2024年11月26日

米大統領・議会選挙-共和党がトリプルレッド。トランプ次期政権の政策実現の可能性が大幅に増加。閣僚人事に注目

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

注目された米大統領選挙が終了した。選挙前は接戦が予想され、選挙結果の判明に時間がかかるとの見方があった。しかしながら、蓋をあけてみれば開票初日からトランプ氏の優勢が伝えられ、選挙翌日の6日午後にはハリス氏が敗北宣言を行うなど予想外の早期決着となった。

大統領選挙は選挙人でみれば7つの激戦州でトランプ氏が勝利し312人と過半数の270人を大幅に上回る人数を獲得したものの、本稿執筆時点で同氏の得票率のリードは1.6%ポイントに留まっており、2000年以降では2番目に僅差の結果となった。

一方、議会選挙では上下院ともに共和党が過半数を確保し、大統領選と併せて共和党が全て勝利するトリプルレッドとなった。この結果、トランプ次期政権が目指す政策で議会における法案通過のハードルが下がったことから、政策実現の可能性が大幅に増加したと言えよう。

トランプ次期大統領は2期目の主要な政策として「減税」、「関税引き上げ」、「移民の強制送還」、「規制緩和」などの実現を目指しており、次期政権の閣僚人事を進めている。

2.大統領・議会選挙結果

2.大統領・議会選挙結果

(図表2)大統領選挙結果 (大統領選挙結果):トランプ前大統領が返り咲き
11月5日に行われた大統領選挙は、トランプ前大統領が過半数の270人を大幅に上回る312人の選挙人を獲得し、大統領へ返り咲くことが決まった(前掲図表1、図表2)。大統領が退任後に返り咲きを果たしたのは、19世紀のグローバー・クリーブランド大統領以来となる。
(図表3)主要接戦州の動向(得票率) 一方、トランプ氏の獲得した州・特別区は31となり、ハリスが獲得した20を大幅に上回った。とくに、今回の大統領選の勝敗を分けるとみられていた7つの激戦州(ネバダ州、ミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルべニア州、ノースカロライナ州、ジョージア州、アリゾナ州)では、すべての州でトランプ氏が勝利する結果となった(図表3)。このため、前回選挙でバイデン氏勝利が勝利したノースカロライナ州を除く6州をトランプ氏が奪還した。

今回の選挙における得票数は11月25日時点でトランプ氏が76.97百万票(得票率:49.9%)、ハリス氏が74.48百万票(得票率:48.3%)と一般投票でもトランプ氏がハリス氏に勝利した。一般投票で共和党候補が民主党候補を上回るのは04年以来となる。また、トランプ氏の得票数は前回選挙でバイデン氏が獲得した81.28百万票を下回るとみられるものの、前回選挙(74.22百万票)からは2百万票以上の積み増しとなった。
(図表4)一般投票の得票率差 なお、トランプ氏の選挙人獲得数や獲得州数はハリス氏を大幅に上回ったものの、両者の得票率の差は1.6%ポイントに留まっており、2000年以降の大統領選挙では2000年に民主党のアルゴア候補が共和党のブッシュ候補を0.5%ポイント上回ったのに次いで2番目に低い水準となっている(図表4)。このため、一般投票からはトランプ氏の地滑り的勝利と言うよりは、僅差の勝利であったと言えよう。
(図表5)大統領選挙の投票率 最後に、投票率は11月21日時点で63.7%と推計されており、1900年の73.7%以来およそ120年ぶりの高水準となった前回の66.4%からは小幅ながら低下が見込まれている(図表5)。もっとも、今回の投票率は依然として1960年以来の高さとなっており、有権者の関心が高かったことが窺われる。



 
(出口調査結果):若年層、ヒスパニック、無党派層のトランプ得票率が前回選挙から増加
CNN、ABC、CBS、NBCが共同で全米およそ2万3千人を対象に実施した出口調査結果では、トランプ氏の得票率が男性、45-64歳の年齢層、白人層、大学の学位が無い層でハリス氏の得票率を上回った(図表6)。
(図表6)米大統領選挙出口調査(得票率)
また、今回の選挙でハリス氏の得票率がトランプ氏を上回った若年層では、トランプ氏の得票率が前回選挙を7ポイント増加したほか、ヒスパニック層でも同様に前回から14ポイントの大幅な増加となるなど、民主党の支持傾向が強いとみられる層に対してもトランプ氏が支持を拡大していたことが分かる。

一方、支持政党別の得票率では、共和党支持者の94%がトランプ氏に投票したのに対して、民主党支持者では僅か4%が同氏に投票するなど、今回の大統領選挙でも党派性を強く反映した結果となった。なお、無党派層は46%がトランプ氏に投票しており、ハリス氏の49%を下回ったものの、前回選挙からの比較ではトランプ氏の投票率が5ポイントほど増加しており、小幅ながら無党派層に対しても支持拡大に成功したことが示されている。
(図表7)米大統領選挙出口調査(得票率) 最後に、投票先を決める上で最も重要な争点に関しては、「民主主義」との回答が34%、次いで「経済」が32%と高い回答率となったほか、「中絶問題」が14%、「移民」が11%となった(図表7)。この調査結果では「民主主義」が最も重要な争点となった一方、「移民」の回答率が低くなっており、事前の報道とやや乖離した結果となっており、やや違和感がある。実際に、APによる出口調査では「経済」との回答割合が39%と最も高くなっているほか、次いで「移民」が20%となっており、こちらの調査には納得感がある1。CNNなどの出口調査に戻ると、「民主主義」や「中絶問題」が最も重要な争点と回答した投票者ではハリス氏に投票した割合が7割超となった一方、「経済」や「移民」を挙げた投票者ではトランプ氏が8割超の票を集めた。
(議会選挙結果):上下院ともに共和党が過半数を獲得
大統領選挙と同時に行われた議会選挙では下院(435議席)の全議席が、上院(100議席)の34議席が改選された。下院は11月25日時点で共和党が219議席と過半数(218)を上回る議席を獲得した(図表8)。もっとも、現時点で未確定が3議席数となっており、共和党が全ての議席を獲得しても議席数が222議席と過半数を僅か4議席上回るに過ぎないため、辛勝と言えよう。
(図表8)下院選挙結果/上院選挙結果 一方、上院は共和党が53議席を獲得してこちらも過半数(51議席)を上回った。ただし、上院で議事進行妨害(フィリーバスター)を回避できる60議席は下回っていることから、一定程度民主党の意向も反映した議会運営が求められる。また、上院共和党トップの院内総務にマコネル前院内総務との関係が深く、トランプ氏と距離を置く穏健派のジョン・スーン氏が選出されてたため、トランプ次期政権の極端な人事や政策実現に一定の歯止めがかかる可能性がある。

(2024年11月26日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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