2021年12月29日

日経平均の見通し-2022年末3万2,000円を予想

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾

文字サイズ

1――終わってみれば3万円回復ならず

2021年後半の日経平均株価は上値の重い状態が続いた。菅義偉前首相の退陣表明をきっかけに9月8日に3万円の大台を一時回復したが、政治期待は2週間足らずで剥落、突如飛び出した金融所得課税強化発言も重なり再び2万7,000円台に急落。“岸田ショック”などと揶揄された。
 
早期の3万円回復が難しいことは、『日経平均3万円回復は来年以降に持ち越しか』(2021年10月19日付け)で指摘したが、それどころか、図表1からは日経平均の上値が徐々に切り下がったようにも見える。
 
米FRB(連邦準備制度理事会)の利上げ前倒し観測が強まったことやオミクロン株が海外で流行していることもマイナス材料だが、最大の理由は日本株の魅力が薄れたことだろう。米国などと比べて見劣りする成長戦略、相変わらず分配重視の日本の政治に海外投資家だけでなく国内投資家も呆れているように見える。
【図表1】上値を切り下げた日経平均

2――日本企業の増益基調は続く見通し

2――日本企業の増益基調は続く見通し

IMF(国際通貨基金)、OECD(経済協力開発機構)は、22年の世界全体の実質GDP成長率をそれぞれ4.9%、4.5%と予測している。21年から若干減速するものの世界的に景気拡大は続く見通しだ。国・地域別でも日本、米国、ユーロ圏、中国いずれも3~5%強の成長が見込まれている。
 
景気拡大の影響は日本企業の業績見通しにも表れている。東証1部の1,058社について業績見通しを集計したところ、今期の純利益は会社予想31.5兆円の前期実績比52%増、市場予想(アナリスト予想)の33.2兆円はさらに5%ほど高い水準だ。会社予想が保守的なことを考えると21年度の業績は市場予想に近づくと想定される。
 
さらに来期の市場予想は36.4兆円で今期予想より10%ほど高い。原材料費や物流費の高騰によるコストの増加は気掛かりだが、仮に来期の増益率が市場予想の半分の5%程度に下がったとしても、業績改善は株価の実力水準を押し上げる要因になる。
【図表2】日本企業の増益基調は続く見通し

3――米FRBは利上げを急がない可能性も

3――米FRBは利上げを急がない可能性も

海外のリスク要因としては、22年の株式市場で最も注目されるのは米FRBの金融政策だろう。11月に中間選挙を控えるバイデン政権が長引くインフレに業を煮やし、FRBに対して利上げ圧力を強めるかもしれない。
 
だが、22年春頃には21年の物価高騰から1年が経過するため、物価上昇率が下がってくる可能性もある。消費者物価などの上昇率を「前年同月比」で測る数字のマジックだ。
 
足元の米CPI(消費者物価指数)上昇率は過去30年間でみても極めて高い水準にある。ただ、3%を超えるインフレが続いたのは過去に3回あったが、最長でも14ヶ月で、いずれも1年程度で落ち着いた。
 
そもそも冷静に考えれば、物価高騰の主な理由は供給制約であり、それを金融政策でコントロールすることには無理がある。利上げで需要を抑えることはできても、原材料や労働力などの供給を拡大することはできないからだ。
 
FRBは21年12月のFOMC(公開市場委員会)で22年中の3回利上げを示唆したが、先述のように物価上昇率が落ち着いてくれば、市場では「利上げを急ぐ必要はない(急いでも無意味)」という雰囲気が広がるのではないか。
 
米国では株価上昇による資産効果が消費を支えている面もあり、11月に実施される米中間選挙の直前に株価急落を招くことはFRBもバイデン政権も絶対に避けたいはずだ。このように考えると、もし22年前半にFRBが利上げしなければ、22年中の利上げは1回(12月)にとどまる可能性が出てくる。その場合、株式市場では安心感が広がるだろう。
【図表3】米インフレは来春~夏に落ち着く?

4――徐々に下値を切り上げる展開か

4――徐々に下値を切り上げる展開か

逆に、筆者の想定に反して米国の物価上昇が続き市場で利上げ前倒し観測が強まった場合は、米国株はやや大きめの調整を余儀なくされるだろう。当然、日本株も余波を受けるが、楽観的な見通しのもとに高値圏にある米国株と違って日本株に過熱感はない。より本質的には、金融相場の終焉は業績相場への移行サインでもあり、日本企業の業績改善が見直されやすい市場環境の到来を意味する。
 
23年3月期の業績予想が出揃う22年5月には日経平均EPS(1株あたり純利益)が切り上がると想定される。仮に会社予想が市場予想に届かなければ「増益幅が物足りない」として市場は一時的に株価下落で応じるかもしれないが、失望売りが一巡すると業績改善を素直に織り込み、株価は徐々に下値を切り上げるだろう。
【図表4】日経平均の見通し(イメージ)

5――自動車産業に期待されるけん引役

5――自動車産業に期待されるけん引役

22年も半導体やデジタル関連企業の業績は堅調さを維持すると見られる。経済活動の再開に伴う消費関連(レジャー、小売り、交通など)の業績回復も期待できよう。
 
加えて、ここにきて自動車産業への期待が高まっている。というのも、コスト上昇により幅広い業種でアナリストによる業績見通しの引き下げが相次ぐ中、自動車関連企業では上方修正が目立つからだ。完成車メーカーにとどまらず部品メーカーなど約3分の2の企業について最近1ヶ月間で業績見通しが引き上げられた。
【図表5】アナリストの見通し下方修正が増加
背景は自動車生産の回復だ。今夏、自動車業界はカーナビ等に使用する半導体不足が原因で生産抑制を余儀なくされ、8月~10月は計画を大きく下回る生産が続いた。ところが、半導体不足が緩和されたことで11月に生産が急回復し、12月はさらに改善する見込みだ。
 
こうした動きを受けてアナリストによる自動車関連企業の業績見通し引き上げが相次いだ。集計対象21社の経常利益合計額は来期21%増える見込みで、社数ベースでは約9割の企業が増益予想(今期予想比)となっている。今期の需要が先送りされた分のリベンジ生産が来期の業績予想に反映され始めたのだろう。
 
あくまで現時点ではアナリストの予想に過ぎないが、年明け以降、会社側から業績に関する好材料が出てくると、自動車産業のほかにも素材、機械など幅広い業種に恩恵が及ぶことが想定される。
【図表6】自動車産業はリベンジ生産へ
無論、インフレ加速で世界的な景気の腰折れや日本企業の来期増益が見込めないとなれば、株価には明確なマイナス材料となる。さらに、オミクロン株に限らず、今後もし日本政府がコロナ対応に失敗することがあれば、岸田政権が短命に終わる可能性が出てくるほか、22年夏の参院選で「ねじれ国会」となる可能性が高まる。
 
仮に「ねじれ国会」になれば政治の停滞を招きかねない。象徴的なのは国会同意人事で、2007年の参院選後の「ねじれ国会」では日銀総裁が戦後初の空席となった。皮肉にも黒田総裁の任期満了は23年4月8日に控えている。
 
株式市場はコロナショック後の未曾有の金融緩和に支えられてきただけに、要人発言などに振らされやすい。日経平均は短期的な乱高下を繰り返しつつ、実体経済の回復を徐々に織り込む形で22年末に3万2000円程度を目指す展開を想定する。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本ファイナンス学会理事
     ・日本証券アナリスト協会認定アナリスト

(2021年12月29日「基礎研レポート」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【日経平均の見通し-2022年末3万2,000円を予想】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

日経平均の見通し-2022年末3万2,000円を予想のレポート Topへ