2016年03月31日

ものづくりコミュニティの場として発展するファブラボ(FabLab)

社会研究部 上席研究員   百嶋 徹

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■要旨

1990年代までの「ものづくり=製造業」は、大手メーカー(大企業)を中心とした産業界によって担われ、個人(市民)は産業界により開発・製造された大量生産品を受け入れ、それをそのまま使用・消費してきた。すなわち、90年代までの製造業では、生産者(作り手)と消費者(使い手)が明確に分断されてきたのである。

しかし、2000年代に入り、作り手と使い手の分断を解消すべく両者間の距離を縮めようとする画期的な動きが一部の消費者の間で出てきている。すなわち、消費者が自分のニーズを満たすために自らのアイデアでものづくりを行い、その成果を世の中に広く情報発信する動きであり、「ユーザー・イノベーション」と呼ばれる。このような動きをけん引する背景として、消費者ニーズの多様化により、大企業主導による大量生産品では充足しきれないニーズが増加していること、3D(3次元)プリンターなどデジタル工作機械が、特許切れや技術進化などによって低価格化し、個人にとって入手可能な身近なものになりつつあること、SNSや動画サイトの普及により個人が広く情報発信を行うことが容易になったこと等、が挙げられる。

未来学者のアルビン・トフラー(Alvin Toffler)氏は、1980年に発表した著書『第三の波』の中で、自らの満足を得るために無償(市場外)で生産活動を行う消費者を「プロシューマー(Prosumer:生産消費者)」と呼び、その台頭を予言したが、2000年代に入り、その予言が現実のものとなりつつあるのだ。

「ユーザーイノベーション」や「プロシューマー」の出現に呼応して、デジタル工作機械を備えた市民工房やコワーキングスペースなど、個人のものづくりができるコミュニティスペースが世界各地で設けられてきている。本稿では、実験的な市民工房と言われ、そのネットワークが世界的に拡大している「ファブラボ(FabLab)」を取り上げ、その概要や特徴、現状と今後の可能性などについて考えてみたい。

■目次

1――はじめに
2――ファブラボ(FabLab)とは
  1|ものづくりを市民に解放するオープンな世界的ネットワーク
  2|ファブラボの4つの要件
3――ファブラボの運営形態
  1|多様な運営形態
  2|財源構造
4――リアルとバーチャルを融合したネットワーク
  1|DIY(自分で作る)からDIWO(みんなで創る)への進化を志向
  2|世界中のファブラボを橋渡しする国際的ネットワーク
  3|リアルな場とバーチャルな場を最適融合したネットワーク構造
5――ファブラボとメイカームーブメントの共通点
  1|1番目の共通点はバーチャルとリアルの両面をうまく活用したネットワーク構造
  2|2番目の共通点は大企業との接点の拡大可能性
6――海外の政府・自治体によるファブラボの先進的な政策展開事例
  1|米国:科学技術人材育成政策への展開
  2|バルセロナ市:都市政策への展開
7――むすびにかえて~ファブラボの今後の可能性
  1|ファブラボの理念と両立する営利活動の重要性
  2|ファブラボの今後の発展に欠かせないビジネスとの接点
  3|ファブラボの取組を国家や都市の国際競争力の向上に活かす

1――はじめに

1――はじめに

1990年代までの「ものづくり=製造業」は、大手メーカー(大企業)を中心とした産業界によって担われ、個人(市民)は産業界により開発・製造された大量生産品を受け入れ、それをそのまま使用・消費してきた。すなわち、90年代までの製造業では、生産者(作り手)と消費者(使い手)が明確に分断されてきたのである。

しかし、2000年代に入り、作り手と使い手の分断を解消すべく両者間の距離を縮めようとする画期的な動きが一部の消費者の間で出てきている。すなわち、消費者が自分のニーズを満たすために自らのアイデアでものづくりを行い、その成果を世の中に広く情報発信する動きであり、「ユーザー・イノベーション」と呼ばれる。

このような動きをけん引する背景として、消費者ニーズの多様化により、大企業主導による大量生産品では充足しきれないニーズが増加していること、3D(3次元)プリンターなどデジタル工作機械が、特許切れや技術進化などによって低価格化し、個人にとって入手可能な身近なものになりつつあること、SNSや動画サイトの普及により個人が広く情報発信を行うことが容易になったこと等、が挙げられる。

未来学者のアルビン・トフラー(Alvin Toffler)氏は、1980年に発表した著書『第三の波』の中で、自らの満足を得るために無償(市場外)で生産活動を行う消費者を「プロシューマー(Prosumer:生産消費者)」と呼び、その台頭を予言したが、2000年代に入り、その予言が現実のものとなりつつあるのだ。

「ユーザーイノベーション」や「プロシューマー」の出現に呼応して、デジタル工作機械を備えた市民工房やコワーキングスペースなど、個人のものづくりができるコミュニティスペースが世界各地で設けられてきている。本稿では、実験的な市民工房と言われ、そのネットワークが世界的に拡大している「ファブラボ(FabLab)」を取り上げ、その概要や特徴、現状と今後の可能性などについて考えてみたい。
 

2――ファブラボ(FabLab)とは

2――ファブラボ(FabLab)とは

1ものづくりを市民に解放するオープンな世界的ネットワーク
ファブラボとは、3Dプリンターやカッティングマシンなどデジタルからアナログまでの多様な工作機械を備えた、誰もが使えるオープンな実験的市民制作工房の世界的ネットワークである。地域コミュニティに根差した市民のものづくりのためのローカルな各工房施設と、その集合体である国際的なネットワーク全体の両方を指している。「Fab」には「Fabrication:ものづくり」と「Fabulous:愉快な、素晴らしい」という2つの意味が込められている。

大企業による大量生産やマーケットの論理に制約されていたものづくりを市民(消費者)に解放し、個人による自由なものづくりの可能性を拡げ、「自分たちの使うものを、使う人自身がつくる文化」を醸成し、市民一人一人が試行錯誤しながら自ら欲しいものを作り出せるようになる社会を目標に掲げている。人々に多様な工作機械の利用機会を提供することで、作り手と使い手の分断の解消を目指しているのである。

インターネットの普及によって、誰もが自由に情報発信することができるようになったように、ファブラボが各地に普及することで、誰もが自由にものづくりができるようになることが期待されている。また、デジタル工作機械は急速に低価格化しており、いずれは3Dプリンターやカッティングマシンがパソコンと同じように、一家に1台普及する時代がやってくると考えられている。

こうしたファブラボの概念を提唱したのは、マサチューセッツ工科大学ビット・アンド・アトムズ・センター(MIT's Center for Bits and Atoms)所長のニール・ガーシェンフェルド(Neil Gershenfeld)教授であり、「ファブラボの父」と呼ばれる。同教授は2002年にボストンのスラム街に世界で初めてのファブラボを設置した。その後、先進国・開発途上国を問わず、ガーシェンフェルド教授の考え方に共鳴した人々による草の根的な活動が活発化し、その拠点数はこれまでに世界84か国635か所に急拡大している1。我が国では、2011年に東アジア初のファブラボが鎌倉と筑波に開設され、これまでに15か所に設立されている。

国別の拠点数を見ると、ファブラボ発祥の地である米国が110か所と最も多く、世界全体の17%を占めている(図表1)。次いでイタリアが64か所、フランスが63か所と続き、各々10%を占めている。上位3か国の拠点数が突出して多くなっており、我が国は15か所とインドと並んで10番目に位置するが、世界全体の2%を占めるにすぎない。

地域別の拠点数を見ると、欧州が341か所と圧倒的に多く、世界全体の54%を占めており、次いで北米が123か所と19%を占め、欧米の2地域で全体の73%を占めるに至っている(図表1)。日本を含むアジア太平洋と中南米は、ほぼ全体の1割を占めている。ファブラボは、世界の幅広い地域に立地しているものの、現状では欧米を中心とした先進国地域により集中して立地していることがうかがえる。
 
図表1 世界のファブラボの国別・地域別拠点数
 
1 fablabs.ioウェブサイトに掲載されているデータ(2016年3月28日現在)を用いた。世界全体の拠点数は634か所、うち日本は14か所と記載されていたが、日本の実際の拠点数は15か所のため、世界全体では元データに1か所加算した。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、産業立地、地域クラスター、イノベーション、企業不動産(CRE)、環境経営・CSR

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