2023年10月25日

プライム市場からスタンダード市場へ移行した企業は177社~2023年10月時点の経過措置適用企業の進捗状況~

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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■ 上場会社数に占める経過措置適用企業の割合は約1割

図表1は、東証の公表資料から市場別の上場会社数と上場維持基準への適合計画を開示した企業数をまとめたものである。直近の2023年10月時点でもプライム市場上場1,658社のうち111社(全体の6.7%)、3市場合計だと3,825社のうち373社(全体の9.8%)が経過措置の適用を受けている。
図表1 各市場に占める経過措置適用企業の割合
次に、プライム市場に上場している経過措置適用企業について10月までの上場維持基準の進捗状況を確認する。図表2は、2023年10月20日時点までに企業が開示している最新の「適合計画書」をもとに、流通株式時価総額、流通株式比率、売買代金の上場維持基準に対する進捗状況と計画期間である。縦軸を赤枠で囲った数字は各項目のプライム市場の上場維持基準である。赤色は上場維持基準を達成した企業(適合見込みを含む)、灰色は未達の企業である。各項目の未達企業数は流通株式時価総額が76社、流通株式比率が25社、売買代金が14社あった。
図表2 基準達成に向けた進捗状況

■スタンダード市場への移行を選択した企業は177社

■ スタンダード市場への移行を選択した企業は177社

今回の経過措置の終了時期の明確化に伴い、特例措置として市場再編前に市場第一部に所属していたプライム市場上場企業を対象に、2023年4月1日~9月29日までの6か月間は審査なしでスタンダード市場へ移行できる機会が設けられた。図表3は、スタンダード市場への選択申請を決議した企業数の推移について月別にまとめたものである。

この特例措置を利用し、スタンダード市場への移行を選択した上場企業は累計で177社あった。

そのうちプライム市場上場維持基準未達企業は163社、上場維持基準に適合していたがスタンダード市場への移行を決めた企業は5社、もともと上場維持基準に抵触していなかったがスタンダード市場への移行を決めた企業は9社あった。
図表3 177社が10月20日にスタンダード市場へ移行
全ての上場維持基準に適合していながら、スタンダード市場への移行を選択した企業の主な理由は、上場維持基準への安定的な適合をあげている企業が多かった。図表4は全ての上場維持基準に適合していながらスタンダード市場への移行を決めた企業14社について、直近の流通株式時価総額、流通株式比率、平均売買代金の平均値、中央値、最大値、最小値を集計したものである。
図4 上場維持基準適合企業の項目別集計値
各項目とも最小値は上場維持基準をわずかに上回っているのみであった。特に流通株式時価総額は中央値でも110億円と上場維持基準の100億円に接近している。上場維持基準に適合しながらスタンダード市場への移行を決めた企業の多くが、株価の動向次第ではプライム市場の上場維持基準に抵触するリスクがあったことがうかがえる。

次に、図表5は今回の特例措置期間中にスタンダード市場を選択した企業のうち、プライム市場上場維持基準に未達だった企業163社について9月末までに公表した資料をもとに、流通株式時価総額、流通株式比率、売買代金の上場維持基準に対する進捗状況と計画期間をまとめたものである。
図表5 スタンダード市場を選択した基準未達企業の項目別状況
3つの基準の中では、流通株式時価総額が未達の企業が最も多かった。この中では2025年以降に計画期間を設定している企業や上場維持基準から大きく乖離した企業が多かったようだ。ただし、上場維持基準を達成目前の企業も見られた。前述の上場維持基準に適合しているのにスタンダード市場への移行を決定した企業同様に、安定的に基準を上回るためにかけるコストや今後の上場廃止リスクを検討した結果、スタンダード市場への移行を決断したものと思われる。

■局所的な突風で終わらないためには

■ 局所的な突風で終わらないためには

今回の東証の市場再編は、当初はほとんどの上場企業に影響がなかった。それでも各市場の上場維持基準に抵触した経過措置適用企業だけは、大きな変革をせまられ、突風にあおられたような状況だったのではないだろうか。具体的な取組みにより企業価値が向上し上場維持基準に適合した企業もあれば、プライム上場企業のなかには自社の企業規模や業務内容をもとに再検討した結果、特例措置を利用してプライム市場からスタンダード市場への移行を選択した企業もある。上場維持基準は安定的に上回らなければならないため、上場維持基準当落線上の企業にとっては適合したから一安心とはいえないだろう。
 
とはいえ、今回、経過措置適用企業の取扱いに道筋がついたところで、現在は各市場ごとのコンセプトに沿って上場企業全体が実際にどのように企業価値を向上していくべきかに焦点が集まっている。今回の市場再編が局所的な突風で終わらずに、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応や英文開示の拡充等のより幅広い投資家への適宜適切な情報提供を通して、プライム市場上場企業を中心に中長期的な企業価値向上と株価上昇につながることが期待されている。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

(2023年10月25日「基礎研レター」)

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