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インド経済の見通し~輸出悪化や高インフレ、金融引き締めが逆風となり景気減速へ(2022年度+7.0%、2023年度+6.0%)
経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠
経済概況:ベース効果が弱まり成長率が低下
産業部門別に見ると、まず第三次産業は同+9.3%増(前期:同+17.6%増)と伸びが鈍化したものの、高成長を保った。貿易・ホテル・交通・通信が同+14.7%(前期:同+25.7%)と二桁成長が続いたほか、金融・不動産が同+7.2%(前期:同+9.2%増)、行政・国防が同+6.5%(前期:同+26.3%)となり、それぞれ堅調な伸びとなった。
また第一次産業は同+4.6%(前期:同+4.5%)となり、順調に増加した。
一方、第二次産業は同▲0.8%(前期:同+8.6%)と減少した。製造業が同▲4.3%(前期:同+4.8%)、鉱業が同▲2.8%(前期:同+6.5%)と落ち込んだものの、建設業が同+6.6%(前期:同+16.8%)、電気・ガスが同+5.6%(前期:同+14.7%)と底堅い伸びとなった。
4-6月期は比較対象となる前年の実質GDPがデルタ株の感染拡大と活動制限により落ち込んでいたため、ベース効果が働いて二桁成長となったが、7-9月期は経済活動の再開が進むなかでベース効果が弱まり成長率が低下することとなった。前期比でみると、7-9月期の実質GDP成長率は+3.6%であり、インフレの加速や積極的な金融引き締めの影響が懸念されるなか、高成長を実現したかにみえる。
7-9月期はコロナ禍からの経済活動の回復が続き、サービス部門(前年同期比+9.3%)と民間消費(同+7.7%)が堅調な伸びを維持した。新型コロナへの警戒感が弱まり消費行動が正常化するなか、対面型サービス業が回復して貿易・ホテル・交通・通信(同+14.7%)が二桁成長を記録、漸くコロナ禍前の水準を回復した。また7-9月期の国内線旅客数(前年同期比+64.1%)は大幅な増加が続き(図表3)、観光関連産業の回復が顕著であるほか、祭事期を前に需要が拡大した乗用者の販売台数(同+34.4%)も盛り上がりをみせている。
また投資(同+10.4%)も堅調に拡大した。中央政府が設備投資を前倒しているため、7-9月期は中央政府の資本支出が同+42.4%と高水準を維持しており、公共投資の拡大が牽引役となった(図表4)。こうした公共投資の拡大は民間部門の雇用創出を促し、民間消費の回復にも寄与している。
一方、純輸出は引き続き経済成長の足かせとなった。まず輸出は同+11.5%と二桁成長を維持した。ゼロコロナ政策を続ける中国経済の減速などにより財貨輸出の伸びは鈍化傾向にあるが、7-8月の外国人訪問者数が113万人と前年の6倍(コロナ禍前の6割)の水準まで回復しており、サービス輸出の好調が下支え役となったとみられる。一方、旺盛な内需を背景に輸入(前年同期比+25.4%)は輸出を大きく上回る伸びをみせており、純輸出の成長率寄与度は▲4.3%ポイントのマイナスとなった。
また、こうした輸出の鈍化に製造コストの増加の影響が加わり、製造業生産(同▲4.3%)は2四半期ぶりのマイナス成長となった。
1 11月30日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2022年7-9月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
経済見通し:輸出悪化や高インフレ、金融引き締めが逆風となり景気減速へ
一方、公共投資の拡大は引き続き景気回復をサポートするだろう。今年度国家予算では、資本支出が前年度比35.4%増の7兆5,000億ルピーに大幅に引き上げられており、政府は大型インフラ投資計画「ガティ・シャクティ」政策を推進することにより経済成長を後押しする計画である。またインドは2024年に次期総選挙を控えており、4月から始まる来年度国家予算では経済成長を優先した拡張的な予算編成が組まれる可能性が高い。
7-9月の消費者物価上昇率は同7.0%(4-6月期:同7.3%)と高止まりし、家計を圧迫する状況が続いている(図表6)。ウクライナ情勢の悪化を背景とした原油や食品価格の高騰、サプライチェーンの混乱、通貨ルピー安による輸入物価の上昇などが、これまで物価の押し上げ要因となってきた。最近の国際商品市況の下落によりインフレ圧力がやや緩和したが、内需が旺盛で消費者物価は高止まりしている。しかし、23年前半から次第にインフレ率が鈍化しそうだ。22年は記録的な熱波の影響で小麦が不作となったものの、10~11月の作付けが順調で23年の小麦の収穫量は大幅に増えると予想されており、3月からの収穫が始まれば食品インフレが鈍化しよう。また足元では米ドル高にピークアウトの兆しが見られ始めており、ルピー安に伴う輸入物価の上昇も次第に和らぐだろう。
実質GDPは、経済正常化の過程における回復の勢いが一服するほか、輸出悪化や足元のインフレの高止まり、金融引き締め策の継続などが逆風となり、22年度の成長率が前年度比+7.0%(21年度の同+8.7%)、23年度が同+6.0%と低下するが、公共投資の拡大や来年半ばのインフレ鈍化により内需を中心に底堅い成長を維持すると予想する(図表8)。
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03-3512-1780
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
(2022年12月06日「基礎研レター」)
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