2023年06月21日

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1. はじめに

福岡のオフィス市場は、オフィス需要がコロナ禍で受けたダメージから回復し空室率と成約賃料は概ね横ばいで推移していたが、今年に入り、新規オフィスビル供給の増加を受けて空室率は再び上昇に転じている。本稿では、福岡のオフィス市況を概観した上で、2027年までの賃料予測を行う。

2. 福岡オフィス市場の現況

2. 福岡オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
三幸エステートによると、福岡市の空室率(2023年5月時点)は、新規大規模オフィスビルが空室を残して竣工した影響により5.2%(前年比+1.2%)に上昇した(図表-1)。

福岡市の空室率を規模1別にみると、「大規模4.5%(前年比+1.7%)」と「大型4.8%(同+1.7%)」が上昇する一方、「中型6.6%(同▲0.2%)」と「小型7.2%(同▲0.2%)」がわずかに低下し、規模間の格差が縮小した(図表-2)。テレワークの普及や働き方の変化等に伴うワークプレイスの見直しが進むなか、まとまった面積の募集では、入居テナントの決定に時間を要する事例が増えている。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 福岡オフィスの規模別空室率
全国主要都市では、オフィス床の解約や事業拠点の一部閉鎖などに伴い、空室面積が増加傾向にあり、成約賃料にも頭打ち感がみられる。2022年下期の福岡市の成約賃料は、前期比▲3.3%、前年同期比▲2.1%となった(図表-3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2022年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、上昇と低下で分かれる結果となった。また、成約賃料は、札幌市が上昇、東京都心5区が下落、その他の都市は概ね横ばいで、福岡市の空室率と賃料はともに前年とほぼ変わらずであった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した福岡市の賃料サイクル2は、2012 年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」の局面が続いていたが、2020 年下期以降「空室率上昇・賃料上昇」局面を経て、現在は「空室率上昇・賃料下落」の局面に向かいつつある(図表-5)。
図表-4 2022年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 福岡オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、福岡ビジネス地区では、「博多イーストテラス」や「福岡舞鶴スクエア」等、大型ビルが竣工したことに伴い、2022年末の賃貸可能面積(総供給面積)は72.5万坪(前年比+1.5万坪)に増加した。

2022 年末のテナントによる賃貸面積(総需要面積)は69.3万坪(前年比+1.5万坪)となり、空室面積は3.2万坪(前年比±0.0万坪)と前年末から横ばいとなった(図表-6、図表-7)。
図表-6 福岡ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
図表-7 福岡ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によると、2022年末時点で賃貸可能面積が最も大きいエリアは、「博多駅前地区(23.9%)」で、次いで「天神地区(21.9%)」、「博多駅東・駅南地区(16.5%)」、「祇園・呉服町地区(15.0%)」、「薬院・渡辺通地区(12.0%)」、「赤坂・大名地区(10.6%)」の順となっている(図表-8)。

2022年は、賃貸可能面積が全ての地区で増加し、福岡ビジネス地区全体で+1.5万坪増加した。特に、「赤坂・大名地区」(前年比+0.5万坪)と「天神地区」(同+0.5万坪)で増加した。

賃貸面積も、全ての地区で増加し、福岡ビジネス地区全体で+1.5万坪増加し、結果として、空室面積は前年末と同水準となった(図表-9)。
図表-8 福岡ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2022年)/図表-9 福岡ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2022年)
エリア別の空室率(2023年5月時点)は、「赤坂・大名地区」が9.9%(前年比+4.8%)、「祇園・呉服町地区」が7.9%(同+1.9%)、「博多駅前地区」が6.1%(同+0.7%)、「博多駅東・駅南地区」が5.2%(前年比+0.8%)に上昇した一方、「天神地区」が5.6%(同▲1.8%)、「薬院・渡辺通地区」が2.0%(同▲0.3%)に低下した(図表-10左図)。

また募集賃料は、全てのエリアにおいて上昇基調で推移しており、特に、「赤坂・大名地区」(前年比+5.5%)の賃料が大きく上昇した(図表-10右図)。
図表-10 福岡ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)

3. 福岡オフィス市場の見通し

3. 福岡オフィス市場の見通し

3-1. 新規需要の見通し
(1)オフィスワーカー数の見通し
住民基本台帳人口移動報告によると、2022年の福岡市の転入超過数は+6,031人となり、転入超過を維持したものの、前年から▲16%減少した(図表-11)。

また、2022 年の福岡県の就業者数は261.3万人(前年比±0.0 万人)となり、2020年以降横ばいで推移している(図表-12)。
図表-11 主要都市の転入超過数/図表-12 福岡県の就業者数
以下では、福岡のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「福岡財務支局」の管轄下3県(福岡県・佐賀県・長崎県)」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(福岡財務支局)は、コロナ禍が発生して2020年第2四半期に「▲53.7」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら、2023 年第1四半期に「+5.8」まで回復した(図表-13)。

また、「従業員数判断BSI4」(福岡財務支局)は、新型コロナウィルス感染拡大後、「+22.5」(2020年第1四半期)から「+5.2」(第2四半期)へ大幅に低下した。その後は順調に回復し、足もとでは「+26.4」とコロナ禍前の水準を上回り人手不足感が強まっている(図表-14)。

福岡市では、人口の流入超過が継続しているもののその勢いは鈍化しており、福岡県の就業者は横ばいで推移している。一方、「企業の経営環境」および「雇用環境」はコロナ禍で受けたダメージから立ち直り順調な回復を示している。以上を鑑みると、福岡市のオフィスワーカー数が大幅に減少する懸念は小さいと言える。
図表-13 企業の景況判断BSI(全産業)/図表-14 従業員数判断BSI(全産業)
 
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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