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少子化対策の財源に関する最近の議論について
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
政府は少子化の問題を改善するために、児童手当の拡充等「お金」の面で子育てを支える制度を次々と打ち出している。2023年1月からは「出産・子育て応援給付金」を施行し、妊娠期に「出産応援金」として5万円分、出生後にお子さま1人あたり「子育て応援金」として5万円分のクーポンを支給している。また、2023年4月からは出産育児一時金を既存の42万円から50万円に引き上げた。さらに、政府は6月13日、こども・子育て政策の強化に向けた具体策を盛り込んだ「こども未来戦略方針」(以下、方針)を閣議決定し、「若者・子育て世代の所得を伸ばさない限り、少子化を反転させることはできない」ことを明確に打ち出した。
政府は、「次元の異なる少子化対策」の基本理念として、(1)構造的賃上げ等と併せて経済的支援を充実させ、若い世代の所得を増やすこと、(2)社会全体の構造や意識を変えること、(3)全てのこども・子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援することを挙げており、今後抜本的に政策を強化する立場を明らかにした。特に、全てのこども・子育て世帯を支援する対策の一環として、来年度から児童手当を大幅に拡充することにした。改革の主なポイントは、(1)所得制限の撤廃、(2)支給期間の延長、(3)第3子以降の加算額の拡大だと言える。
少子化が急速に進んでいる現状を考慮すると、所得の多い子育て世帯にペナルティになる「所得制限」の撤廃は妥当な措置だと考えられる。また、「次元の異なる少子化対策」の基本理念のように、社会全体の構造・意識を変え、社会全体で子育て世帯を支援する「子育ての社会化」を実現するための努力も必要である。少子化対策の財源に対する最近の議論「こども未来戦略会議」では児童手当の拡充等の子育て世帯を支援するための多様な政策を打ち出しているが、それを実現するためには安定的な財源を確保することが重要だ。しかし、今回の方針では少子化対策の費用をどう賄うか等の財源の詳細については明記していない。
少子化対策の財源確保案としては「消費税の引き上げ」、「国債の発行」、「社会保険料に上乗せした支援金制度の創設」、「歳出改革」、「事業者が全額負担する子ども・子育て拠出金の増額」等が議論された。
「消費税の引き上げ」については、世論の反発を受けやすいとの意見があり、早々に選択肢から外された。しかしながら、消費税を引き上げて少子化対策の財源にすべきだと主張する専門家等が少なからず存在していることを考慮すると今後も消費税引き上げやその活用に関する議論は続くと考えられる。
次は「国債の発行」であるが、日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準であることを考慮すると、少子化対策のために国債を追加的に発行することはなかなか厳しい状況である。
このような状況の中で、「社会保険料に上乗せした支援金制度の創設」が有力な財源確保案として浮上した。政府は2024年度から「こども・子育て支援加速化プラン」を段階的にスタートする予定であり、児童手当の拡充、育児給付金の引き上げなどを実現するための予算として毎年約3兆円の追加予算が必要だと見込んでいる。「支援金制度」はこの必要な財源の一部を社会保険料に上乗せして、社会全体で子育て費用を負担していこうという考えだ。政府の試算では社会保険料への上乗せ額は国民1人あたり月500円程度になると推計された。
しかしながら「社会保険料への上乗せ」に対して国民は冷たい反応を見せている。日本経済新聞社が5月26~28日に実施した世論調査によると、政府が調整している医療保険料などに上乗せする案について「反対」が69%で「賛成」の23%を大きく上回った。また、専門家や経済界、さらに自民党内でも「社会保険料への上乗せ」について反対する声が出た。
予想以上に反対する人が多いこともあり、先の方針では、「2028年度までに徹底した歳出改革等を行い、それらによって得られる公費の節減等の効果及び社会保険負担軽減の効果を活用しながら、実質的に追加負担を生じさせないことを目指す。」と、「社会保険料への上乗せ」については直接的な言及をしていない。しかし、小倉将信内閣府特命担当大臣は7月4日の記者会見で、少子化対策の財源を巡り企業を含めて幅広く負担を求める新たな支援金制度を検討する準備室を設置したと発表した。年末までに結論を出し、来年には法案を提出する方針であり、今後は「社会保険料に上乗せした支援金制度の創設」を中心に少子化対策の財源が議論されていく可能性が高い。
(2023年10月25日「研究員の眼」)
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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