2022年10月13日開催

パネルディスカッション

激変する経済安全保障環境「経済安全保障を成長機会に変えるには」

パネリスト
兼原 信克氏 同志社大学 特別客員教授/元内閣官房 国家安全保障局 次長
鈴木 一人氏 東京大学公共政策大学院 教授
山本 麻理郎氏 株式会社FRONTEO 取締役
矢嶋 康次 ニッセイ基礎研究所 常務理事 チーフエコノミスト
コーディネーター
伊藤 さゆり 常務理事

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2022年10月「米中対立、対ロシア制裁下の日本の経済安全保障」をテーマにニッセイ基礎研シンポジウムを開催いたしました。

同志社大学 特別客員教授/元内閣官房 国家安全保障局 次長 兼原 信克氏をお招きして「日本の国防と経済安全保障」をテーマに講演いただきました。
 
パネルディスカッションでは「激変する経済安全保障環境」をテーマに活発な議論を行っていただきました。

※ 当日資料はこちら
 
⇒ パネルディスカッション 前編 「激変する経済安全保障環境」

 

4――経済安全保障を成長機会に変えるには

■兼原 ありがとうございます。大変素晴らしいご報告をありがとうございました。自由貿易と安全保障というのは同じ人間の活動なので、違う世界が二つあるわけではありません。これは相互に依存しているわけです。安全保障の方はプーチンを見ていただければ分かると思いますが、これは究極的には暴力の行使ですので、侵略者はビジネスへの配慮や、合理的、経済的な判断はしないですね。これをどうやってそういうことが起きないようにするかということが大切です。市場経済は経済主体が合理的に動きますが、安全保障上の必要があれば、経済の世界にもパッチワークのように安全保障関連の政策をはめていくということだろうと思います。

自由貿易やグローバリゼーションそれ自体は止まりません。経済合理性に基づいて企業は動いているので、一言で言うと一番効率のいいところで一番安く材料や労働力を買って、一番いいものを作って、一番高いところで売るということなので、これは市場がグローバル化していくと止まりませんし、その過程で工場は流出し、富と産業は直接投資という形で先進国からどんどんグローバルに下に降りていく。先進国の方は産業が空になるけれども、企業自体がグローバル化しているということが起きているわけで、これは止まらないと思います。

幾つか追加論点ということで申し上げたいと思うのですが、安全保障をやっている軍人たちは何を考えているかということです。これが分からないと、実は経済安全保障の安全保障の部分が分かりませんので、これを少し申し上げてみたいと思います。戦争はまず、基礎体力(人口、軍隊の大きさ、軍艦の数など)とモラルですね。全くやる気がないプーチン軍と死に物狂いのゼレンスキー軍を見ていただければわかるように、モラルはすごく大事ですが、戦争の勝敗を決めるのは最後は技術です。特攻隊は核兵器には勝てません。技術が戦争の行方を決めます。

最近の大きな転換点は、一つは1990年の湾岸戦争です。このときアメリカは宇宙衛星をフルに活用しました。宇宙衛星というのは、核軍縮の会議でソ連が嘘をつかないようにたくさん衛星を置いて見張っているというのが衛星の活用の仕方でした。また核ミサイルを打ったらすぐに分かる。赤外線センサーで敵の核ミサイル発射をとらえるのが宇宙衛星の役割だったのですけれども、これを普通の戦場に使ったらどうなるのかと考えたのが当時のアメリカです。フセイン軍が弾を撃つとすぐにちかちかっと光って場所が分かるわけです。そこにGPSで時間同期をかけて、GPSに従って真夜中に動いている軍隊を一斉に撃つわけです。瞬殺のようにしてイラク軍は負けたわけです。アメリカ軍の犠牲者は100名程度です。

これに驚いて、宇宙衛星の情報をフルに活用した、先進コンピューティングを使った、情報処理をしながら戦争をするというのが出たのが1990年。これに一生懸命に追いついたのがロシアと中国です。次に2014年のクリミア戦争では、先ほど申し上げたサイバー攻撃で通信と電気を落とす。そこに、さーっと特殊軍が入ってくる。あっという間に降参させられる。戦う前に負けている。これがクリミア戦争です。サイバー戦争の怖さというものを見せつけた。

それから、つい最近のナゴルノ・カラバフ戦争です。これはアゼルバイジャンという国の中にナゴルノ・カラバフというアルメニアの飛び地があります。アルメニアとアゼルバイジャンはすごく仲が悪く、アゼルバイジャンはトルコ系で、アルメニアはキリスト教系で、アルメニアが、かわいそうですがロシアの子分になっているわけです。大概けんかをしますと、親分のトルコとロシアではロシアの方が強いので、アゼルバイジャンが負けるのですが、最近ちょっとロシアが落ち目になっているのと、トルコ製の2000万円ぐらいの攻撃用ドローンが大量に出回っていまして、これが実はロシアから持ってきた戦車を全滅させたのです。ドローン戦の始まりです。これは戦史を書き換えたといわれている戦争で、トルコのやったように、ドローンが世界の戦場を変えつつあるということだと思います。

こういうようにして技術で戦争の勝敗は決まっていきます。アメリカは何を焦っているかといいますと、80兆円の国防費と10兆円の国防研究開発費で、圧倒的な力で世界の科学技術をリードするというのがアメリカでしたが、これに何とGAFAと中国が追いつきつつあるということです。研究開発の資金力で、アメリカは最早一強ではない。初めてアメリカは科学で抜かれる、負けるということを真面目に考え始めたので、イライラしているということです。

経済安全保障は安全保障の面から見たらすごく簡単で、二つだけしかポイントがありません。1.自衛隊を強くする、米軍を強くするということです。2.中国軍を強くしない。この二つです。このためにどういうふうに市場に関与するかということを考えていくのが経済安全保障だと思います。

中国との関係を一言で申し上げると、日本企業の方に申し上げたいのは、リスクを考えて投資してくださいということです。リスクを考えれば、投資するのは構いません。アメリカ人と話すと、例えばフォードは中国に4つ、工場があります。3万人ぐらい雇っているのですね。フォードの方は、「車を作って持っていく馬鹿はいませんよ。ここで作って、ここで売るのですよ。それが一番もうかるのですから。中国の工場を閉める気は全くありません」とおっしゃるわけです。中国市場は伸びが鈍化したとはいえ、まだ伸びています。かつてのように10%成長はありえませんけれども、それでも毎年3~4%伸びるわけです。「この巨大な市場が毎年3~4%伸びていて、車を売らない人はいませんよ」とおっしゃるわけです。

ただ、通信にはファーウェイを使うので、情報はお金をかけて完全に暗号をかけています、「絶対に抜かれません」とおっしゃるわけです。そうやっていらっしゃる。最先端のモビリティ(自動運転)のような技術を抜かれるとちょっと困るのですけれども、普通の車を売ってペンタゴンが困ることはないのです。どうぞということになるわけです。

また、ボーイング社は4機作ったら1機は中国に売っています。ボーイングは親中企業といわれて、米議会で結構たたかれているらしいのです。彼らが何と言っているかというと、「絶対に私たちは中国では開発をしません。できたものをブラックボックスにして持っていって売っているだけなのです。これに対して、エアバスは現地で開発していますよ」と言っているのです。また、彼らは「台湾が使っているF-18戦闘機はボーイング製ですからね」と言って回っているのですよね。

皆さんいろいろ苦労してやっておられるのですが、中国市場が大きくなっていくときに、安全保障と関係ないところと切り離して、中国でもうけるのは当たり前ではないかということです。そのしたたかさは必要で、どこが安全保障に触るのかというのは最先端のところだけなので、そこは少しご注意された方がいいということです。

また全然別の文脈で、台湾戦争が起きたらどうするのかということはお考えいただく必要があると思います。まともな国は戦争なんかしません。プーチンは突然、「俺は偉大だ。ウクライナはロマノフの大地だ」と言って戦争を始めたわけですよね。独裁が長くなると誰も諫言できませんから、習近平さんもひょっとしたらそうなる可能性があります。アメリカの最近の議論は、アメリカは準備が整う前に習近平は台湾侵攻をやるぞという議論が主流です。中国の国力が米国に追いつく2030年前でも台湾戦争はあり得ると言い始めています。

私たち日本人は、中国人はプーチンのようなロシア人とは違うのでリスクを取りたがりませんから、十分準備をしないとやらないのではないかと考えがちです。そうすると2032年に習近平が4期目を辞めた後、あるいは、習近平がさらに任期を延長して2035年くらいになると、米中の国力が拮抗して本当に危ないのではないかと思うのですけれども、いずれにしても早晩台湾有事はあるのではないかというのが通り相場の議論になっています。

大概、戦争を始める人間は割と早く終わらせられると希望的観測をもって始めるので、ビジネスのことは余り考えません。台湾にはTSMCがあるから戦争はやらないかといったら、そんなことはありません。お構いなしに爆撃してぶっつぶします。

戦争の被害がいくらかといったときに、10兆円、20兆円ですよと言っても、「払ってやるよ」となるのです。これが戦争する人間の気持ちです。習近平氏は力の信奉者です。「やるかもしれない」ということを頭に置いておく必要はやはりあります。そうすると、そのときまでにどうやって投資を回収するかということも考えながら、保険をどうするかとか、いろいろ考えてビジネスを展開していただく必要があるということです。

それから、万が一のときの脱出ですね。中国は戦争が始まると敵性国家になりますので、日本とは政府間の外交関係が消えますから、スイスなどに利益代表国をお願いして、スイス経由で申し入れはしますけれども、在留邦人の方の安全の確保は約束できません。台湾戦争が始まる前にできるだけ日本に帰ってくださいということなのです。ただ、台湾は直接攻撃されるので、台湾在留邦人は台湾から出られなくなる可能性があるのですが、中国は全土が戦争でやられるわけではありませんので、第三国経由で出てくださいということになる可能性があります。

最後に、アメリカと最先端の技術でビジネスをしていらっしゃる会社の方は、アメリカの方の規制に引っ掛かるリスクもあります。対中輸出規制に引っかかると日本の企業でもやられてしまいますので、リスクがあるのであれば、中国向けの会社とアメリカ向けの会社を切り離すのも一案です。会計処理がダブルになってコストがかかるのですけれども、保険だと思っておやりになるとか、こういうことを考えておく必要もあると思います。

アメリカの企業は獰猛ですから、「政府の言うことを守っていればいいのだな」と言って、政府の規制ぎりぎりまで出ていくということをやります。今もお話がございましたけれども、日本企業も、必要以上に敏感になる必要は全くありません。

ただし、そこは危ないと言われるところがなぜ危ないかということを安全保障の次元で理解して、そのリスクを頭に置いておく必要があります。現在、世界ではどういう戦争をしているのかということを頭に置いて、この辺の技術が危ないかな、この辺は大丈夫なのだなと言った目利きをしていただきたい。

実は、私が一番心配しているのは皆さまのような大手の方ではなくて、セカンドティア、サードティアの中小の方がこういうことを考える余力はないのではないかということを心配しております。これは経産省や他の役所とも協力して、少し問題意識を持っていただいたらいいのではないかなと思っております。以上です。
■伊藤 兼原様、ありがとうございました。安全保障という観点では技術が決め手になるというお話だったかと思いますし、経済安保上の課題として中国との向き合いというところについての要諦をご提示いただきました。

今の問題提起を一つ柱としまして、この後の議論を展開していければと思います。一つは戦争を決めるのは技術という論点です。本日の基礎研シンポジウムの全体テーマの中に、米中対立とともに「対ロシア制裁」という言葉が入っております。戦争が長期化するにつれて、制裁が果たして効いているのかどうか。恐らく戦争が始まった当初、西側が足並みをそろえて制裁をかけて、特に金融面での制裁が大いに効くのではないかという期待が高かったように思うのですが、現実にはどうもロシアのような持てる国には金融制裁があまり効いていないということです。ただ、技術制裁に関しては相当じわじわと効いているのではないかということです。

これは鈴木様にお伺いしたいのですが、鈴木様のご著書の中に、西側の制裁はロシアの撤兵やプーチン体制の転覆につながるといったことが目的ではなくて、ある程度戦争のコストを上げて継戦能力を奪うことを目的にしているというお見立てが書かれていました。実際にその目的は遂げられているのではないかと思うと同時に、一つはそれによって継戦能力を奪われつつあるロシアが、少し行動がエスカレートしているように思われるということがちょっと気になる点であります。

それからもう一つ、天然ガスですね。まさに経済安全保障上なぜ管理が重要なのかというところで、相互依存関係を武器にする。ヨーロッパはまさに天然ガスを武器にして、大いに揺さぶりをかけられているという状況になるわけなのですが、兼原様の基調講演の中で、戦況という観点からのウクライナ戦争の今後の展開というお話を頂きました。鈴木様から、経済制裁と対抗措置という観点からのウクライナ戦争についてお考えをお聞かせいただければと思います。
 
■鈴木 ありがとうございます。大変広範にカバーすべきテーマを頂きましたが、対露制裁が効いているかどうかというイエス・ノークエスチョンで言うと、効いているというのが結論になると思います。おっしゃるとおり、最初は金融制裁が効くのではないかということだったのですが、これは恐らくその前に効いた制裁として、私も関わりましたイラン制裁のケースが想定されていたのだろうと思います。ですから、SWIFTから切り離すとか、例えば中央銀行の資産凍結というのをやるということだったのですが、イランの制裁と比較しますと、金融制裁は必ずしも徹底していなかったというのが非常に大きなポイントだと思います。一つは天然ガスを買ったときの代金を振り込む先としてガスプロムバンク、これはロシアで第3位の銀行ですけれども、これが制裁対象にならなかったのと、SWIFTから切り離されなかったということが大きな抜け穴になっているというのが1点。

それともう一つは、二次制裁がかかっていないということなのです。つまり、中国やインドが、言ってしまえば石油を買いたい放題の状態になっていて、それが結果的にはロシアに外貨が入ってくるというチャンネルをたっぷり残してしまったという意味では、金融制裁は嫌がらせ程度にしか効かなかったのだろうと思います。これは金融制裁が駄目だったということではなくて、西側諸国がロシアの天然ガスに依存していた結果、金融制裁に網をかけてしまうとロシアからの石油・ガスの輸入ができない。これは日本もそうなのですけれども、要するに自分たちを追い込む結果になってしまうということが金融制裁が効かなかった理由だと思います。その点で言うと、経済制裁によって、例えばロシア国内の経済が破綻し、混乱した中で人々が立ち上がってプーチン政権を倒すのではないかということが期待されていたとすれば、それは間違いだったと思います。私も最初からこの金融制裁は効き目がないという話を何度かさせていただいたかとは思います。

ただ、ポイントになるのは戦費の調達がそれなりに難しくなっていて、石油・天然ガスの代金は入ってくるのですが格安で売っているので、エネルギー価格が全体で上がっていますから、ロシアとすればそれなりに収入はあるのですけれども、膨大な戦費をカバーするだけの収入はないということで、やはり外国で起債をしないといけない。要するに外国から借金をしないといけないという状態になっているわけです。それが今、ロシアは厳しくなっているというのが現状で、実際に前線でも給料が支払われないとか、兵站に大きな問題が出ているのはそこが一つの原因としてあると思います。

技術制裁というか、いわゆる輸出管理によって影響が出ているというのは確かにそうなので、昨日、一昨日ですか、イギリスのGCHQのフレミング長官が「ロシアはもう弾切れになっている」とおっしゃっていて、それは多分輸出管理、つまりロシアが武器を手に入れるための生産に必要なものが手に入らない。半導体等ですね。これによってロシアがより追い詰められて、エスカレートするのではないかというのはみんな懸念していることなのですが、大体戦争というのは負けが込んでくるとエスカレートするものなので、ロシアが核兵器を保有している国である以上、やはりそれは十分に懸念しなければいけないことです。しかし、だからといってロシアに勝たせるわけにもいかないということで、いずれにしろ戦争を続けていれば、ロシアが負けが込んでくる可能性はあるわけで、それは制裁のあるなしにかかわらず、エスカレートはするだろうという問題はあると思います。

ロシアの対抗措置なのですけれども、いわゆる天然ガスを武器化するということなのですが、これはロシアにとっても返り血を浴びるものです。ロシアにとってみると、今や唯一といってもいいガスの代金というか、外貨収入が削られていくことになります。石油も売っているのですけれども、ちょうど今はヨーロッパが石油の上限価格を設定して、もし上限価格を超えた場合、保険制裁をかける。実は上限価格が重要なのではなくて、保険制裁が重要で、石油を運ぶタンカーは保険がないと走らないわけですけれども、海における船舶の保険はかなりの部分がヨーロッパに集中していて、ヨーロッパの国々が保険制裁をかけると輸出が難しくなるということで、外貨の収入が難しくなるというところがあると思います。

これも実はイラン制裁で使われた手段なのですけれども、保険制裁というのも有効な手段で、ロシアが取った対抗措置に対する対抗措置ということで、ロシアの経済もこれからまたさらに厳しくなっていくだろうと思っていますし、またヨーロッパはこの対抗措置に備えて、私は昨日もドイツの方々と議論したのですが、ドイツなどはかなり自信を持って「備蓄があるから大丈夫」と言っていました。まさにこれが経済安全保障的な観点からすれば、自分たちの依存度を減らす、脆弱性を減らすということだと思います。天然ガスの備蓄もお金がかかります。液体のまま保管するには冷やしていないといけないので。しかし、コストをかけてでも備蓄を強化することによって、ロシアからの圧力をかわしていくという考え方を徹底しているのではないかと思います。
■伊藤 ありがとうございました。先ほど矢嶋さんの方から、日本企業は非常に慎重なのだけれども、アメリカは実は政府としてはいろいろと経済安全保障法制の強化などを行っている一方、それと分離するような形でアメリカ企業は非常にアグレッシブに行動しているということでした。それから兼原様からも、もうかる市場にアクセスしない手はないのであって、リスクをしっかりコントロールしながらアプローチしていくべきなのだというご提言がありました。

経済安全保障上のアメリカの企業と日本企業の行動の違いについて、山本様、鈴木様から少しお考えをお聞かせいただければと思うのですが、いかがでしょうか。
 
■山本 私も同様に感じております。日本の企業の方々と議論する機会は多いのですが、割とリスクに寄ったお話の方が多いと思っております。一方で、こういったオープンソースだけで見ても、先ほどお伝えしたように必ずしも米国も欧州もデカップリングしておらず、むしろしたたかに事業を伸ばしているということが分かります。Teslaも明らかに切り分けてサプライチェーンを構築しており、先ほどのフォードの例もまさにおっしゃるとおりだと感じます。日本企業の中でも経営に近い方々とお話しすると、そこはもっと戦略的にやってもいいのではないかというお話も出てきますので、ご自身の業務によって見方は変わるのだなと私は思っております。

最近非常に懸念として挙がってくるのがウイグルです。UFLPAといわれる米国の法案が決まって、ウイグルとの取引は大丈夫なのかというご相談が多いのですが、これも米国、欧州の企業はとても多くウイグルの企業とつながっております。直でつながっている例も極めて多いので、こういったファクトを基に、単純に中国ビジネスを縮小するのではなくて、材料があれば例えば米国から域外適用の指摘を受けてもいろいろな切り返しができるよう、そういった観点で材料を持っておくということは企業の戦略上重要なのではないかと私は考えております。
■伊藤 ありがとうございます。鈴木様、いかがでしょうか。
 
■鈴木 ありがとうございます。私も山本さんと同じような感想を持っているのですが、企業の方々とお話ししたりすると、印象としては中国やウイグルというふうに、主語がすごく大きいという感じがするのです。つまり、アメリカが何を規制していて、何を規制していないのかということや、実際に規制をしていてもそれがどういう形で規制されているのか、例えばそれは単なる努力目標なのか、それとも禁止されていることなのか、そういったことなしに、非常に大きくざっくりと中国は危ないからやめておこうという話になっていたりもする。そんな中で、「でも、中国市場抜きにはビジネスはできない」という言い方もされていて、いずれもすごく大きな話を重ね合わせているという印象が非常にあります。やはりポイントになるのは、一体何が禁止されていて、何が認められているのかということを精査し、その中でこれとこれを結び付けたらこういう商売ができるなということをクリエイティブに考えていくことだろうと思います。

もちろんそこには、例えばアメリカの弁護士やそういったリーガルな人たちの助けもちゃんと得ながら、問題がないかどうかをダブルチェックしながらやっていく必要があるとは思うのですが、何となく雰囲気だけでこういったことはやめておこうという判断をされている方が比較的多いのではないかという気がすごくしています。ですので、先ほど兼原さんのコメントにもありましたけれども、きちんと米国向けと中国向けに会社を分けたり、できるだけファイヤーウォールをきちんと作って、ここからここはやらないとか、ここからここまではやるということをはっきりさせていくことで、かなり解像度高く、輪郭をはっきりさせたビジネスにしていけば、そうしたリスクは最小化できるのではないかと思っています。

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