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- 利上げによる住宅ローンを通じた日本経済への影響-住宅ローンの支払額増加に関する影響分析
2024年06月28日
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1――住宅ローン利用者への利上げの影響
適用金利が上昇していく環境になれば、それだけ変動金利型住宅ローンを借り入れている世帯では消費行動の抑制が想定されるだろう。直近の各種データから、住宅ローン利用者が支払う元利返済額の総和は筆者の概算してみると、年間13兆3,300億円程度となった。参考までに、計算条件は以下のとおりである。
【計算前提】
・民間金融機関による住宅ローンの直近の新規貸出額:約19兆円(年間)(2023年3月末)1
→変動金利型住宅ローンの新規貸出をその約75%の14兆2,500億円と想定
・民間金融機関による住宅ローン残高の総計:約194兆円
→変動金利型住宅ローン貸出残高をその約70%の136兆円と想定2
・完済債権の平均経過期間は約16年(2020年)3
→最長借入期間が徐々に長期化していることから完済まで20年と想定
・変動金利型住宅ローンの適用金利の最低水準は0.3~0.4%(2024年6月時点)
→現在借り入れられている変動金利型住宅ローンの適用金利の平均を0.4%とする
・全ての住宅ローンは元利均等返済しているものと仮定する
これらの計算前提から、適用金利上昇によって住宅ローンの負担増から個人消費にどの程度の影響があるのか概算してみたところ、変動金利型住宅ローンの適用金利が1%上昇すると、元利返済額の総和は年間14兆3,100億円程度にまで増えるという結果になった。
つまり、政策金利の1%上昇で約1兆円程度の返済額の増加が生じることになる。これは、民間最終消費支出が300兆円程度であることを考慮に入れると、1%程度の金利上昇が生じたとしても、変動金利型のローン残高の割合が増えることによる家計支出への影響は、マクロで見ると、家計の消費支出額の0.3%程度ということになる。実際には5年ルール4や125%ルール5のある契約も多く存在しており、この試算結果よりも緩やかな上昇幅に留まるものと考えられる。固定金利型よりも適用金利が相対的に低い変動金利型には早期に元本返済が進められるという特徴があるが(図表4)、変動金利型で借り入れている住宅ローン利用者の元本返済が相応に進んでいるものとみられ、金利上昇による家計の消費への影響は総じてみれば限定的な状況にあると結論付けることができる。しかも、平均的に見れば、持家世帯であっても負債額よりも貯蓄額の方が大きい状況にあり、賃金上昇や貯蓄からの収入増によってある程度は対処できるものと考えられる(図表5)。
ただし、ミクロで見ると、住宅ローンの残存年限が長い債務者に金利上昇の影響が集中することが懸念される。特に、持家世帯の貯蓄や負債を世代別に見ると、20代、30代や40代では貯蓄よりも負債の方が大きく、金利上昇すると負担の方が大きくなる。これらの世代は老後に向けた長期的な資産形成も同時に行っていく必要があるが、金利上昇下では貯蓄の積み上げも難しくなるだろう。このような将来不安に波及する問題への対応策として、引き続き企業に対して賃金上昇を促していくのに加えて、住宅ローン減税の拡充や利子補給などの政策を実施していく必要性もあるかもしれない。
【計算前提】
・民間金融機関による住宅ローンの直近の新規貸出額:約19兆円(年間)(2023年3月末)1
→変動金利型住宅ローンの新規貸出をその約75%の14兆2,500億円と想定
・民間金融機関による住宅ローン残高の総計:約194兆円
→変動金利型住宅ローン貸出残高をその約70%の136兆円と想定2
・完済債権の平均経過期間は約16年(2020年)3
→最長借入期間が徐々に長期化していることから完済まで20年と想定
・変動金利型住宅ローンの適用金利の最低水準は0.3~0.4%(2024年6月時点)
→現在借り入れられている変動金利型住宅ローンの適用金利の平均を0.4%とする
・全ての住宅ローンは元利均等返済しているものと仮定する
これらの計算前提から、適用金利上昇によって住宅ローンの負担増から個人消費にどの程度の影響があるのか概算してみたところ、変動金利型住宅ローンの適用金利が1%上昇すると、元利返済額の総和は年間14兆3,100億円程度にまで増えるという結果になった。
つまり、政策金利の1%上昇で約1兆円程度の返済額の増加が生じることになる。これは、民間最終消費支出が300兆円程度であることを考慮に入れると、1%程度の金利上昇が生じたとしても、変動金利型のローン残高の割合が増えることによる家計支出への影響は、マクロで見ると、家計の消費支出額の0.3%程度ということになる。実際には5年ルール4や125%ルール5のある契約も多く存在しており、この試算結果よりも緩やかな上昇幅に留まるものと考えられる。固定金利型よりも適用金利が相対的に低い変動金利型には早期に元本返済が進められるという特徴があるが(図表4)、変動金利型で借り入れている住宅ローン利用者の元本返済が相応に進んでいるものとみられ、金利上昇による家計の消費への影響は総じてみれば限定的な状況にあると結論付けることができる。しかも、平均的に見れば、持家世帯であっても負債額よりも貯蓄額の方が大きい状況にあり、賃金上昇や貯蓄からの収入増によってある程度は対処できるものと考えられる(図表5)。
ただし、ミクロで見ると、住宅ローンの残存年限が長い債務者に金利上昇の影響が集中することが懸念される。特に、持家世帯の貯蓄や負債を世代別に見ると、20代、30代や40代では貯蓄よりも負債の方が大きく、金利上昇すると負担の方が大きくなる。これらの世代は老後に向けた長期的な資産形成も同時に行っていく必要があるが、金利上昇下では貯蓄の積み上げも難しくなるだろう。このような将来不安に波及する問題への対応策として、引き続き企業に対して賃金上昇を促していくのに加えて、住宅ローン減税の拡充や利子補給などの政策を実施していく必要性もあるかもしれない。
1 「業態別の住宅ローン新規貸出額及び貸出残高の推移」(住宅金融支援機構)による
2 「2020年度 住宅ローン貸出動向調査」(住宅金融支援機構)で民間金融機関の住宅ローン貸出残高の約67%を変動金利型が占めている
3 「2020年度 住宅ローン貸出動向調査」(住宅金融支援機構)による
4 金利が上昇しても、5年間は毎月の返済額が変わらないルールのことを指す
5 5年経過後の6年目からの毎月の返済額は、今までの返済額に対して125%の金額までしか上げることができないとするルールのことを指す
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年06月28日「基礎研レター」)
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経歴
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
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