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- スポーツ産業への期待-スポーツ産業の成長が名目GDP600兆円達成への鍵-
2013年9月の東京オリンピックの開催決定が契機となり、政府が主体となって、スポーツを盛んにしようとする動きが加速した。はじめに、スポーツ施策に関する国の司令塔的役割を果たす機関として、2015年10月にスポーツ庁が創設され、それまで複数の省庁に権限や予算が分かれていた「縦割り行政」の解消と、効率的な運営の実現が図られた。その後、2016年の日本再興戦略では、初めてスポーツに関するKPIが設定された。「スポーツ市場規模(2012年:5.5兆円)を2020年までに10兆円、2025年までに15兆円に拡大することを目指す。」という目標が定められ、2019年の成長戦略まで毎年掲げられてきている。また、KPIの設定に加え、2016年の日本再興戦略では、スポーツの成長産業化が、名目GDP600兆円に向けた鍵となる10の施策の1つに指定されたことも大きなポイントである。スポーツが有する経済的価値に注目し、スポーツを成長産業へ転換させるための政策が本格的に動き出した。
スポーツへの関わり方には、「する」、「観る」の形があり1、第3次産業活動指数には「する」スポーツ、「観る」スポーツの活動指数がある2。また、全産業活動指数は「供給面からみたGDP」とも言われ、約7割が第3次産業活動指数で構成される。全産業活動指数における「する」スポーツのウエイトは0.4%、「観る」スポーツは0.3%である。このウエイトと、国民経済計算の名目GDPを用いて2012年のスポーツ産業の規模を試算すると、「する」スポーツが2.2兆円、「観る」スポーツが1.5兆円、合計3.7兆円となった。これは、政府の成長戦略に記載されている2012年の市場規模の5.5兆円の7割弱にあたる。残り3割強は、小売業や観光業などのその他の関連サービスへの経済波及効果の規模であると考えることができる。
「観る」スポーツといえば、2019年はラグビーワールドカップが日本で開催されたことが記憶に新しい。多くの国民の注目が急激に集まり、ラグビー日本代表を象徴する「ONE TEAM」は流行語大賞にもノミネートされた。また、東京オリンピックの開催が予定されていることも、スポーツを「観る」ことへの関心を高めている。
「する」スポーツは伸び悩んでいるが、「スポーツ人口の増加がスポーツ市場の拡大を支える」と2016年の日本再興戦略に記載されているように、「する」スポーツは市場全体の活性化に不可欠である。
1 「する」「観る」に加え、「支える」という立場があるが、経済活動に及ぼす規模の小ささから本稿では言及しないことを予めお断りしたい。
2 第3次産業活動指数における「スポーツ施設提供業」が「する」スポーツ、「プロスポーツ(スポーツ系興行団)」が「観る」スポーツの活動指数にあたる。「スポーツ施設提供業」はゴルフ場、ゴルフ練習場、ボウリング場、フィットネスクラブ、「プロスポーツ(スポーツ系興行団)」は相撲、ボクシング、プロ野球、サッカー、ゴルフから成る。
第3次産業活動指数でみた「する」スポーツの市場は伸びていないが、スポーツ実施率は増加傾向にある。成人のスポーツ実施率について推移をみると、「する」スポーツの人口が堅実に増加していることが確認できる(図表2)。週1日以上スポーツを行う成人の割合は男女ともに増加しており、男女全体での割合は1991年の27.8%から2019年は53.6%まで増加した。また、週3日以上スポーツを実施する人の割合も増えており、頻度にはばらつきがあるが、以前と比較すると運動が習慣化したと考えられる。
手軽に運動を実施できる施設の代表はフィットネスクラブである。フィットネスクラブの利用者数は増加傾向にあり、2019年は2.21億人と2000年の0.93億人から2倍以上も増加している(図表3)。背景には、営業形態の多様化(24時間営業、パーソナルトレーニングの利用、平日限定で低価格、小規模で低価格帯のコンビニタイプのサーキット型ジムなど)により、様々な利用者に門戸が広がり、多くの人が利用しやすくなっていることがある。また、働き方改革による余暇時間の増加や、健康経営の一環として運動を推進する企業が現れ始めていることもその要因として考えられる。
フィットネスクラブは、低価格プランなどの打ち出しによる集客効果などもあり、客単価は低下しているが、利用者数が大きく伸びているため、2019年の売上高は3,400億円と2000年の1.7倍に増加した(図表3)。
3 スポーツ庁の世論調査において、1年間に運動やスポーツを実施した日数を全部合わせると、どの程度の頻度になるかを質問した結果。運動・スポーツの種目は、ウォーキング(散歩・ぶらぶら歩き・一駅歩きなどを含む)や階段昇降(2アップ3ダウン等)など、例を踏まえつつ選択肢として約60項目が提示されている。
第2章でみたスポーツ市場の推移(図表1)は、供給側からみたデータであり、スポーツ市場を十分に捕捉できていない可能性がある。ここで家計調査を用いて需要側からスポーツ市場の試算を行ったところ、「する」スポーツ市場が拡大していることが確認できた(図表4)。
2019年の消費支出は2000年の1.1倍の増加にとどまっているが、2019年の「する」スポーツの支出額は2000年の1.9倍、「観る」スポーツの支出額は2.7倍の増加となっている。
第3次産業活動指数における「する」スポーツは、ゴルフ場、ゴルフ練習場、ボウリング場、フィットネスクラブに限られており、その他のさまざまな「する」スポーツの活動が捉えきれていない。一方、需要側統計の家計調査では「する」スポーツの支出額が広く捕捉されており、「する」スポーツは実態としては伸びている可能性が高い。
日本のスポーツ市場は欧米先進国と比較すると規模が非常に小さいことがかねてより指摘されている。裏を返せば、他国よりもスポーツ産業の伸び代が十分にあり、成長産業として位置付けることができる。スポーツ先進国の成功事例をロールモデルに、スポーツによる地域活性化やプロスポーツの充実化などをすすめ、スポーツ産業の成長が名目GDP600兆円到達につながることを期待したい。
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藤原 光汰
研究・専門分野
(2020年03月31日「基礎研レター」)
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