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- 英国EU離脱プロセスの回顧-貿易協力協定の合意から完全離脱後まで-
2021年07月06日
7 COVID-19 Dashboard by the Center for Systems and Engineering at Johns Hopkins Universityによる。米国、ブラジル、インド、メキシコ、イタリアの死者は英国を上回る。
8――コロナ禍とEU離脱で委縮する投資。英国でもグリーン投資が新たな牽引役として期待
EU離脱を巡る不透明感は、国民投票で離脱を選択してから英国でのビジネス投資の伸び悩みの要因となってきたが、足もとはコロナ禍による打撃も加わり、世界金融危機を大きく上回る落ち込みとなっている(図表7)。英国国家統計局(ONS)によれば、投資の遅延や中止の理由としてEU離脱と答える割合は2019年から2%前後で推移してきたが、新型コロナと答える割合はピークの2020年4~6月期には53%、7~9月期も35.4%を占めた。コロナ禍の影響は、感染拡大の沈静化により緩和すると期待されるが、EU市場へのアクセス悪化が重石となって、水準を取り戻すまでにかなりの時間を要する可能性がある。
EU離脱を巡る不透明感は、国民投票で離脱を選択してから英国でのビジネス投資の伸び悩みの要因となってきたが、足もとはコロナ禍による打撃も加わり、世界金融危機を大きく上回る落ち込みとなっている(図表7)。英国国家統計局(ONS)によれば、投資の遅延や中止の理由としてEU離脱と答える割合は2019年から2%前後で推移してきたが、新型コロナと答える割合はピークの2020年4~6月期には53%、7~9月期も35.4%を占めた。コロナ禍の影響は、感染拡大の沈静化により緩和すると期待されるが、EU市場へのアクセス悪化が重石となって、水準を取り戻すまでにかなりの時間を要する可能性がある。
9――「グローバル・ブリテン」を目指す英国の難路
離脱派が描いた英国の未来像はEUの法規制という制約から離れ、世界へ広がる「グローバル・ブリテン」だ。
21年には、グローバル・ブリテンへの歩みが本格的に始まる。21年初には、EUとの新協定ともに、日英EPAなど、英国がEU加盟国として締結した自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の再締結した協定も発効する。英国が、FTA/EPA(経済連携協定)締約国や一般特恵関税制度(GSP)を適用する開発途上国以外に適用する関税率は、EUの共通域外関税(CET)から、英国独自のグローバル関税(UKGT)に切り替わる。UKGTでは、畜産品、セラミック製品、化学品などでは関税率を維持、乗用車の関税はCETと同じ10%、部品はCETよりも低いが、関税撤廃は見送った8。CETよりも関税ゼロの品目が多く、端数の切り下げの効果もあり平均関税率は7.2%から5.7%に下がる9。英国は、21年早々にも環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を申請する方針だ。
しかし、これだけで、貿易や投資で半分ほどのウェイトを占めるEU市場へのアクセスが悪化する不利益を補うことは難しい。
国民投票の時点では、米国、中国、インドという大国との関係強化が期待されていたが、わずか4年半で国際情勢は大きく変わり、英国の思惑通りに展開することは難しくなっている。米国の大統領は、EUを敵と呼び、EU離脱を支持したトランプ大統領からアイルランドにルーツを持ち、EU離脱がアイルランド和平に及ぼす影響を懸念するバイデン大統領に替わる。中国との関係も、キャメロン政権期には「蜜月」と言われたが、米中対立は先鋭化し、英国との関係も香港の国家安全維持法を巡る対立などで冷え込んでいる。インドは、アジア地域包括的経済連携(RCEP)参加を見送るなど、保護主義的傾向を強めている。
8 GOV.UK, “Check UK trade tariffs from 1 January 2021(https://www.gov.uk/check-tariffs-1-january-2021)
9 Stevens & Bolton LLP “Changes to imports in 2021 - The UK Global Tariff”,17 Aug 2020
離脱派が描いた英国の未来像はEUの法規制という制約から離れ、世界へ広がる「グローバル・ブリテン」だ。
21年には、グローバル・ブリテンへの歩みが本格的に始まる。21年初には、EUとの新協定ともに、日英EPAなど、英国がEU加盟国として締結した自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の再締結した協定も発効する。英国が、FTA/EPA(経済連携協定)締約国や一般特恵関税制度(GSP)を適用する開発途上国以外に適用する関税率は、EUの共通域外関税(CET)から、英国独自のグローバル関税(UKGT)に切り替わる。UKGTでは、畜産品、セラミック製品、化学品などでは関税率を維持、乗用車の関税はCETと同じ10%、部品はCETよりも低いが、関税撤廃は見送った8。CETよりも関税ゼロの品目が多く、端数の切り下げの効果もあり平均関税率は7.2%から5.7%に下がる9。英国は、21年早々にも環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を申請する方針だ。
しかし、これだけで、貿易や投資で半分ほどのウェイトを占めるEU市場へのアクセスが悪化する不利益を補うことは難しい。
国民投票の時点では、米国、中国、インドという大国との関係強化が期待されていたが、わずか4年半で国際情勢は大きく変わり、英国の思惑通りに展開することは難しくなっている。米国の大統領は、EUを敵と呼び、EU離脱を支持したトランプ大統領からアイルランドにルーツを持ち、EU離脱がアイルランド和平に及ぼす影響を懸念するバイデン大統領に替わる。中国との関係も、キャメロン政権期には「蜜月」と言われたが、米中対立は先鋭化し、英国との関係も香港の国家安全維持法を巡る対立などで冷え込んでいる。インドは、アジア地域包括的経済連携(RCEP)参加を見送るなど、保護主義的傾向を強めている。
8 GOV.UK, “Check UK trade tariffs from 1 January 2021(https://www.gov.uk/check-tariffs-1-january-2021)
9 Stevens & Bolton LLP “Changes to imports in 2021 - The UK Global Tariff”,17 Aug 2020
10――EU市場への自由なアクセスだけでなく、連合王国の一体性を手放すことになるリスクも
EU離脱プロセスを完遂したジョンソン首相は、国民投票での民意の実現を誇ったが、今後問われるのは、EU離脱が、英国にとってのより良い未来、雇用、所得の改善につながる選択であったのかだ。
21年から、北アイルランドは、アイルランドとの国境の厳格な管理を回避するため、英国の関税地域の一部ではあるものの、財のEU規則が適用され、事実上EUの単一市場に残留する変則的な形となる。
スコットランドは、国民投票で 62%と明確な過半数が残留を支持したことから、EU離脱そのものに反対しており、「ハードな離脱」が現実となれば、不満は一層高じるだろう。スコットランドは21年5月6日に議会選挙を予定するが、世論調査では、独立機運の高まりとともに、独立の是非を問う住民投票を掲げる第1党のスコットランド民族党(SNP)の支持も固くなっている10。
EU離脱と新協定の発効は、EU市場への自由なアクセスだけでなく、連合王国の一体性まで手放すことに発展しかねないリスクは気掛かりだ。
10 例えば、The Scotsman/Savanta ComResの世論調査(https://www.scotsman.com/news/politics/poll-shows-scottish-independence-support-surging-joint-record-levels-snp-set-majority-3070791)では、住民投票が行われた場合、独立に賛成すると答えた割合が52%、2年以内に住民投票をすべきと答えた割合が40%、21年5月の議会選挙でSNPに票を投じると答えた割合が55%だった。
EU離脱プロセスを完遂したジョンソン首相は、国民投票での民意の実現を誇ったが、今後問われるのは、EU離脱が、英国にとってのより良い未来、雇用、所得の改善につながる選択であったのかだ。
21年から、北アイルランドは、アイルランドとの国境の厳格な管理を回避するため、英国の関税地域の一部ではあるものの、財のEU規則が適用され、事実上EUの単一市場に残留する変則的な形となる。
スコットランドは、国民投票で 62%と明確な過半数が残留を支持したことから、EU離脱そのものに反対しており、「ハードな離脱」が現実となれば、不満は一層高じるだろう。スコットランドは21年5月6日に議会選挙を予定するが、世論調査では、独立機運の高まりとともに、独立の是非を問う住民投票を掲げる第1党のスコットランド民族党(SNP)の支持も固くなっている10。
EU離脱と新協定の発効は、EU市場への自由なアクセスだけでなく、連合王国の一体性まで手放すことに発展しかねないリスクは気掛かりだ。
10 例えば、The Scotsman/Savanta ComResの世論調査(https://www.scotsman.com/news/politics/poll-shows-scottish-independence-support-surging-joint-record-levels-snp-set-majority-3070791)では、住民投票が行われた場合、独立に賛成すると答えた割合が52%、2年以内に住民投票をすべきと答えた割合が40%、21年5月の議会選挙でSNPに票を投じると答えた割合が55%だった。
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経歴
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
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