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- インド経済の見通し~高インフレと断続的な利上げが逆風も、底堅い成長が続く(2022年度+7.2%、2023年度+6.2%)
2022年09月05日
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経済概況:感染改善とベース効果の影響で成長率が急伸

4-6月期の実質GDPを需要項目別にみると、内需は政府消費が同+1.3%(前期:同+4.8%)と鈍化したものの、民間消費が同+25.9%(前期:同+1.8%)、総固定資本形成が前年同期比+20.1%(前期:同+5.1%)とそれぞれ大幅に増加した。
外需は、輸出が同+14.7%(前期:同+16.9%)と伸びが鈍化した一方、輸入が同+37.2%(前期:同+18.0%)と一段と上昇した。結果として、純輸出の成長率寄与度は▲6.2%ポイント(前期:▲1.0%ポイント)とマイナス幅が拡大した。

産業部門別に見ると、第一次産業は同+4.5%(前期:同+4.1%)となり、順調に増加した。
第二次産業は同+8.6%(前期:同+1.3%)と上昇した。製造業が同+4.8%(前期:同▲0.2%)とプラス成長に転じたほか、建設業が同+16.8%(前期:同+2.0%)、電気・ガスが同+14.7%(前期:同+4.5%)とそれぞれ上昇した。鉱業は同+6.5%(前期:同+6.7%)と堅調な伸びを保った。
第三次産業は同+17.6%増(前期:同+5.5%増)と上昇、二桁増となった。まず商業・ホテル・運輸・通信が同+25.7%(前期:同+5.3%)、行政・国防が同+26.3%(前期:同+7.7%)と大幅に増加したほか、金融・不動産が同+9.2%(前期:同+4.3%増)と堅調に推移した。
インドは2020年度に新型コロナ対策として全国的な都市封鎖など厳しい活動制限措置を実施したため、社会経済活動が混乱して4-6月期の実質GDP成長率が前年同期比▲23.8%と急減、その後は活動制限措置の段階的な緩和に伴いV字回復して10-12月期以降はプラス成長が続いている。2021年度は新型コロナウイルスの変異株(デルタ株とオミクロン株)の発生による感染再拡大が生じたが、全国的な都市封鎖のような厳格な活動制限措置までは実施しなかったため、成長率は前年度比+8.7%となり、2020年度の同▲6.6%からプラスに転換した。
22年4-6月期は成長率が前年同期比+13.5%と、前期の同+4.1%から跳ね上がり、7期連続のプラス成長となった。4-6月期の成長率上昇は比較対象となる前年の実質GDPがデルタ株の感染拡大と活動制限により落ち込んでいたため、ベース効果が働いた影響が大きいとみられる。もっとも前期比(季節調整済)の成長率をみると、4-6月期が+5.0%(1-3月期:同+1.5%)と加速しており、景気回復が順調だったことも確かだ。
4-6月期は新型コロナウイルスの感染状況が改善したことも経済回復に繋がった。インドでは昨年末にオミクロン株の感染拡大が生じて、地方政府が各地で週末や夜間の外出禁止措置を実施したため、1-3月期は経済活動に一定程度制限がかかることとなったが、4-6月期の新規感染者数は平均4,000人程度で落ち着いて推移しており、活動制限措置の解除によって民間消費が同+25.9%と大幅に増加した(図表3)。実際、4-6月期の小売・娯楽施設への人流はコロナ前比で+9.6%と、1-3月期の同+0.3%から増加した(図表4)。こうした感染リスクの低下は対面型サービス業の多い商業・ホテル・運輸・通信の成長率が同+25.7%(1-3月期:同+5.3%)と急伸したこととも整合的である。
輸出(同+14.7%)はゼロコロナ戦略を続ける中国の景気減速の影響が懸念されたものの、欧米向け輸出が好調を維持したほか、国際商品市況の高騰で潤う中東・アフリカ向けの輸出増が追い風となり、二桁成長を保った。しかし、内需の回復により財貨輸入は大幅に増加(同+37.2%)しており、外需は成長率の押し下げ要因となった。
また総固定資本形成(同+20.1%)も改善。消費を中心とした内需の持ち直しに加え、輸出拡大や大規模なインフラ開発を続ける政府の支出拡大などにより押し上げられたものとみられる。
22年4-6月期は成長率が前年同期比+13.5%と、前期の同+4.1%から跳ね上がり、7期連続のプラス成長となった。4-6月期の成長率上昇は比較対象となる前年の実質GDPがデルタ株の感染拡大と活動制限により落ち込んでいたため、ベース効果が働いた影響が大きいとみられる。もっとも前期比(季節調整済)の成長率をみると、4-6月期が+5.0%(1-3月期:同+1.5%)と加速しており、景気回復が順調だったことも確かだ。
4-6月期は新型コロナウイルスの感染状況が改善したことも経済回復に繋がった。インドでは昨年末にオミクロン株の感染拡大が生じて、地方政府が各地で週末や夜間の外出禁止措置を実施したため、1-3月期は経済活動に一定程度制限がかかることとなったが、4-6月期の新規感染者数は平均4,000人程度で落ち着いて推移しており、活動制限措置の解除によって民間消費が同+25.9%と大幅に増加した(図表3)。実際、4-6月期の小売・娯楽施設への人流はコロナ前比で+9.6%と、1-3月期の同+0.3%から増加した(図表4)。こうした感染リスクの低下は対面型サービス業の多い商業・ホテル・運輸・通信の成長率が同+25.7%(1-3月期:同+5.3%)と急伸したこととも整合的である。
輸出(同+14.7%)はゼロコロナ戦略を続ける中国の景気減速の影響が懸念されたものの、欧米向け輸出が好調を維持したほか、国際商品市況の高騰で潤う中東・アフリカ向けの輸出増が追い風となり、二桁成長を保った。しかし、内需の回復により財貨輸入は大幅に増加(同+37.2%)しており、外需は成長率の押し下げ要因となった。
また総固定資本形成(同+20.1%)も改善。消費を中心とした内需の持ち直しに加え、輸出拡大や大規模なインフラ開発を続ける政府の支出拡大などにより押し上げられたものとみられる。
1 8月31日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2022年4-6月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
経済見通し:高インフレと断続的な利上げが逆風も、底堅い成長が続く
今後も新型コロナウイルスの新たな変異株が出現する可能性があるが、ワクチンの更なる普及や治療薬の確保など感染対策が整備されるなかで経済活動との両立が容易になり、都市封鎖のような厳しい活動制限措置は回避されることを想定している。このため、先行きは感染抑制を背景にコロナ禍からの社会経済活動の正常化が進み、対面型サービス業を中心に景気回復が続くだろう。
足元のインドの新規感染者数はやや増加したものの、1日1万人弱で推移しており、感染拡大を抑えることができている。8月の失業率は8.3%まで上昇したが、人流は8月に入って改善傾向を示しており(図表5)、これまでのところ7-9月期も感染状況の改善と活動制限の緩和による内需の持ち直しは続くものとみられる。
また公共投資の拡大も景気回復をサポートするだろう。今年度国家予算では、資本支出が前年度比35.4%増の7兆5,000億ルピーに大幅に引き上げられており、政府は大型インフラ投資計画「ガティ・シャクティ」政策を推進することにより経済成長を後押しする計画である。
一方、今後はベース効果の影響が一巡するため、年末にかけて景気回復の勢いは鈍化しそうだ。また欧米を中心に世界経済は景気減速・後退懸念が高まっており、輸出の鈍化が予想される。
さらにインフレ高進や世界的な金融引き締め、長引く地政学的な緊張などから生じるリスクの高まりが、引き続き経済の見通しに重くのしかかっており、景気回復の勢いが削がれる恐れがある。
4-6月の消費者物価上昇率は同7.3%(1-3月期:同6.3%)と上昇し、家計を圧迫する状況が続いている(図表6)。ウクライナ情勢の悪化を背景とした原油や食品価格の高騰、サプライチェーンの混乱、通貨ルピー安による輸入物価の上昇などが、これまで物価の押し上げ要因となってきた。最近の国際商品市況の下落によりインフレ圧力がやや緩和したほか、政府も自動車燃料税や食用油税の減税、肥料、調理用燃料費への補助金の増額などの物価上昇対策を打ち出しているが、民間消費への逆風は続くものとみられる。
足元のインドの新規感染者数はやや増加したものの、1日1万人弱で推移しており、感染拡大を抑えることができている。8月の失業率は8.3%まで上昇したが、人流は8月に入って改善傾向を示しており(図表5)、これまでのところ7-9月期も感染状況の改善と活動制限の緩和による内需の持ち直しは続くものとみられる。
また公共投資の拡大も景気回復をサポートするだろう。今年度国家予算では、資本支出が前年度比35.4%増の7兆5,000億ルピーに大幅に引き上げられており、政府は大型インフラ投資計画「ガティ・シャクティ」政策を推進することにより経済成長を後押しする計画である。
一方、今後はベース効果の影響が一巡するため、年末にかけて景気回復の勢いは鈍化しそうだ。また欧米を中心に世界経済は景気減速・後退懸念が高まっており、輸出の鈍化が予想される。
さらにインフレ高進や世界的な金融引き締め、長引く地政学的な緊張などから生じるリスクの高まりが、引き続き経済の見通しに重くのしかかっており、景気回復の勢いが削がれる恐れがある。
4-6月の消費者物価上昇率は同7.3%(1-3月期:同6.3%)と上昇し、家計を圧迫する状況が続いている(図表6)。ウクライナ情勢の悪化を背景とした原油や食品価格の高騰、サプライチェーンの混乱、通貨ルピー安による輸入物価の上昇などが、これまで物価の押し上げ要因となってきた。最近の国際商品市況の下落によりインフレ圧力がやや緩和したほか、政府も自動車燃料税や食用油税の減税、肥料、調理用燃料費への補助金の増額などの物価上昇対策を打ち出しているが、民間消費への逆風は続くものとみられる。
インド準備銀行(中央銀行)は消費者物価上昇率が中銀の許容範囲の上限となる6%を上回る状況にあることを受けて、今年5月以降、政策金利を5.4%(計1.4%の利上げ)まで引き上げている。今後も国内経済の底堅い成長が続くなか、政策金利は年末にかけて0.5%引き上げられると予想する(図表7)。追加利上げが実施された場合、インフレ圧力は和らぐものの、金利上昇が消費や設備投資を抑制することになるため、景気回復は勢いに欠けるものとなりそうだ。
実質GDPは、経済正常化の過程における回復の勢いが一服するため22年度の成長率が前年度比+7.2%(21年度の同+8.7%)、23年度が同+6.2%と低下するが、底堅い成長が続くと予想する(図表8)。
実質GDPは、経済正常化の過程における回復の勢いが一服するため22年度の成長率が前年度比+7.2%(21年度の同+8.7%)、23年度が同+6.2%と低下するが、底堅い成長が続くと予想する(図表8)。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年09月05日「基礎研レター」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
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