2022年08月17日

英国雇用関連統計(22年7月)-求人数はピークアウト、実質賃金の伸びも低い

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:失業率は横ばい

8月16日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【7月】
失業保険申請件数1前月(154.24万件)から1.06万件減の153.18万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は3.9%となり、前月(同3.9%)から横ばいだった
給与所得者数2前月(2959.0万人)から7.3万人増の2966.3万人となった。
増減数は前月(+4.8万人)から増加し、市場予想3(+2.5万人)も上回った。

【6月(22年4-6月の3か月平均)】
失業率は3.8%で前月(3.8%)から横ばい、市場予想(3.8%)と同じだった(図表1)。
就業者は3279.2万人で3か月前の3263.2万人から16.0万人の増加となった。
増減数は前月(+29.6万人)から減少し、市場予想(+26.8万人)も下回った。
週平均賃金は、前年同期比5.1%で前月(6.4%)から減速したが、市場予想(4.5%)は上回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
2 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは約85%のデータから推計(22年7月から推計方法変更)。
3 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:求人数はピークアウト、実質賃金の伸び率は大幅マイナス

まず、7月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は22年5-7月の平均で127.4万件となり引き続き過去最高水準ではあるが、3-5月平均(129.9万件)をピークに減少傾向となっている(図表4)。単月の求人数も7月は128.3万件と4月(135.9万件)をピークに3か月連続で減少した4

給与所得者データでは、事務・支援サービスが雇用をけん引し、増加基調が続いている(図表4)。一方、7月は製造業、卸・小売業、建設業が前月比でマイナスとなり、製造業や卸・小売業はコロナ禍前水準と比較しても雇用者数が少ない。月あたり給与額(中央値)は前年同月比6.6%となり、6月(6.6%)から横ばいで推移している。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
次に6月までのデータ(労働力調査)を確認すると、22年4-6月期の失業率は3.8%で横ばいでの推移が続いている。ただし、前月比で見ると就業者が減少する一方、非労働力人口と失業者は増加しており、労働参加率は3-5月期の63.5%から63.3%に低下している。また、4-6月期の非労働力人口は、コロナ禍以降に増えた高齢層を含む幅広い年齢層で増加している(図表5)。
(図表5)英国の非労働人口の増減(コロナ禍前比)/(図表6)英国の名目賃金水準(週あたり賃金)
労働時間については、31.8時間(前年同期差+0.7時間)、フルタイム労働者で36.4時間(同+0.9時間)となり、横ばい推移が続いている(前掲図表2)。コロナ禍前との比較では、依然としてフルタイム労働者の労働時間がコロナ禍前水準まで回復しておらず、週間総労働時間は、コロナ禍前ピーク(19年8-10月)から1.2%低い水準となっている。賃金については、名目賃金が22年4-6月の前年同期比で5.1%まで減速、実質賃金は▲2.5%となり、実質伸び率は09年2-4月(▲4.5%)以来となるマイナス幅を記録した(前掲図表2)。6月はボーナス支払いが再び増えたことが全体の賃金伸び率を押し上げており(図表6)、ボーナスを除く賃金の伸び率は4-6月期で名目4.7%、実質で▲3.0%となり、実質では統計データで遡れる01年1-3月以降で最も低い伸び率を記録した。
 
4 3か月平均のデータは季節調整値だが、単月データは未季節調整値のため季節性が除去されていない点には留意が必要。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年08月17日「経済・金融フラッシュ」)

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