- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 金融・為替 >
- 金融政策 >
- 連続指値オペの導入効果-日銀の金融緩和政策による長期金利の下押し効果の測定
連続指値オペの導入効果-日銀の金融緩和政策による長期金利の下押し効果の測定

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹
1――各金融政策による日本国債金利(10年物)に対する押し下げ効果の測定(2022年7月末時点)
また、上記のモデル設定では、日本銀行の金融政策に伴う長期金利の下押し効果を「日銀のバランスシート拡大の効果」「物価安定の目標の導入効果」「マイナス金利政策の導入効果」「イールドカーブコントロール(YCC)とオーバーシュート型コミットメントの導入効果」に分けて計測している。それぞれ「日銀のバランスシート拡大の効果」が0.632%、「物価安定の目標の導入効果」が▲0.184%1(※)、「マイナス金利政策の導入効果」が0.217%、「YCCとオーバーシュート型コミットメントの導入効果」が0.429%となっている。
2022年3月末に日本銀行は連続指値オペを制度導入後初めて通知をした。連続指値オペはYCCを維持するための方策の一つと捉えられるが、連続指値オペの初通知以降「YCCとオーバーシュート型コミットメントの導入効果」による下押し効果が強まっている。本稿の計測では2022年2月末との比較で「YCCとオーバーシュート型コミットメントの導入効果」は0.25%程度増大している。つまり、このことは日本銀行が連続指値オペを導入していなければ、長期金利がさらに0.25%程度上昇していたと推測できることを意味している。
コロナ禍において海外では金融緩和の強化により短期金利・長期金利ともに低下した中で、日本ではマイナス金利政策やYCCの効果もあって短期金利・長期金利ともにほとんど変動しなかったため、YCCによる下押し効果はコロナ禍以降そのほとんどが失われていた。しかしながら、2022年に入って以降、日本銀行が連続指値オペを導入するなどして金融緩和政策を維持する一方で、海外中銀がインフレ抑制を目的に金融引き締めに転換したことで、YCCによる下押し効果はコロナ前の水準にまで回復している。
1 マイナスは押し上げ効果を表す。
2――YCC解除に向けた難しいかじ取り
本稿の分析によると、現時点ではYCCによる下押し効果は0.429%あることから、YCCのみを解除した場合、0.63%程度の長短金利差が確保され、短期金利の利上げが可能となる。さらに、YCCの解除と同時に日本銀行のバランスシートの縮小を同時に行う、マイナス金利政策の解除の時間軸について明確にしておくなどの対応策も併用することでさらなる長短金利差を確保できる可能性がある。
ただし、日本銀行がYCCを解除するなど金融緩和から引き締めに転じるのは、海外と比較して数年遅れになるであろうが、その際に経済成長率や物価上昇率の観点で十分に金融引き締めを行っても、景気後退等の問題がない良好なファンダメンタルズの状況にあるのかどうか、といった点について留意する必要がある。YCCによる下押し効果が十分な状況でYCCを解除したとしても、ファンダメンタルズの状況が十分良好でなければ、YCC導入直前のように長短金利差が再び縮小し、短期金利を利上げできなくなるシナリオもありえる。
3――ご参考:本稿の計測モデルについて
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年08月16日「基礎研レター」)

03-3512-1848
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
福本 勇樹のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/01/08 | 勤労者世帯と勤労者以外の世帯の貯蓄構造と自助努力の重要性 | 福本 勇樹 | ニッセイ年金ストラテジー |
2024/10/03 | 市場参加者の国債保有余力に関する論点 | 福本 勇樹 | ニッセイ年金ストラテジー |
2024/09/06 | 利上げによる住宅ローンを通じた日本経済への影響 | 福本 勇樹 | 基礎研マンスリー |
2024/06/28 | 利上げによる住宅ローンを通じた日本経済への影響-住宅ローンの支払額増加に関する影響分析 | 福本 勇樹 | 基礎研レター |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2025年02月06日
2025年度の社会保障予算を分析する-薬価改定と高額療養費見直しで費用抑制、医師偏在是正や認知症施策などで新規事業 -
2025年02月06日
バレンタインジャンボ2025の検討-狙いは一攫千金? 超高額当せん? それともポートフォリオを作る? -
2025年02月06日
PRA(英国)やACPR(フランス)が2025年の監督・政策上の優先事項や作業プログラムを公表 -
2025年02月06日
インバウンド消費の動向(2024年10-12月期)-2024年の消費額は8.1兆円、訪日客数は3,687万人で過去最高 -
2025年02月05日
インドネシア経済:24年10-12月期の成長率は前年同期比+5.02%~消費が持ち直して再び5%成長に
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【連続指値オペの導入効果-日銀の金融緩和政策による長期金利の下押し効果の測定】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
連続指値オペの導入効果-日銀の金融緩和政策による長期金利の下押し効果の測定のレポート Topへ