2021年11月15日

QE速報:7-9月期の実質GDPは前期比▲0.8%(年率▲3.0%)-緊急事態宣言や供給制約の影響で2四半期ぶりのマイナス成長

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●7-9月期は前期比年率▲3.0%と2四半期ぶりのマイナス成長

本日(11/15)発表された2021年7-9月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比▲0.8%(前期比年率▲3.0%)と2四半期ぶりのマイナス成長となった(当研究所予測10月29日:前期比▲0.2%、年率▲0.9%)。

外需寄与度は前期比0.1%(年率0.4%)と成長率を若干押し上げたが、緊急事態宣言の長期化や半導体不足などの供給制約の影響で、民間消費(前期比▲1.1%)、住宅投資(同▲2.6%)、設備投資(同▲3.8%)がいずれも大幅に減少し、国内民間需要が2四半期ぶりに減少した。ワクチン接種の進捗を反映し政府消費が前期比1.1%の高い伸びとなったことから、公的需要が2四半期連続で増加したが、民間需要の落ち込みをカバーするには至らなかった。
需要項目別結
名目GDPは前期比▲0.6%(前期比年率▲2.5%)と3四半期連続で減少したが、実質の伸びは上回った。GDPデフレーターは前期比0.1%(4-6月期:同▲0.6%)と4四半期ぶりに上昇した(前年比は▲1.1%)。国際商品市況高騰の影響で輸入デフレーターが前期比5.9%の高い伸びとなり、輸出デフレーターの伸び(前期比2.6%)を上回ったことがGDPデフレーターを押し下げたが、輸入物価の上昇が国内物価に波及し、国内需要デフレーターが前期比0.7%の上昇となった。
実質GDPと実質GDIの推移 なお、輸出入デフレーターの差によって生じる所得の実質額を表す交易利得は、2021年4-6月期の前期差▲2.2兆円から、7-9月期は同▲3.2兆円と減少幅が拡大した。この結果、実質GDPに交易利得を加えた実質GDIは前期比▲1.4%(前期比年率▲5.3%)となり、成長率のマイナス幅は実質GDPを大きく上回った。

2021年1-3月期から7-9月期までの3四半期で交易利得は▲9.2兆円(季節調整済・年率換算値)減少し、交易条件の悪化に伴う海外への所得流出が続いている。10月以降は輸入物価の上昇ペースが加速しているため、交易利得の減少幅はさらに拡大する可能性が高い。
<需要項目別の動き>
民間消費は前期比▲1.1%と2四半期ぶりの減少となった。外食、旅行などのサービス消費の低迷が続いていることに加え、巣ごもり需要の一巡や供給制約に伴う自動車販売の落ち込みなどから、財消費も弱い動きとなった。

実質家計消費の内訳を形態別にみると、自動車販売の急速な落ち込みを反映し耐久財が前期比▲13.1%の大幅減少となったほか、被服・履物、家具などの半耐久財も同▲5.0%と大きく落ち込んだ。一方、食料品などの非耐久財(前期比0.5%)、交通、外食、旅行、宿泊などのサービス(同0.1%)は小幅ながら増加した。

雇用者報酬は名目・前年比1.8%(4-6月期:同2.0%)、実質・前年比2.4%(4-6月期:同3.2%)と、いずれも前期に続く高い伸びとなった。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年度に大きく落ち込んだ反動による部分が大きく、コロナ前の2019年7-9月期と比較すると名目は▲0.5%、実質は▲0.4%下回っている。雇用所得環境が大きく改善しているわけではない。
 
住宅投資は前期比▲2.6%と3四半期ぶりに減少した。名目では前期比1.0%と3四半期連続で増加したが、木材価格の高騰を反映し、住宅投資デフレーターが前期比3.8%(前年比では6.5%)の高い伸びとなったことが、実質の伸びを押し下げた。
 
設備投資は前期比▲3.8%と2四半期ぶりに減少した。日銀短観2021年9月調査では、2021年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が前年度比10.5%の高い伸びとなっており、企業収益の回復を背景に設備投資は基調としては増加傾向が続いていると判断される。ただし、資源価格の高騰、半導体不足などの供給制約といった外部環境の悪化を受けて、7-9月期は回復の動きが一服した。
 
政府消費は前期比1.1%と2四半期連続で増加した。ワクチン接種の進捗が押し上げ要因となった。
 
公的固定資本形成は前期比▲1.5%と3四半期連続で減少した。公的固定資本形成は、災害復旧や国土強靭化関連工事の進捗を反映し増加傾向が続いてきたが、2020年末をピークに頭打ちとなっている。建設業の人手不足がボトルネックとなっている可能性がある。
 
外需寄与度は前期比0.1%(前期比年率0.4%)と3四半期ぶりのプラスとなった。供給制約の影響で財貨・サービスの輸出が前期比▲2.1%の減少となったが、国内需要の低迷を背景に財貨・サービスの輸入が同▲2.7%と輸出を上回る落ち込みとなったことから、外需は成長率の押し上げ要因となった。
202110-12月期は高成長もコロナ前の水準には届かず)
2021年7-9月期の実質GDPは、緊急事態宣言が続く中で半導体不足などの供給制約が加わったことで、2四半期ぶりのマイナス成長となった。日本経済は緊急事態宣言が再発令された2021年入り後、停滞が続いている。

緊急事態宣言は9月末で解除されたため、10月以降は外食、旅行などの対面型サービスを中心に個人消費が持ち直しているとみられる。現時点では、10-12月期は民間消費の高い伸びを主因として前期比年率7%程度の高成長を予想しているが、実質GDPはコロナ前(2019年10-12月期)の水準には届かない。また、半導体不足などの供給制約の長期化、交易条件悪化に伴う企業収益の悪化や家計の実質購買力の低下、新型コロナウイルスの感染再拡大に伴う行動制限の強化など、リスク要因は多い。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2021年11月15日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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