2022年12月06日

インド経済の見通し~輸出悪化や高インフレ、金融引き締めが逆風となり景気減速へ(2022年度+7.0%、2023年度+6.0%)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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経済概況:ベース効果が弱まり成長率が低下

2022年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+6.3%となり、前期の同+13.5%から低下したほか、Bloombergが集計した市場予想(同+6.2%と一致した1(図表1)。
(図表1)インドの実質GDP成長率(需要側) 7-9月期の実質GDPを需要項目別にみると、純輸出の悪化内需は民間消費が前年同期比+7.7%(前期:同+21.3%)、総固定資本形成が同+10.4%(前期:同+20.1%)とそれぞれ減速したほか、政府消費が同▲4.4%(前期:同+1.3%)と減少した。

外需は、輸出が同+11.5%(前期:同+14.7%)、輸入が同+25.4%(前期:同+37.2%)と、それぞれ伸び率が低下したものの、二桁成長が続いた。結果として、純輸出の成長率寄与度は▲4.3%ポイント(前期:▲6.2%ポイント)とマイナス幅が縮小した。
(図表2)インドの実質GVA成長率(産業別) 2022年7-9月期の実質GVA成長率は前年同期比+5.6%(前期:同+12.7%)と低下した(図表2)。主に製造業の落ち込みが成長率低下に繋がった。

産業部門別に見ると、まず第三次産業は同+9.3%増(前期:同+17.6%増)と伸びが鈍化したものの、高成長を保った。貿易・ホテル・交通・通信が同+14.7%(前期:同+25.7%)と二桁成長が続いたほか、金融・不動産が同+7.2%(前期:同+9.2%増)、行政・国防が同+6.5%(前期:同+26.3%)となり、それぞれ堅調な伸びとなった。

また第一次産業は同+4.6%(前期:同+4.5%)となり、順調に増加した。

一方、第二次産業は同▲0.8%(前期:同+8.6%)と減少した。製造業が同▲4.3%(前期:同+4.8%)、鉱業が同▲2.8%(前期:同+6.5%)と落ち込んだものの、建設業が同+6.6%(前期:同+16.8%)、電気・ガスが同+5.6%(前期:同+14.7%)と底堅い伸びとなった。
インド経済は底堅い成長が続いている。21年度は新型コロナウイルスの変異株(デルタ株とオミクロン株)の発生による感染再拡大が生じて実質GDPが落ち込んだが、全国的な都市封鎖のような厳格な活動制限措置までは実施しなかったほか、その後の経済活動の再開が進んだことから、通年の成長率が+8.7%(20年度:▲6.6%)とプラスに転じた。そして22年度は4-6月期の成長率が前年期比+13.5%と、21年1-3月期の同+4.1%から跳ね上がったが、7-9月期は同+6.3%に鈍化することとなった。

4-6月期は比較対象となる前年の実質GDPがデルタ株の感染拡大と活動制限により落ち込んでいたため、ベース効果が働いて二桁成長となったが、7-9月期は経済活動の再開が進むなかでベース効果が弱まり成長率が低下することとなった。前期比でみると、7-9月期の実質GDP成長率は+3.6%であり、インフレの加速や積極的な金融引き締めの影響が懸念されるなか、高成長を実現したかにみえる。

7-9月期はコロナ禍からの経済活動の回復が続き、サービス部門(前年同期比+9.3%)と民間消費(同+7.7%)が堅調な伸びを維持した。新型コロナへの警戒感が弱まり消費行動が正常化するなか、対面型サービス業が回復して貿易・ホテル・交通・通信(同+14.7%)が二桁成長を記録、漸くコロナ禍前の水準を回復した。また7-9月期の国内線旅客数(前年同期比+64.1%)は大幅な増加が続き(図表3)、観光関連産業の回復が顕著であるほか、祭事期を前に需要が拡大した乗用者の販売台数(同+34.4%)も盛り上がりをみせている。

また投資(同+10.4%)も堅調に拡大した。中央政府が設備投資を前倒しているため、7-9月期は中央政府の資本支出が同+42.4%と高水準を維持しており、公共投資の拡大が牽引役となった(図表4)。こうした公共投資の拡大は民間部門の雇用創出を促し、民間消費の回復にも寄与している。

一方、純輸出は引き続き経済成長の足かせとなった。まず輸出は同+11.5%と二桁成長を維持した。ゼロコロナ政策を続ける中国経済の減速などにより財貨輸出の伸びは鈍化傾向にあるが、7-8月の外国人訪問者数が113万人と前年の6倍(コロナ禍前の6割)の水準まで回復しており、サービス輸出の好調が下支え役となったとみられる。一方、旺盛な内需を背景に輸入(前年同期比+25.4%)は輸出を大きく上回る伸びをみせており、純輸出の成長率寄与度は▲4.3%ポイントのマイナスとなった。

また、こうした輸出の鈍化に製造コストの増加の影響が加わり、製造業生産(同▲4.3%)は2四半期ぶりのマイナス成長となった。
(図表3)国内線旅客数と外国人訪問者数/(図表4)中央政府支出
 
1 11月30日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2022年7-9月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。

経済見通し

経済見通し:輸出悪化や高インフレ、金融引き締めが逆風となり景気減速へ

インド経済は7-9月期も対面型サービス業を中心に回復傾向が続いたが、今後はコロナ禍からの回復の一巡により成長ペースは鈍化するだろう。また欧米を中心に世界経済は景気減速・後退懸念が高まり、足元では輸出の減速傾向が強まっており、外需は来年度も成長率の押し下げ要因になると予想されるほか、内需は足もとのインフレの高止まりや金融引き締め策の継続が重石となり、当面は消費と投資の勢いが弱まりそうだ。

一方、公共投資の拡大は引き続き景気回復をサポートするだろう。今年度国家予算では、資本支出が前年度比35.4%増の7兆5,000億ルピーに大幅に引き上げられており、政府は大型インフラ投資計画「ガティ・シャクティ」政策を推進することにより経済成長を後押しする計画である。またインドは2024年に次期総選挙を控えており、4月から始まる来年度国家予算では経済成長を優先した拡張的な予算編成が組まれる可能性が高い。

7-9月の消費者物価上昇率は同7.0%(4-6月期:同7.3%)と高止まりし、家計を圧迫する状況が続いている(図表6)。ウクライナ情勢の悪化を背景とした原油や食品価格の高騰、サプライチェーンの混乱、通貨ルピー安による輸入物価の上昇などが、これまで物価の押し上げ要因となってきた。最近の国際商品市況の下落によりインフレ圧力がやや緩和したが、内需が旺盛で消費者物価は高止まりしている。しかし、23年前半から次第にインフレ率が鈍化しそうだ。22年は記録的な熱波の影響で小麦が不作となったものの、10~11月の作付けが順調で23年の小麦の収穫量は大幅に増えると予想されており、3月からの収穫が始まれば食品インフレが鈍化しよう。また足元では米ドル高にピークアウトの兆しが見られ始めており、ルピー安に伴う輸入物価の上昇も次第に和らぐだろう。
(図表5)インドの貿易動向/(図表6)消費者物価上昇率
インド準備銀行(中央銀行)は消費者物価上昇率が中銀の許容範囲の上限となる6%を上回る状況にあることを受けて、今年5月以降、政策金利を5.9%(計1.9%の利上げ)まで引き上げている。足元ではルピー安に歯止めがかかりつつあるが、先行きは依然として不透明であり、国内経済は底堅い成長を維持するなかで政策金利は来年前半にかけて0.5%引き上げられると予想する(図表7)。追加利上げが実施された場合、インフレ圧力は和らぐものの、金利上昇が消費や設備投資を抑制することになるため、景気の勢いは緩やかなものとなりそうだ。

実質GDPは、経済正常化の過程における回復の勢いが一服するほか、輸出悪化や足元のインフレの高止まり、金融引き締め策の継続などが逆風となり、22年度の成長率が前年度比+7.0%(21年度の同+8.7%)、23年度が同+6.0%と低下するが、公共投資の拡大や来年半ばのインフレ鈍化により内需を中心に底堅い成長を維持すると予想する(図表8)。
(図表7)政策金利と銀行間金利/(図表8)経済予測表
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年12月06日「基礎研レター」)

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