッグやマイボトルの利用が増加したとも考えられる。また、物価上昇や電気料金の値上げの影響により、コスト節減も意識した行動(省エネ家電の購入、詰め替え商品の利用、食品ロス対策)も総じて増加している。
3|性年代別および世帯年収・金融資産層別の比較~サステナ行動と距離がある男性・20-30代
次に、性年代別および世帯年収・金融資産層別の分析を確認する(数表5・数表6)。
数表 5 サステナビリティ行動 性年代別の傾向
数表6 サステナビリティ行動 世帯年収・金融資産別の傾向
性年代別に見ると、「社会との関わり行動」「日常習慣行動」において、全般的に女性や年齢が高いほど行動率が高まる傾向が見られた。世帯年収・金融資産層別の分析でも、同様の傾向が確認され、前稿12の「サステナブルキーワード」分析と総じて同傾向となった。
女性は家庭内の消費決定全般に関与するケースが多く、食品・日用品の購買機会も一般的に男性より多いことから、エコバッグ持参やリサイクルなどの生活習慣が根付いている様子がうかがえる。
 
また、シニア・シルバー層においても、環境や社会問題に関する情報接触機会の多さ(テレビ視聴を通じて情報を得るなど)や、地域のリサイクル活動や環境保全活動への参加のしやすさ、価格以上に健康や品質、社会的価値を重視する購買スタイルなどが、この傾向を後押ししている可能性もある。この点に関する詳細な分析は、別稿で改めて試みる予定である。
 
12 ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2022年5月)「サステナビリティに関する意識と消費行動」、基礎研レポート(2023年9月)「サステナビリティに関わる意識と消費者行動

4―― 次回(第3回)に向けて

4―― 次回(第3回)に向けて~エシカル行動を抑制する構造的要因と、その促進アプローチ

冒頭の通り、企業は、長期にわたり持続的に社会価値と経済価値を共創し続けるためのマテリアリティに基づく取り組みを行っている。そのための課題は、社会や消費者・市民へのインパクトを通じた「サステナビリティ行動への変容」をどのように促進するのか、または、どのようなインパクトが消費者の行動変容に対して有効なのか、を理解することとなる。

次回(第3回)は、今回の結果を用いて、消費者がサステナビリティ行動を抑制する構造的要因について、エシカル消費を題材として分析・考察した上で、それを促進するアプローチについて、サステナブル・マーケティング13の視点からの仮説構築と提案を試みたい。
 
13 基礎研レポート(2024年10月)「実効性と成果が問われ始めた企業のサステナビリティ推進」を参照。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月21日「基礎研レポート」)

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生活研究部   准主任研究員

小口 裕 (おぐち ゆたか)

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴
  • 【経歴】
    1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

    2008年 株式会社日本リサーチセンター
    2019年 株式会社プラグ
    2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

    2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
    2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
    2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
    2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

    【加入団体等】
     ・日本行動計量学会 会員
     ・日本マーケティング学会 会員
     ・生活経済学会 准会員

    【学術研究実績】
    「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
    「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
    「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
    「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
    「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
    「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

    *共同研究者・共同研究機関との共著

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レポート紹介

【サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(2)-消費者はなぜ動かない?エシカル消費の意識・行動ギャップを生み出す構造的要因】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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