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2022年10月13日開催
パネルディスカッション
激変する経済安全保障環境「経済安全保障の概念整理」
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2022年10月「米中対立、対ロシア制裁下の日本の経済安全保障」をテーマにニッセイ基礎研シンポジウムを開催いたしました。
同志社大学 特別客員教授/元内閣官房 国家安全保障局 次長 兼原 信克氏をお招きして「日本の国防と経済安全保障」をテーマに講演いただきました。
パネルディスカッションでは「激変する経済安全保障環境」をテーマに活発な議論を行っていただきました。
※ 当日資料はこちら
同志社大学 特別客員教授/元内閣官房 国家安全保障局 次長 兼原 信克氏をお招きして「日本の国防と経済安全保障」をテーマに講演いただきました。
パネルディスカッションでは「激変する経済安全保障環境」をテーマに活発な議論を行っていただきました。
※ 当日資料はこちら
⇒ 基調講演 日本の国防と経済安全保障
はじめに
■伊藤 コーディネーターを務めます、ニッセイ基礎研究所研究理事の伊藤です。よろしくお願いいたします。パネルディスカッションでは「激変する経済安全保障環境」をテーマに、そもそも経済安全保障とはどういった概念なのかということをはじめとして、日本を取り巻く経済安全保障環境の現状と方向性、あるいは経済安全保障環境の変化に対する政策、企業の対応の現状と課題について、兼原様の基調講演も踏まえながら、さらに議論を深めていきたいと思っております。
本日のパネリストをご紹介させていただきます。ご登壇の順に、私のお隣、東京大学公共政策大学院教授、鈴木一人様です。鈴木様は国際政治経済、科学技術、宇宙政策に大変お詳しくていらっしゃるのですが、国連安保理のイラン制裁専門家パネルの専門委員も務められた経験もあって、経済制裁、あるいは経済的な手段で他国に影響を及ぼそうとするエコノミック・ステイトクラフトにも大変精通されている先生でありまして、本日のこのテーマに最適任のお一人かと存じます。
次にご登壇いただきますのが、AIを活用したデータ解析の事業を手掛けられている株式会社FRONTEOの取締役、山本麻理様でございます。経済安全保障への対応として企業には供給網のリスク削減が求められるわけですけれども、本日はAIを通じてどのような解決策があるのかという具体的なお話についてお話しいただこうと思っています。
最後のパネリスト、登壇者は、当研究所常務理事、チーフエコノミスト、矢嶋康次でございます。矢嶋にはエコノミストとしての視点から経済安全保障環境の変化と対応策に切り込んでもらいます。
そして、本日基調講演をお務めいただきました同志社大学特別客員教授の兼原様にもディスカッションに加わっていただきます。
時間も限られておりますので、パネリストの個別のプロフィールに関してはパンフレットをご参照いただくということで、早速ご講演の方に入っていただきたいと思います。パネルディスカッションからご登壇いただくお三方には、大体お一人10~15分程度を目安にご講演をお願いしたいと思います。それでは鈴木様から、ご準備がよろしければご講演をお願いいたします。
本日のパネリストをご紹介させていただきます。ご登壇の順に、私のお隣、東京大学公共政策大学院教授、鈴木一人様です。鈴木様は国際政治経済、科学技術、宇宙政策に大変お詳しくていらっしゃるのですが、国連安保理のイラン制裁専門家パネルの専門委員も務められた経験もあって、経済制裁、あるいは経済的な手段で他国に影響を及ぼそうとするエコノミック・ステイトクラフトにも大変精通されている先生でありまして、本日のこのテーマに最適任のお一人かと存じます。
次にご登壇いただきますのが、AIを活用したデータ解析の事業を手掛けられている株式会社FRONTEOの取締役、山本麻理様でございます。経済安全保障への対応として企業には供給網のリスク削減が求められるわけですけれども、本日はAIを通じてどのような解決策があるのかという具体的なお話についてお話しいただこうと思っています。
最後のパネリスト、登壇者は、当研究所常務理事、チーフエコノミスト、矢嶋康次でございます。矢嶋にはエコノミストとしての視点から経済安全保障環境の変化と対応策に切り込んでもらいます。
そして、本日基調講演をお務めいただきました同志社大学特別客員教授の兼原様にもディスカッションに加わっていただきます。
時間も限られておりますので、パネリストの個別のプロフィールに関してはパンフレットをご参照いただくということで、早速ご講演の方に入っていただきたいと思います。パネルディスカッションからご登壇いただくお三方には、大体お一人10~15分程度を目安にご講演をお願いしたいと思います。それでは鈴木様から、ご準備がよろしければご講演をお願いいたします。
1――経済安全保障の概念整理
■鈴木 ありがとうございます。ただ今ご紹介にあずかりました東京大学の鈴木でございます。今日はよろしくお願いいたします。先ほど兼原先生の方から大変幅の広い、また重厚感のある基調講演をしていただき、しかも中身がウクライナ戦争の話、台湾有事の問題、そして経済安全保障の話と非常に多岐にわたっておりましたので、私はこの10分、15分を使いまして、経済安全保障というのはどういう概念なのか、それがどういう背景でこうした問題になっているのかということについて、若干交通整理というか、概念を整理させていただいた上で、このパネルディスカッションの話の流れにちょっと貢献できればと考えております。
1―1. 経済安全保障の背景
まず、経済安全保障という概念がなぜ今ここで問題になってきているのかということなのですが、第二次大戦後の世界経済秩序というのは、自由貿易体制であったとわれわれは考えているのですが、実は自由貿易体制というのは1945年以降、西側諸国の体制であった、ある意味部分的な国際的な秩序であったということができると思います。これは、1980年代の日米貿易摩擦のような経済的な対立はあったけれども、やはり同盟国であり、政治的な価値と規範を共有する国々として共にこの体制を何らかの形で維持するということで、日本にとっては非常に不利な形ではありましたけれども、自由貿易体制という形を維持しながら、世界秩序を形成していくということを行ってきたわけです。
ところが、冷戦が終わった後に世界の経済秩序をつくっていく際に問題になったのが、新たに国際社会、国際的な秩序の仕組みに入り込んできた中国やロシアをどういうふうに扱っていくのかということだったのだろうと思います。つまり、非西側諸国の自由貿易経済への編入ということが問題になったわけです。そこで、ポスト冷戦、冷戦後の世界秩序というものが三つの段階、それを三つの「相互依存の罠」とここで書きましたけれども、三つの「相互依存の罠」にはまったのではないかと考えています。
一つは1990年代にソ連が崩壊し、そして中国は天安門事件から何とか国際的な孤立を脱しようとしていた時期は、これは兼原さんのお話にもありましたけれども、まだまだ世界的に見ると小さな国、そして混乱した国であったということです。このときに、西側諸国の経済秩序に組み込んでいくことによって中国やロシアが西側諸国と同じような、つまり中産階級が発達し、そして彼らが政治的自由を求めることによって民主主義、法の支配といった仕組みが導入されていき、われわれと同じような価値を持った国々になっていくのではないかという期待がそこにはあったのだろうと考えております。
ところが、その中でも特に中国の生産効率の高さ、安い労働力や高い教育水準といったものにドライブされる形で中国への依存がこのときに始まり、またロシアは豊富な天然資源があり、その天然資源を求めてさまざまな形でロシアへの依存が高まっていった。つまり、第一の「相互依存の罠」は、こうしたある種楽観的な見通しに基づいて相互依存がどんどん強化されていくという罠に最初にはまったということがいえると思います。
そして、第二の「相互依存の罠」というのは、リーマン・ショック後の世界にあったと思います。リーマン・ショックによって西側諸国は極めて大きな痛手を受け、最近まで金融でいえば異次元の緩和といった形で、何とか支えなければならないような大きなダメージを受けたのに対し、中国やロシアはいわゆる国家資本主義という政治体制によって、権威主義的な政治体制が引っ張る経済体制が実はこうした混乱した状況に合致していた。ないしは、こういう国家資本主義の方が少なくともリーマン・ショック後の世界においてはいち早く回復していく局面に入ったという意味では、中露が政治体制は権威主義的な体制でいいのではないかというように認識するようになってきた。つまり、2008年以降の世界は、ロシアにおいてはメドベージェフ政権を挟んで、その後またプーチン大統領に権力が集中するような仕組みになりましたし、中国においては胡錦濤政権の後、習近平体制がより強化されていく。こうした政治体制がより一層権威主義化していくことを加速させる時期にあったわけです。
しかしながら、この時期は既に日本、アメリカ、ヨーロッパは中露に対する依存がものすごく大きくなっていて、そうやすやすと彼らとの関係を切ることができない状況になっていました。そこで導入された考え方が政経分離、日本ではよく政冷経熱とか、韓国などは政米経中ないしは安米経中とよくいいますが、安全保障や政治はアメリカ、経済は中国という政治と経済は分離可能であるという前提を置いて相互依存を進めていくということが起こったのが第二の「相互依存の罠」になろうかと思います。
ところが、こうした相互依存がより深まっていく中で、第三の「相互依存の罠」が現れてきました。それは何かというと、政治と経済は分離可能だと思っていたら、実は政治と経済は融合しているのだということです。これも兼原さんのお話の中にありましたけれども、2010年の中国によるレアアースの禁輸のように、政治的な目的を達成するために経済を手段として相手国に圧力をかけたり、攻撃を仕掛けたりする。つまり、軍事的な安全保障が軍事的な手段をもって相手国に対して圧力や抑止をかけるような状況と同じように、経済的な手段を使って他国に対して政治的な価値や規範、さまざまな行動を要請する、押し付けるような行動が出てくるようになってきました。これが第三の「相互依存の罠」です。第一と第二の「相互依存の罠」に陥っている中で既に逃げられなくなっているところに、経済的な手段を使って政経融合の形で攻撃を仕掛けてくる時代になってきた。つまり、経済的な相互依存が安全保障上の脅威になり得る時代になったのが現代の政経融合の時代だというふうに定義できると思います。
まず、経済安全保障という概念がなぜ今ここで問題になってきているのかということなのですが、第二次大戦後の世界経済秩序というのは、自由貿易体制であったとわれわれは考えているのですが、実は自由貿易体制というのは1945年以降、西側諸国の体制であった、ある意味部分的な国際的な秩序であったということができると思います。これは、1980年代の日米貿易摩擦のような経済的な対立はあったけれども、やはり同盟国であり、政治的な価値と規範を共有する国々として共にこの体制を何らかの形で維持するということで、日本にとっては非常に不利な形ではありましたけれども、自由貿易体制という形を維持しながら、世界秩序を形成していくということを行ってきたわけです。
ところが、冷戦が終わった後に世界の経済秩序をつくっていく際に問題になったのが、新たに国際社会、国際的な秩序の仕組みに入り込んできた中国やロシアをどういうふうに扱っていくのかということだったのだろうと思います。つまり、非西側諸国の自由貿易経済への編入ということが問題になったわけです。そこで、ポスト冷戦、冷戦後の世界秩序というものが三つの段階、それを三つの「相互依存の罠」とここで書きましたけれども、三つの「相互依存の罠」にはまったのではないかと考えています。
一つは1990年代にソ連が崩壊し、そして中国は天安門事件から何とか国際的な孤立を脱しようとしていた時期は、これは兼原さんのお話にもありましたけれども、まだまだ世界的に見ると小さな国、そして混乱した国であったということです。このときに、西側諸国の経済秩序に組み込んでいくことによって中国やロシアが西側諸国と同じような、つまり中産階級が発達し、そして彼らが政治的自由を求めることによって民主主義、法の支配といった仕組みが導入されていき、われわれと同じような価値を持った国々になっていくのではないかという期待がそこにはあったのだろうと考えております。
ところが、その中でも特に中国の生産効率の高さ、安い労働力や高い教育水準といったものにドライブされる形で中国への依存がこのときに始まり、またロシアは豊富な天然資源があり、その天然資源を求めてさまざまな形でロシアへの依存が高まっていった。つまり、第一の「相互依存の罠」は、こうしたある種楽観的な見通しに基づいて相互依存がどんどん強化されていくという罠に最初にはまったということがいえると思います。
そして、第二の「相互依存の罠」というのは、リーマン・ショック後の世界にあったと思います。リーマン・ショックによって西側諸国は極めて大きな痛手を受け、最近まで金融でいえば異次元の緩和といった形で、何とか支えなければならないような大きなダメージを受けたのに対し、中国やロシアはいわゆる国家資本主義という政治体制によって、権威主義的な政治体制が引っ張る経済体制が実はこうした混乱した状況に合致していた。ないしは、こういう国家資本主義の方が少なくともリーマン・ショック後の世界においてはいち早く回復していく局面に入ったという意味では、中露が政治体制は権威主義的な体制でいいのではないかというように認識するようになってきた。つまり、2008年以降の世界は、ロシアにおいてはメドベージェフ政権を挟んで、その後またプーチン大統領に権力が集中するような仕組みになりましたし、中国においては胡錦濤政権の後、習近平体制がより強化されていく。こうした政治体制がより一層権威主義化していくことを加速させる時期にあったわけです。
しかしながら、この時期は既に日本、アメリカ、ヨーロッパは中露に対する依存がものすごく大きくなっていて、そうやすやすと彼らとの関係を切ることができない状況になっていました。そこで導入された考え方が政経分離、日本ではよく政冷経熱とか、韓国などは政米経中ないしは安米経中とよくいいますが、安全保障や政治はアメリカ、経済は中国という政治と経済は分離可能であるという前提を置いて相互依存を進めていくということが起こったのが第二の「相互依存の罠」になろうかと思います。
ところが、こうした相互依存がより深まっていく中で、第三の「相互依存の罠」が現れてきました。それは何かというと、政治と経済は分離可能だと思っていたら、実は政治と経済は融合しているのだということです。これも兼原さんのお話の中にありましたけれども、2010年の中国によるレアアースの禁輸のように、政治的な目的を達成するために経済を手段として相手国に圧力をかけたり、攻撃を仕掛けたりする。つまり、軍事的な安全保障が軍事的な手段をもって相手国に対して圧力や抑止をかけるような状況と同じように、経済的な手段を使って他国に対して政治的な価値や規範、さまざまな行動を要請する、押し付けるような行動が出てくるようになってきました。これが第三の「相互依存の罠」です。第一と第二の「相互依存の罠」に陥っている中で既に逃げられなくなっているところに、経済的な手段を使って政経融合の形で攻撃を仕掛けてくる時代になってきた。つまり、経済的な相互依存が安全保障上の脅威になり得る時代になったのが現代の政経融合の時代だというふうに定義できると思います。
1―2. 経済安全保障の三つの手段
こんな中で経済安全保障をどうやって達成するのかというときに三つの手段があって、これがそれぞれにかなり異なったベクトルを持っているので、なかなか経済安全保障は分かりにくい、経済安全保障とは何なのかということで混乱するところがあるかと思います。
一つは、先ほども少しお話ししたように、レアアース事件のようなサプライチェーンに対する攻撃、これが経済安全保障の中心にある。つまり、サプライチェーンの安全保障をどうやって確保するのかというのが経済安全保障の鍵になります。これは簡単に言えば、相手に対する依存を減らしていくことによって、もし仮に相手がサプライチェーンをぶった切ろうとしても、それによって圧力を受けないようにするということが一つの大きなポイントになります。
二つ目は、技術の不拡散による安全保障ということです。これは兼原さんのお話の中にもあったように、日本にはさまざまな優れた技術がありますが、この技術を維持することによって経済的な優位性ないしは不可欠性を獲得していく。これは経済安全保障の世界においては日本のパワーになり得るものである。つまり、外国から攻撃を受けた場合、日本も報復措置として他国に対して他国が日本に依存しているものを止めることができるということになれば、これはある種の抑止力になるという考え方から、技術の不拡散が経済安全保障の一環にあるということ。また、こうした技術の中でもとりわけ軍民両用の技術が増えていく中で、他国に技術が移っていくことが他国の軍事力を強化して、そして他国の軍事力を強化することが自国の安全保障に大きな問題になるという、いわゆる軍事安全保障の側面において経済的にそれをコントロールするという、いわゆる伝統的な安全保障貿易管理の側面もあろうかと思います。
三つ目が、他国の規制による経済的なさまざまな被害です。例えばアメリカのウイグル強制労働禁止法のような、他国が他国、つまりアメリカが中国に対して行っているような輸出管理や制裁といったものが間接的にわれわれの行動にさまざまに影響を及ぼしてくる。また、アメリカの制裁に加わる形になると、今度は中国が反外国制裁法といった法律を機動して中国でのビジネスがやりにくくなるということです。こうした状況に備えることも経済安全保障の一つといえると思います。
こんな中で経済安全保障をどうやって達成するのかというときに三つの手段があって、これがそれぞれにかなり異なったベクトルを持っているので、なかなか経済安全保障は分かりにくい、経済安全保障とは何なのかということで混乱するところがあるかと思います。
一つは、先ほども少しお話ししたように、レアアース事件のようなサプライチェーンに対する攻撃、これが経済安全保障の中心にある。つまり、サプライチェーンの安全保障をどうやって確保するのかというのが経済安全保障の鍵になります。これは簡単に言えば、相手に対する依存を減らしていくことによって、もし仮に相手がサプライチェーンをぶった切ろうとしても、それによって圧力を受けないようにするということが一つの大きなポイントになります。
二つ目は、技術の不拡散による安全保障ということです。これは兼原さんのお話の中にもあったように、日本にはさまざまな優れた技術がありますが、この技術を維持することによって経済的な優位性ないしは不可欠性を獲得していく。これは経済安全保障の世界においては日本のパワーになり得るものである。つまり、外国から攻撃を受けた場合、日本も報復措置として他国に対して他国が日本に依存しているものを止めることができるということになれば、これはある種の抑止力になるという考え方から、技術の不拡散が経済安全保障の一環にあるということ。また、こうした技術の中でもとりわけ軍民両用の技術が増えていく中で、他国に技術が移っていくことが他国の軍事力を強化して、そして他国の軍事力を強化することが自国の安全保障に大きな問題になるという、いわゆる軍事安全保障の側面において経済的にそれをコントロールするという、いわゆる伝統的な安全保障貿易管理の側面もあろうかと思います。
三つ目が、他国の規制による経済的なさまざまな被害です。例えばアメリカのウイグル強制労働禁止法のような、他国が他国、つまりアメリカが中国に対して行っているような輸出管理や制裁といったものが間接的にわれわれの行動にさまざまに影響を及ぼしてくる。また、アメリカの制裁に加わる形になると、今度は中国が反外国制裁法といった法律を機動して中国でのビジネスがやりにくくなるということです。こうした状況に備えることも経済安全保障の一つといえると思います。
1―3. 貿易・相互依存の「武器化」
このように経済安全保障というのは、政経融合の時代における貿易・相互依存が「武器化」された状態、この中で他国がエコノミック・ステイトクラフトといわれる、経済的な手段を用いて他国に対して攻撃や圧力をかけていくような時代においてやはり鍵になる概念は、脆弱性・依存という問題だと思います。つまり、他国に依存すればするほど、特にそれが戦略的物資であればあるほど、相手に対する攻撃のレバレッジは非常に大きくなるということで、例えばそれこそ靴やTシャツといったものが他国に依存しているということは別に大したレバレッジにならないわけですが、これがレアアースや蓄電池、半導体ということになると、それは大きなレバレッジになるかと思います。
たまに、例えばパンデミックが始まった頃にマスク外交という問題があって、マスクが中国で集中的に生産されているということが問題になったことがあります。マスクもこれまではTシャツと同じように戦略的物資とはあまり考えられてこなかったわけですが、世界的なパンデミックの結果、世界的な需要が高まったことによって、中国で集中的に生産していることが中国にとってのエコノミック・ステイトクラフト、レバレッジになったということがありました。この場合、例えば備蓄ですとか、とりわけマスクは技術的に複雑なものではありませんから、それを作れるような生産ラインを日本に置いておくとか、一時の不足はあるけれども、例えば布マスク等で代替するといったさまざまな代替手段を用いることでこうした問題は解決していくことが出来ます。つまり、経済安全保障というのは全てを国内でやる必要はなくて、こうしたさまざまなリスク、何かサプライが止まったときに、それに対して対応できるような備蓄を用意したり、代替物を用意するようなさまざまな対処方法があろうかと思います。
またもう一つ、中国がよく使う手段としてあるのがMarket Gravityを利用したレバレッジでして、これは何かというと、14億の人口を抱える中国が持っている市場の大きさ、これはやはり中国市場というものに魅力があって、そして中国市場に引かれていく、グラビテートされていく。そういった中で、これを一つのてこにして、例えば中国のパンデミックの最初の頃、中国は武漢の研究所を調査しろと言ったオーストラリアに対して、オーストラリアの鉄鉱石、石炭、農産物等を輸入停止するということを行ったわけです。こうした市場のGravityを使ったてこというものをエコノミック・ステイトクラフト、経済的な攻撃手段に使ってくるようなケースも出てきました。これに対してもさまざまな市場の多様性、ダイバーシフィケーションというのが重要になってくるかと思います。
このように経済安全保障というのは、政経融合の時代における貿易・相互依存が「武器化」された状態、この中で他国がエコノミック・ステイトクラフトといわれる、経済的な手段を用いて他国に対して攻撃や圧力をかけていくような時代においてやはり鍵になる概念は、脆弱性・依存という問題だと思います。つまり、他国に依存すればするほど、特にそれが戦略的物資であればあるほど、相手に対する攻撃のレバレッジは非常に大きくなるということで、例えばそれこそ靴やTシャツといったものが他国に依存しているということは別に大したレバレッジにならないわけですが、これがレアアースや蓄電池、半導体ということになると、それは大きなレバレッジになるかと思います。
たまに、例えばパンデミックが始まった頃にマスク外交という問題があって、マスクが中国で集中的に生産されているということが問題になったことがあります。マスクもこれまではTシャツと同じように戦略的物資とはあまり考えられてこなかったわけですが、世界的なパンデミックの結果、世界的な需要が高まったことによって、中国で集中的に生産していることが中国にとってのエコノミック・ステイトクラフト、レバレッジになったということがありました。この場合、例えば備蓄ですとか、とりわけマスクは技術的に複雑なものではありませんから、それを作れるような生産ラインを日本に置いておくとか、一時の不足はあるけれども、例えば布マスク等で代替するといったさまざまな代替手段を用いることでこうした問題は解決していくことが出来ます。つまり、経済安全保障というのは全てを国内でやる必要はなくて、こうしたさまざまなリスク、何かサプライが止まったときに、それに対して対応できるような備蓄を用意したり、代替物を用意するようなさまざまな対処方法があろうかと思います。
またもう一つ、中国がよく使う手段としてあるのがMarket Gravityを利用したレバレッジでして、これは何かというと、14億の人口を抱える中国が持っている市場の大きさ、これはやはり中国市場というものに魅力があって、そして中国市場に引かれていく、グラビテートされていく。そういった中で、これを一つのてこにして、例えば中国のパンデミックの最初の頃、中国は武漢の研究所を調査しろと言ったオーストラリアに対して、オーストラリアの鉄鉱石、石炭、農産物等を輸入停止するということを行ったわけです。こうした市場のGravityを使ったてこというものをエコノミック・ステイトクラフト、経済的な攻撃手段に使ってくるようなケースも出てきました。これに対してもさまざまな市場の多様性、ダイバーシフィケーションというのが重要になってくるかと思います。
1―4. 日本がなすべきこと
最後に、日本が何をすべきかということなのですが、日本は確かにあらゆる国産化、内製化ができれば、それはそれで一番安心できるのですが、例えば日本はいくら掘っても石油が出てくるわけではありませんので、そういった中で日本がなすべきことというのはやはり自由貿易と経済安全保障を両立させていくという考え方であろうと思います。
経済安全保障というのは一面合理的ではないわけです。つまり、中国で買うのが最も合理的で、最も安くて、最もいいものが買えるけれども、中国に依存し続けることにリスクはあるので、そのリスクを低減するためにできるだけ分散化する、多少高くても他のところから買ってくるということを進めつつ、自由貿易、日本はやはり貿易によって成り立つ国ですから、こうした貿易を進めていく。そのためには何が戦略的重要物資なのか、何が重要な技術なのかということを特定しながら、その範囲においては可能な限り内製化する。もし内製化が不可能であれば、Friend-shoringとよくいいますけれども、信頼できるパートナーと共に進めていくということがあるかと思います。
また、日本はこうした経済安全保障という概念を世界的に最初に提供している国でありまして、日本が何をやっているかということは世界的に見られています。実は私は、昨日なのですけれども、朝にアメリカ、午後に韓国、夜にドイツのそれぞれの政府とオンラインでやりとりをしまして、とにかくどこもかしこも日本が今何をやっているかというのを知りたがっているのが現状です。ですから、日本がこうした経済安全保障に対して官民の間でどういう対話をし、どのようにこの問題を解決しようとているのかということがかなり注目されているという点は重要な点だと思っております。そういう中でこうした機会で皆さまと議論できることは大変有用なことだと思っていますので、皆さまのご質問等をお待ちしております。私の話は以上で終わりにしたいと思います。ありがとうございました。
■伊藤 鈴木様、ありがとうございました。経済安全保障がなぜ今対応すべき課題なのか、具体的にどのような対応をすべきなのかという、このパネルディスカッションの基礎となるようなお話をしていただけたものと思います。
それでは続きまして、山本様のご講演をお願いしたいと思います。ご準備がよろしければお願いいたします。
最後に、日本が何をすべきかということなのですが、日本は確かにあらゆる国産化、内製化ができれば、それはそれで一番安心できるのですが、例えば日本はいくら掘っても石油が出てくるわけではありませんので、そういった中で日本がなすべきことというのはやはり自由貿易と経済安全保障を両立させていくという考え方であろうと思います。
経済安全保障というのは一面合理的ではないわけです。つまり、中国で買うのが最も合理的で、最も安くて、最もいいものが買えるけれども、中国に依存し続けることにリスクはあるので、そのリスクを低減するためにできるだけ分散化する、多少高くても他のところから買ってくるということを進めつつ、自由貿易、日本はやはり貿易によって成り立つ国ですから、こうした貿易を進めていく。そのためには何が戦略的重要物資なのか、何が重要な技術なのかということを特定しながら、その範囲においては可能な限り内製化する。もし内製化が不可能であれば、Friend-shoringとよくいいますけれども、信頼できるパートナーと共に進めていくということがあるかと思います。
また、日本はこうした経済安全保障という概念を世界的に最初に提供している国でありまして、日本が何をやっているかということは世界的に見られています。実は私は、昨日なのですけれども、朝にアメリカ、午後に韓国、夜にドイツのそれぞれの政府とオンラインでやりとりをしまして、とにかくどこもかしこも日本が今何をやっているかというのを知りたがっているのが現状です。ですから、日本がこうした経済安全保障に対して官民の間でどういう対話をし、どのようにこの問題を解決しようとているのかということがかなり注目されているという点は重要な点だと思っております。そういう中でこうした機会で皆さまと議論できることは大変有用なことだと思っていますので、皆さまのご質問等をお待ちしております。私の話は以上で終わりにしたいと思います。ありがとうございました。
■伊藤 鈴木様、ありがとうございました。経済安全保障がなぜ今対応すべき課題なのか、具体的にどのような対応をすべきなのかという、このパネルディスカッションの基礎となるようなお話をしていただけたものと思います。
それでは続きまして、山本様のご講演をお願いしたいと思います。ご準備がよろしければお願いいたします。
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