2024年11月26日

米大統領・議会選挙-共和党がトリプルレッド。トランプ次期政権の政策実現の可能性が大幅に増加。閣僚人事に注目

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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3.トランプ次期大統領の主要な経済政策および閣僚人事

(経済政策):経済への影響は実現する政策次第。
トランプ次期大統領は2期目の主要な経済政策として、税制改革、関税引き上げ、不法移民の強制送還、エネルギー分野をはじめとする規制緩和などを掲げている(図表9)。このうち、税制改革について、シンクタンクのTax Foundationは減税・雇用法(TCJA)の25年末期限となっている時限措置の延長に加え、トランプ氏が新たに提案した減税措置により、今後10年間の実質GDPは2.4%ポイント押し上げられると試算2した。なお、税制改革に伴う成長押上げにより、インフレは押し上げられる可能性が高い。

関税引き上げについて、ピーターソン国際経済研究所はすべての輸入品に10%の関税賦課する場合には米国の実質GDPが26年は▲0.9%押し下げられる一方、25年のインフレ率が1.3%ポイント押し上げられると試算3している。さらに、中国からの輸入品に対する60%の関税賦課した場合には26年の実質GDPが▲0.2%ポイント押し下げれる一方、25年のインフレ率が0.7%ポイント押し上げられるとしている。

不法移民の強制送還について、同研究所はアイゼンハワー大統領時代の130万人が強制送還するケースでは25年の実質GDPが▲0.2%ポイント押し下げられる一方、25年のインフレ率は0.35%ポイント押し上げられると試算4している。

エネルギー分野をはじめとする規制緩和については、エネルギー価格の下落から実質GDPを押し上げ、インフレ抑制と判断できるものの、定量的な評価は困難である。
(図表9)トランプ次期政権の主要な経済政策および経済への影響
一方、今回の選挙でトリプルレッドになったことから、ねじれ議会となった場合に比べてトランプ氏の政策は実現可能性が大幅に高まった。ただし、前述のようにトランプ次期政権が掲げる経済政策ではGDPを押し上げる政策とGDPを押し下げる政策、インフレを押し上げる政策と押し下げる政策が混ざっているため、最終的な経済への影響はどの政策をどのような優先順位でどこまで実行するのかによって大きく左右されると言えよう。
(閣僚人事):閣僚人事が始動、上院での承認プロセスに注目
トランプ次期大統領は、主要閣僚の指名を矢継早に行っており、現時点で各省の長官候補が既に指名されている(図表10)。指名された候補では財務長官に指名されたスコット・べセット氏や商務長官に指名されたハワード・ルトニック氏が、トランプ氏が実現を目指す関税政策を支持している。

また、国境警備や入国管理を担当する国土安全保障長官にサウスダコタ州知事のクリスティ・ノーム氏を指名したほか、第一次トランプ政権で移民・関税執行局(ICE)の局長を務めたトーマス・ホーマン氏も移民政策の要職に就くことが予定されており、トランプ氏が目指す不法移民の強制送還などの政策実現を目指すことになる。

さらに、エネルギー長官には気候危機の存在を否定するクリス・ライト氏が指名されており、バイデン政権で実施した気候変動対策からの大幅な軌道修正が見込まれる。
(図表10)トランプ次期政権の各省長官候補指名リスト
一方、閣僚人事では、今後上院での審議、承認手続きが必要になる。上院は共和党が過半数を得ているが、現時点で長官候補のうち、国防長官に指名されたピート・ヘグセス氏には過去の性的スキャンダルが承認のネックになるとみられるほか、表中にはないものの、閣僚級の国家情報長官に指名されたトゥルシー・ギャバ―ド氏も過去にシリアでアサド大統領に会っていたことなどが問題視されており、承認されるのか不透明となっている。

トランプ次期大統領は憲法に定められた、上院の休会中に上院の承認を得ずに大統領権限で高官等を承認できる休会任命を活用する可能性を探っているが、上院共和党は反対しているため、今後の承認プロセスを巡って共和党内が混乱する可能性があり、今後の動向が注目される。
 
 

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(2024年11月26日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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