2024年12月19日

米FOMC(24年12月)-市場予想通り、政策金利を▲0.25%引き下げ。政策金利見通しを上方修正

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:政策金利を▲0.25%引き下げ。政策金利見通しを上方修正

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が12月17-18日(現地時間)に開催された。FRBは市場予想通り政策金利を▲0.25%ポイント引き下げ4.25-4.5%とすることを決定した。量的引締め政策の変更は無かった。今回の金融政策決定ではクリーブランド連銀のハマック総裁が政策金利の据え置きを主張し、反対票を投じた。

今回発表された声明文では、景気判断や経済見通し部分の変更はなかった。一方、フォワードガイダンス部分ではFF金利の目標レンジの追加調整に関して「程度とタイミング」との表現が追加され、今後の利下げペースの緩和方針が示唆された。

FOMC参加者の経済見通し(SEP)は前回(9月)から、24年と25年の成長率やコアPCE価格が上方修正されたほか、失業率が下方修正された(後掲図表1)。

注目された政策金利見通し(中央値)は25年が3.9%と前回から▲0.5%ポイント上方修正され、1回0.25%で前回の4回から2回の追加利下げに減少した一方、26年は前回同様2回の利下げが維持された。長期見通しは前回の2.9%から3.0%に小幅上方修正された。

2.金融政策の評価:インフレ率と政策金利見通しを上方修正するタカ派的な内容

政策金利の▲0.25%引き下げは予想通り。足元のインフレ上振れなどから来年の政策金利見通しを上方修正したことも予想通りであった。このため、声明文の金融政策ガイダンス部分で今後の利下げペースの緩和を示唆する表現が盛り込まれたのも違和感はない。今回の会合は前述のように来年以降のインフレ見通しと政策金利見通しが上方修正されるタカ派的な内容と言えよう。

パウエル議長の記者会見では、足元でインフレが上振れし、来年以降のインフレ見通しが上方修正される中でどうして利下げをしたのか、また、どうして来年以降も利下げ方針を継続するのか複数の質問がよせられた。これに対して同議長は、足元でインフレが上振れしていることを認めつつ、インフレが2%目標を達成するために労働市場のさらなる冷え込みは必要ないとの従来の見方を繰り返し、労働市場の大幅な悪化を望まない姿勢を示すことで、金融緩和の正当性を訴えた。一方、インフレ予想の上方修正の要因として一部のFOMC参加者がトランプ次期政権の政策効果を織り込んだとし、今後の経済への影響を注視する姿勢を示した。

当研究所は本日の結果を踏まえて、FRBが25年前半に2回の利下げを行い、年後半に政策金利を据え置くとの見通しを維持する。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • これらの目標達成を支えるため、委員会はFF金利の誘導目標水準を0.25%ポイント引き下げ、4.5-4.75%とすることを決定(今回削除)
  • これらの目標達成を支えるため、委員会はFF金利の誘導目標水準を0.25%ポイント引き下げ、4.25-4.5%とすることを決定(今回追加)
  • 財務省証券、エージェンシー債、エージェンシーの住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • FF金利の目標レンジの追加的な調整の程度とタイミング検討する際には、委員会は入ってくるデータ、進展する見通し、およびリスクのバランスを注意深く評価する(追加的な調整に関して「程度とタイミング」”the extent and timing of”の表現を追加)
  • 委員会は最大限の雇用を支え、インフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会の評価は労働市場の情勢、インフレ圧力とインフレ期待に関する指標、金融情勢、国際情勢など幅広い情報を考慮する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 最近の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆している(変更なし)
  • 年初来、労働市場の状況は概ね緩和してきた、失業率は上昇したが低水準を維持している(変更なし)
  • インフレは委員会の物価目標2%に向けて進展したが、依然としてやや高止まりしている(変更なし)
 
(景気見通し)
  • 委員会は雇用とインフレの目標達成に対するリスクはほぼ均衡していると判断している(変更なし)
  • 経済見通しは不透明であり、委員会はデュアル・マンデートの両サイドのリスクに高い注意を払っている(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 最近の指標によれば、経済活動は堅調なペースで拡大を続けている。全体として、供給環境の改善は過去1年間の米国経済の好調を支えてきた。FOMC参加者は概してGDP成長率が堅調に推移すると予想している。
    • 労働市場は引き続き堅調である。名目賃金の伸びはこの1年で鈍化し、雇用と労働者の格差は縮小した。全体として、広範な指標は労働市場の状況が19年よりもタイトでなくなっていることを示唆している。労働市場は大きなインフレ圧力の源泉ではない。
    • インフレ率は過去2年間で大幅に緩和されたが、長期目標である2%と比較すると、依然やや高い水準にある。SEPのPCEインフレ予想中央値は今年が2.4%、来年が2.5%で、9月時点の予想よりやや高い。その後、予想中央値は目標の2%まで低下する。
    • 我々は雇用とインフレの目標達成に対するリスクはほぼ均衡しているとみている。本日の会合でFF金利の目標レンジを4.25~4.5%に▲0.25%ポイント引き下げることを決定した。我々は経済と労働市場の力強さを維持する一方で、インフレのさらなる進展を確立するため、より中立的な設定に向けて政策を進めてきた。
    • 本日の措置により、我々は政策金利をピーク時から▲1%ポイント引き下げ、政策スタンスは大幅に緩和された。従って、政策金利のさらなる調整を検討する際には、より慎重になることでできる。
 
  • 主な質疑応答
    • (インフレ率が堅調に推移すると予想するなら、何故25年に利下げを行うのが適切と考えているのか)インフレ率を2%にまで低下させるために、労働市場のさらなる冷え込みは必要ない。雇用創出は現在、失業率を一定に保つ水準を大幅に下回っており、我々は政策がまだ意味のある制限的なものだと考えている。しかし、追加緩和については、インフレのさらなる進展と労働市場の継続的な力強さを見極めることになるだろう。
    • (インフレ予想の上昇にどの程度来年の財政政策が影響しているのか)インフレをめぐる不確実性がある。インフレが上振れするリスクだ。一部の人々はこの会議で政策の経済効果に関する非常に条件付きの推定値を予測に組み入れた。一部の人々は政策の不確実性がインフレの不確実性の要因と指摘した。ただし、インフレが上方修正された要因は11月5日の選挙結果だけではない。今年のインフレが当初予測を上回ったことも影響している。
    • (18年9月のティールブックで新たな関税が1回限りの引上げであり、インフレ期待が固定されたままであれば、どんな関税も見過ごすとの分析について)6年前に2つのシミュレーションがあり、1つは見過ごすケースでもう1つは見逃さないケースだった。見過ごすケースでは、見過ごすことが適切と思われる状況を検討したほか、そうでないと思われる状況をいくつか挙げている。いずれにせよ、これは今目の前にある質問ではない。今委員会が行っているのは、関税によって引き起こされるインフレが経済のインフレにどのように影響を与えるか、その経路を議論し、理解することだ。なんらかの結論を出そうとするのは時期尚早だ。
    • (来年のコアインフレ率の上方修正に加え、声明文に「程度とタイミング」との文言が追加されたことは、委員会が暫くの間利下げを見送ることを意味しているのか)それは我々が下した決定では全くない。「程度とタイミング」を追加した意味は、もし経済が予想通りに推移すれば、利下げペースを緩めるのが適切な段階にあることを明確にすることだ。つまり、中立的なスタンスを維持するために、政策金利をどれだけ引き下げられるかということだ。
    • (中立金利水準は何%だと考えているのか)我々がSEPに書いているのは長期中立レートで、経済全体が均衡しており、経済へのショックがない状態だ。しかし、今はそうではない。我々の長期中立金利と我々が考える適切な政策をストレートに読み解くことはできない。中立金利に関するモデルは数えきれないほどあり、確かなことは何もない。ただ、入ってくる経験的データと、それが見通しにどのような影響を及ぼしているのかを受け入れるしかない。

5.FOMC参加者の見通し

FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の19名 )の経済見通しは(図表1)の通り。前回(9月)見通しとの比較では、実質GDP成長率は24年と25年が上方修正された一方、27年は小幅下方修正された。コアPCE価格指数は24年~26年が上方修正された。失業率は24年と25年が上方修正された。
(図表1)FOMC参加者の経済見通し(12月会合)
(図表2)政策金利見通し(年末時点) 政策金利の見通し(中央値)は、24年が4.4%(前回:4.4%)と前回から変更はなかった(図表2)。もっとも、ドットチャートではFOMC参加者19名のうち、政策金利の据え置きを予想したのが4名と今回のFOMC会合で反対票を投じたハマック総裁以外にも3名いたことが示されており、政策金利の据え置きを支持する委員が一定程度いたようだ。

一方、25年は3.9%(前回:3.4%)と前回から+0.5%ポイント上方修正され、1回0.25%として利下げ回数は2回(前回:4回)と前回から減少した。

26年は3.4%(前回:2.9%)と前回から+0.5%ポイント上方修正されたものの、利下げ回数は2回(前回:2回)とこちらは前回からの変更はなかった。もっとも、ドットチャートは19名のうち、政策金利の据え置きが3名、▲0.25%の利下げが4名、▲0.5%の利下げが5名、▲0.75%の利下げが4名と見方が分かれており、FRB内に強いコンセンサスはないことが示されている。

27年は3.1%(前回:2.9%)と前回から+0.25%ポイント上方修正され、利下げ回数は1回(前回:0回)とこちらは逆に前回から増加した。

最後に長期見通しは3.0%(前回:2.9%)と前回から+0.125%ポイント上方修正された。
 
 

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(2024年12月19日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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