2020年12月08日

年代別に見たコロナ禍の行動・意識の特徴~買い物手段編-全年代でデジタル利用増、高年齢ほどリアル店舗の利用控え、若者の一部は働き方変容でリアル店舗利用増も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~コロナ禍における行動・意識の変容、年代別の特徴は?

ニッセイ基礎研究所では、新型コロナウイルスの感染拡大によって暮らしが激変する中で、全国の20~69歳の男女約2千名に対して、消費行動や働き方、生活不安の状況などに関する調査を継続的に実施している(「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」)。

調査対象全体の結果については、すでに調査結果概要として報告しているが1、本稿から数回に分けて、年代別の傾向について、主な行動変容や意識面の特徴に注目して分析していきたい。なお、主な行動変容等としては、買い物手段や移動手段、食生活、教養娯楽、働き方、感染に関わる不安などがあげられるが、本稿では買い物手段の変容について分析する。  

2――コロナ禍における買い物手段の変容

2――コロナ禍における買い物手段の変容

1全体の状況~リアル店舗の利用は減少、ネットショッピングやキャッシュレスは増加でデジタルシフト
まず、20~69歳全体の状況を概観する。1月頃のビフォーコロナと比べて9月末では、スーパーやドラッグストアなどのリアル店舗の利用では減少が目立つ(増加の割合に対して減少の割合が高い)一方、ネットショッピングやキャッシュレス決済サービスなどのデジタル手段の利用では増加が目立つ(図表1)。なお、リアル店舗の中でも温度差がある。スーパーなどの食料や日用品といった生活必需品を買う店舗では減少の割合は2割前後だが、デパートやショッピングモールなど主に衣料品や贅沢品を購入する店舗では約4割を占める。

よって、リアル店舗の利用は生活必需品のまとめ買いなど必要最低限にとどめる一方、衣料品や定期的に購入する日用品はネットショッピングを利用する機会が増えるなど、リアル店舗の利用の一部がネットショッピングへとシフト(デジタルシフト)している可能性がある。
図表1 2020年1月頃と比べた9月末の買い物手段の利用の増減(n=2,066)
2年代別の状況~高年齢ほどリアル店舗利用減少、若者の一部では働き方変容等でリアル利用増加も。
デジタル利用は全体的に増え若いほど増加、若者の一部ではリアルシフトも。
次に、年代別に買い物手段の利用の増減を見ると、リアル店舗の利用では、20歳代のスーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストアの利用を除けば減少が目立ち、高年齢ほど減少の割合は高い傾向がある(図表2(a)~(d))。一方、20歳代では、全てのリアル店舗の利用において増加の割合が全体を+5%pt以上上回る。また、若いほど増加の割合は高い傾向がある。

つまり、新型コロナウイルスによる重症化リスクの高い高年齢ほどリアル店舗の利用を控える一方、20歳代の一部では、スーパーをはじめ生活必需品を購入する店舗の利用がむしろ増える状況がある。
図表2 2020年1月頃と比べた9月末の年代別に見た買い物手段の利用の増減
この背景には、重症化リスクによる外出行動の違いに加えて、働き方の変容の影響もあげられる。20歳代~50歳代では就業者が7割を超えて多いのだが、若いほど在宅勤務が可能な就業者が多い傾向がある(図表3)。また、1月頃と比べて9月末で在宅勤務の利用は、若いほど増加の割合が高い傾向がある。さらに、スーパーなどのリアル店舗の利用が増加した層について、在宅勤務などのテレワークの増減を見ると、やはり20歳代で増加の割合が高い(図表4)。

よって、若い就業者の一部では在宅時間が増えたことで、家での食事回数や近隣のスーパーなどへ行く機会も増えたことで、コロナ禍でも生活必需品を買うリアル店舗の利用が増えたのだろう。
図表3 2020年1月頃と比べた9月末の就業者の在宅勤務などのテレワークの増減
図表4 2020年1月頃比べた9月末のスーパーの利用増加層の在宅勤務などのテレワークの増減
一方、ネットショッピングなどのデジタル手段の利用は、全ての年代で増加が目立ち、若いほど増加の割合は高い傾向がある(図表2(e)~(f))。前述の通り、20歳代では生活必需品を買うリアル店舗では増加も目立つが、30歳代以上ではリアル店舗の利用は減少が目立つ。よって、20歳代の一部を除けば、おおむねコロナ禍でデジタルシフトは進んでいるようだ。

なお、若いほどデジタル手段の利用が増加した層が多いが、これは、ビフォーコロナからデジタル手段の利用水準が高く、端末の保有状況やITリテラシーの高さといった土台が整っていたことで、変化が加速しやすかったためだろう。

総務省「2019年通信利用動向調査」によると、過去1年間でインターネットでの商品・サービスの購入・取引のある割合やスマートフォンの保有率は、若いほど高い傾向がある(図表5)。
図表5 ビフォーコロナのデジタル手段の利用状況
ところで、6月末の調査結果でデジタルシフトの状況を分析した結果では、30歳代をはじめとした感染不安の強い層ほど、デジタルシフト傾向を強く示していた2。しかし、本稿における9月末の調査結果では、感染不安というよりも、ビフォーコロナからのITリテラシーが影響を与えているようだ。

経済活動が再開されて約1カ月後の6月末と比べて、さらに3カ月が経過した9月末では、感染防止対策が習慣化するなど、消費者のコロナ禍における経験値が上がっている。よって、行動変容の要因も感染不安を土台としたものから、徐々に元の特徴が色濃くあらわれるようになった可能性がある。

なお、図表2において20歳代では、デジタル手段の利用において増加の割合が比較的高い一方、減少の割合も全体を+5%pt以上上回る。そこで、ネットショッピングの利用が減少した層について、スーパーなどのリアル店舗の利用の増減を見ると、20歳代では増加の割合が高い(図表6)。

前述の通り、コロナ禍で在宅勤務が増えるなど生活が変わることで、若い年代ではリアル店舗の利用が増える状況もある。よって、元々ネットショッピングの利用の多かった若者の一部では、ネットショッピングからリアル店舗の利用へとリアルシフトも生じているようだ。
図表6 2020年1月頃と比べた9月末のネットショッピング利用減少層のスーパー利用の増減
 
2 久我尚子「感染不安と消費行動のデジタルシフト」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2020/8/18)では、ソーシャルディスタンスを保つことの難しい低年齢児を持つ割合の高い30歳代で感染不安のある割合が比較的高く、デジタルシフト傾向も比較的強くあらわれていた。
 

3――まとめ

3――まとめ~コロナ禍でデジタルシフトが加速、日本のEC化率は低く、ポストコロナでも伸長の余地あり

新型コロナウイルスの感染拡大によって外出が自粛され、非接触志向が高まる中で、ネットショッピングなどのデジタル手段の利用は年代によらず増える一方、スーパーなどのリアル店舗の利用は感染による重篤化リスクの高い高年齢層ほど減り、デジタルシフトが進んでいる。一方で、若者では在宅勤務が増えるなどコロナ禍における生活変容等により、デジタル手段の利用が減り、生活必需品を買う店舗の利用が一部で増えている状況もある。

11月頃から、海外では新型コロナウイルス感染症のワクチン開発において安全性や有効性が確認されたという報道が出ている。行動制限が緩和される日が少しでも早く近づくことを期待したいが、日本で承認が下り、ワクチン接種が普及するまでには、しばらくの時間を要するだろう。よって、少なくとも2021年の上期までは現在のウィズコロナにおける行動変容の状況が続くと見られる。

また、ネットショッピングなどを利用する買い物手段のデジタルシフトは、新型コロナの感染拡大によって新たに登場した動きではなく、ビフォーコロナから見られてきたものだ。コロナ禍を契機に加速したものであり、まだ伸長の余地もある。
図表7 各国のB2CEC市場のポテンシャル 少し前のデータになるが、経済産業省によれば、2016年の日本のEC化率は7.0%である。EC市場の規模は国土面積の広い中国(9,394億ドル)やアメリカ(5,716億ドル)で大きく、EC化率も比較的高い(中国19.1%、米国8.0%)。一方で、日本より国土面積の狭いイギリス(17.1%)や韓国(13.9%)のEC化率は日本を大幅に上回っており、日本のEC化率は更なる上昇の余地があると言える。

本稿では、9月末に実施した調査を用いたが、次回の調査は12月下旬に実施予定であり、今後ともコロナ禍における行動変容を捉えていく予定だ。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

(2020年12月08日「基礎研レター」)

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