2024年03月27日

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3-2.新規供給見通し
前述の通り、「みなとみらい21地区」と「関内地区」がそれぞれ、オフィス面積全体の3割強と2割強を占める。現在、両エリアでは大規模開発計画が進行中であり、オフィス市場における存在感が高まる見通しである。以下では、「みなとみらい21地区」と「関内地区」のオフィス開発計画を概観したい。
(1)「みなとみらい21地区」
「みなとみらい21地区」では、みなとみらい21中央地区37街区で、パナソニックホームズ、鹿島建設、ケネディクスが「横浜コネクトスクエア」(地上 28階建て・延床面積約12.2万m2・オフィス貸室総面積約6.3万m2)を開発し、2023年1月に竣工した4(図表-18 ①)。また、みなとみらい21中央地区60・61街区で、ケン・コーポレーションが音楽アリーナ、ホテル、オフィスを併設した「ミュージックテラス」(オフィス部分「Kタワー横浜」:地上 21階建て・延床面積約2.7万m2)を開発し、2023年9月に開業した5(図表-18 ②)。

そして、2024年以降も、複数の大規模開発が計画されている。みなとみらい21中央地区53街区で、大林組、京浜急行電鉄、日鉄興和不動産、ヤマハおよびみなとみらい53EASTが「横浜シンフォステージ」(地上 30階建て・延床面積約18.3万m2)を開発し、2024年3月に完成予定である6(図表-18 ③)。また、みなとみらい21中央地区53街区で、大和ハウス工業と光優が世界初のゲームアートミュージアム、地域熱供給プラント、オフィスを併設した施設(延床面積約11.4万m2・オフィス棟:地上29階建・ミュージアム棟:3階建て)を開発し、2027年7月に開業予定である7(図表-18 ④)。また、前述の「ミュージックテラス」の隣地でケン・コーポレーション、SMFLみらいパートナーズ、鹿島建設、および学校法人岩崎学園が、西側に専門学校、東側に商業施設、ホテル、ミュージアム、オフィスなどから構成される複合施設(延床面積約13万m2)を開発し、2029年2月の竣工を予定している8(図表-18 ⑤)。

1983年11月に事業着工した「みなとみらい21地区」の開発進捗率は、前述の開発計画を含めて99%となる9。2022年時点の進出企業数は1890社、就業者は13万人を超える。横浜市の推計(2020年時点)によれば、MM21地区の都市稼働による横浜市内への経済波及効果は、年間約2兆 846 億円に達している10

今後、「みなとみらい21地区」のまちづくりが完了することで、横浜の地域経済およびオフィス市場への影響力が一層高まることが予想される。
図表-18 「みなとみらい21地区」におけるオフィス開発計画
 
4 鹿島建設「横浜コネクトスクエア」HP
5 ケン・コーポレーション「大規模複合開発 - ミュージックテラス-」HP
6 株式会社大林組・京浜急行電鉄株式会社・日鉄興和不動産株式会社・ヤマハ株式会社・みなとみらい53EAST合同会社「みなとみらい21中央地区53街区開発事業の街区名称を 『横浜シンフォステージ(YOKOHAMA SYMPHOSTAGE)』 に決定」2022/8/29
7 大和ハウス工業株式会社・株式会社光優「世界初のゲームアートミュージアム、地域熱供給プラント、オフィスを併設「みなとみらい21中央地区52街区開発事業」着工」2024/2/21
8 横浜市「みなとみらい21中央地区60・61街区の事業予定者が決定しました」2024/2/5
9 日本経済新聞 「横浜みなとみらい21開発 着工40年、最終段階「53街区」、「60・61街区」始動 新たなにぎわい拠点に」(2024年3月15日)
10 横浜市都市整備局横浜駅・みなとみらい推進課「みなとみらい21地区の開発や事業活動がもたらす横浜市内への経済波及効果を推計しました!」(2023年5月20日)
(2)「関内地区」
「関内地区」では、大同生命が中区港町2丁目の「大同生命横浜ビル」および隣地ビルを一体で建替えを行い、地上13階のオフィスビルを開発し、2024年4月に竣工予定である11(図表-19 ①)。

その後も、複数の大規模開発が計画されている。中区港町1丁目の横浜市旧市庁舎跡地に、三井不動産等8社がオフィスや大学、アリーナ等を併設した施設(総延床面積約12.9万m2)を開発し、2026年春に開業予定である12(図表-19 ②)。また、日本郵船、三菱地所、鹿島建設が共同で設立した中区海岸通デベロップメント特定目的会社が中区海岸通3丁目でオフィス、ホテル、インキュベーション施設等を併設した複合施設(地上21階建て・延床面積約7.1万m2)を開発し、2027年1月に竣工予定である13(図表-19 ③)
図表-19 「関内地区」におけるオフィス開発計画
 
11 大同生命「「大同生命横浜ビル建替え計画」新築工事に着手」(2022年3月30日)
12 三井不動産株式会社・鹿島建設株式会社・京浜急行電鉄株式会社・第一生命保険株式会社・株式会社竹中工務店・株式会社ディー・エヌ・エー・東急株式会社・星野リゾート「JR「関内」駅前に「横浜市旧市庁舎街区活用事業」着工 旧市庁舎行政棟を保存・活用し、横浜の歴史や文化を継承 「新旧融合」の新たな街が2026年春グランドオープン」(2022年7月12日)
13 建設通信新聞 「【横浜・郵船ビル隣に7万平米複合ビル】4月着工、完成は27年1月」(2023年11月2日)
(3) 神奈川県(横浜市・川崎市)の新規供給予定面積
2023年の新規供給面積は、「横浜コネストスクエア」や「Kタワー横浜」等の大規模ビル竣工に伴い、前年の約4倍の約2.6万坪に増加した。

2024年も「横浜シンフォステージ」等の大規模ビルが竣工し、新規供給量は約3.1万坪に達する見込みである。2025年は一旦落ち着くものの、2026年は「みなとみらい21地区」等で大規模ビルが竣工予定で、新規供給量は約2.7万坪となる見通しである(図表-20)。
図表-20 神奈川県のオフィスビル新規供給見通し
3-3.賃料見通し
前述のオフィスビルの新規供給見通しや経済予測14、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2028年までの横浜のオフィス賃料を予測した(図表-21)。

神奈川県の就業者数は増加しているものの、今後、生産年齢人口は減少に向かう見通しである。また、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強い一方、企業活動はコロナ禍からの回復は鈍く、物価高騰のダメージも受けている。これらのことを勘案すると、横浜ビジネスエリアの「オフィスワーカー数」の増加はやや力強さに欠ける懸念がある。

また、横浜市でも「在宅勤務」を取り入れた新たな働き方が一定程度定着している。フレキシブルな働き方に即したオフィスの拠点配置や利用形態を検討する企業の増加が予想される。

一方、新規供給は「みなとみらい21地区」や「関内地区」を中心に複数の大規模開発計画が進行中である。2024年と2026年に約3万坪の新規供給を控えるなか、今後、横浜の空室率は上昇することが予想される。

このため、横浜のオフィス成約賃料は、需給バランスの緩和に伴い下落基調で推移する見通しである。2023年の賃料を100とした場合、2024年は「96」、2028年は「86」に下落すると予想する。ただし、2023年対比で▲14%下落するものの、2018年と同程度の賃料水準に留まり、大幅な賃料下落には至らない見込みである。
図表-21 横浜のオフィス賃料見通し
 
14 経済見通しは、ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2023~2033年度)」(2023.10.12)、などを基に設定。
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2024年03月27日「不動産投資レポート」)

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