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「名古屋オフィス市場」の現況と見通し(2024年)

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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3.名古屋オフィス市場の見通し
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(東海地方)は、2020年第2四半期に「▲52.2」と一気に悪化した。その後は回復と悪化を繰り返し一進一退の動きで推移し、2024年第1 四半期は「▲3.4」となった(図表-12)。
また、「従業員数判断BSI4」(東海地方)は、不足を示す「21.1」(2020年第1四半期)からやや過剰の「▲1.3」(第2四半期)へ大幅に低下した後、回復が続いている。2024年第1四半期は「+26.9」となりコロナ禍前の水準(+21.1)を上回った(図表-13)。
以上のことを鑑みると、名古屋市の「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さいと考えられる。
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
愛知県「労働条件・労働福祉実態調査」によれば、2023年の愛知県におけるテレワーク導入率は18%となり、産業別では「情報通信業(88%)」のテレワーク導入率が特に高い。
また、「テレワークの導入により感じている効果」に尋ねた質問では、「多様で柔軟な働き方の確保(65%)」との質問が最も多く、次いで「仕事と育児・介護・治療の両立(59%)」、「通勤時間の削減(52%)」の順に多かった(図表-14)。企業は、従業員の働きやすさを担保し、ワークライフバランスの向上を図るため、働く場所に関して多様な選択肢の提供が求められている。また、労働力確保の観点から、介護離職の防止等にも積極的に取り組む必要があり、今後もテレワークを実施する企業は多いと考えらえる。
「今度のテレワークの実施について」に尋ねた質問では(図表-15)、「現在と同程度を維持する」との回答が大幅に増加し(2021年48%⇒2023年68%)、「新型コロナウィルス感染症が流行する以前の水準に戻す」との回答が減少した(2021年12%⇒2023年4%)。名古屋においても、テレワークを取り入れた働き方が定着すると考えられる。
こうしたなか、フリーアドレス5等を導入する動きが広がっている。ザイマックス不動産研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2023①働き方の実態とニーズ編」によれば、名古屋市のオフィスワーカーに対し、オフィスの設備で実際に利用しているもの(「現状」)と、在籍するオフィスにあってほしいと思うもの(ニーズ)を尋ねた所、「フリーアドレス」は「現状」では16.1%、「ニーズ」では21.1%を占めた。また、「リモート会議用ブース・個室」は「現状」では11.3%、「ニーズ」では16.9%を占めた。名古屋でも、フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、リモート会議用ブース・個室を充実させる等、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態を採用する企業が増えている模様だ。
5 従業員が固定した自分の座席を持たず、業務内容に合わせて就労する席を自由に選択するオフィス形式。
リニア中央新幹線の名古屋駅開業に対する期待は大きい。品川~名古屋間のリニア開業に伴う経済効果(50年間)は約10.7兆円、このうち東海3県へは約2兆円と見込まれている6。
リニア開業を見据えて、まちづくりも進んでいる。名古屋市は、高機能オフィス等の開発を誘導する目的で「名古屋駅・伏見・栄地区都市機能誘導制度」の運用を2020年10月より開始した。基準に適合する建築物の容積率は、名古屋駅東口周辺と栄駅周辺部は1,300%に、伏見駅周辺は1,100%に引き上げられた。
続いて、2024年3月に、名古屋市は「名駅南まちづくり方針」を公表し、リニア開業後を見据えた名駅南地区(名駅1丁目~4丁目)のまちづくりの方針を示した(図表-16)。具体的には、(1)賑わいがあふれるウォーカブルなまちづくり、(2)公民の投資により再生するまちづくり、(3)新たな体験を誘発し様々な挑戦を支えるクリエイティブなまちづくり、(4)地域の力で地域を育てるまちづくり、の4つの方針を示した。(3)「新たな体験を誘発し様々な挑戦を支えるクリエイティブなまちづくり」に関して、「三蔵通」を「起業意欲と感性を刺激する創造軸」に位置づけて、スタートアップ・ベンチャー企業の集積等を目指すとしている。
また、名古屋市は2019年1月に、都心における回遊性の向上や賑わいの拡大を図る目的で、名古屋市中心部に新たな路面公共交通システム(SRT)を導入する構想7を示した。2023年5月に策定された「名古屋交通計画2030」によれば、まず、名古屋駅~栄間の「東西ルート」からSTRを導入し、リニア中央新幹線開業時には、来訪者等が名古屋駅からSTRを利用し都心部の各拠点へ快適に移動できるよう導入を図るとしている(図表-17)。
6 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「リニア時代の国土創生」
7 名古屋市「新たな路面公共交通システムの実現を目指して(SRT構想)」
8 朝日新聞「リニア中央新幹線、2027年の開業断念へ 早くても34年以降か」2024/3/29
名古屋市は、前述の通り、高機能オフィス等の開発を誘導する目的で「名古屋駅・伏見・栄地区都市機能誘導制度」の運用を開始している。現在、上記の制度等を活用した大規模開発計画が複数進行中であり、オフィス市場における存在感がさらに高まる見通しである。以下ではエリア毎にオフィス開発計画を概観する。

「名駅地区」では、中村区名駅3丁目で、三重交通グループホールディングスが開発した地上16階建ての「第2名古屋三交ビル」(延床面積約2.1万m2)が2024年2月に竣工した(図表-18 ①)。
また、中村区名駅4丁目で、明治安田生命保険相互会社が「明治安田生命名古屋駅前ビル」の建て替えを行い、20階建てのオフィスビル(延床面積約4万m2)を開発中で、2026年8月に竣工予定である9(図表-18 ②)。
名古屋鉄道は、名古屋駅機能の整備と駅周辺地区の再開発(「名鉄名古屋駅地区再開発事業」)を計画している(図表-18 ③)。中期経営計画(2024年度~2026年度)によれば、交通施設の再整備と一体的な再開発の実現に向けた取り組みを推進するとともに、関係者との協議・調整を加速させ、事業の方向性を判断し、公表する予定としている10。
9 明治安田生命保険相互会社「「明治安田生命名古屋駅前ビル建替計画」新築工事着工のお知らせ~環境に配慮した設備により、持続可能な社会の実現に貢献~」2023年5月24日
10 名古屋鉄道株式会社「新・名鉄グループ経営ビジョン、2040年のありたい姿、中長期経営戦略および中期経営計画(2024年度~2026年度)の策定について」2024年3月25日
(2024年05月24日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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