2024年09月06日

成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2024年上期)-「オフィス拡張移転DI」の動向

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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3――おわりに

本稿では、オフィス拡張移転DIをもとに2024年上期のオフィス移転動向を分析した。

その中で、

(1)オフィス拡張移転DIは、コロナ禍前と比較すると低い水準にあるものの、底堅く推移している

(2)ビルクラス間の差は縮小傾向にあり、いずれのクラスにおいても底堅い需要が見られる

(3)製造業では、これまでオフィス需要に停滞感が見られていたが、円安などによる企業業績の拡大を背景にオフィス拡張移転DIが急回復している

(4)情報通信業では、全体としてオフィス需要は底堅く推移しているものの、ハイブリッドワークの普及に伴う縮小移転が一定数見られ、これがコロナ禍前の力強さが欠ける要因となっている

ことを確認した。

以上のように、2024年上期のオフィス需要は、コロナ禍前ほどの強さはないものの、底堅く推移している。新築ビルの供給が小幅にとどまることもあり、オフィス市場は改善傾向にある。今後は、物価上昇が定着しつつあるとの期待が高まる中で、オフィス市場の改善が明確な賃料上昇にまで至るかどうかに注目が集まっている。2025年には新築ビルの供給が増加する見込みであり、まだ楽観はできないが、明るい材料が増えている。これらのオフィス市場における変化を正確に捉えるためには、今後もデータを丹念に分析していくことが重要である。

【参考資料】 オフィス拡張移転DIについて

【参考資料】 オフィス拡張移転DIについて

オフィス拡張移転DI7は、オフィス移転後の賃貸面積が移転前と比較して(1)拡張、(2)同規模、(3)縮小、した件数を集計し、次式により計算している。

オフィス拡張移転DI
=1.0×拡張移転件数構成比+0.5×同規模移転件数構成比+0.0×縮小移転件数構成比

オフィス拡張移転DIは0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを表す。例えば、図表 7のように、オフィス移転が合計500件あり、そのうち拡張移転が150件、同規模移転が300件、縮小移転が50件の場合、オフィス拡張移転DIは60%となり、企業の拡張意欲が強いことを表す。
図表7:「オフィス拡張移転DI」の例
 
7 DIはDiffusion Index(ディフュージョン・インデックス)の略、変化の方向性を示す指標のことである。DIの代表例としては、経済分野では日本銀行の 全国企業短期経済観測調査(日銀短観)や内閣府の景気動向指数、また不動産分野では土地総合研究所が公表する不動産業業況等調査(不動産業業況指数)がある。
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年09月06日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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