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2025年10月10日

保険・年金関係の税制改正要望(2026)の動き-関係する業界・省庁の改正要望事項など

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――2026年度予算と税制改正の動きが始まる

8月末までに各省庁の概算要求が提出され、2026年度に向けた予算や税制改正の動きが始まった。例年と同じく、全体からすればほんの一部分ではあるが、保険・年金あるいはそれに近い金融商品に関する税制改正要望がどのような内容かをみていく。

2――2026年度税制改正要望

2――2026年度税制改正要望

1|各業界団体の要望事項
主に保険、年金とその周辺の要望事項を列挙すると以下のようなものである。
 
<生命保険協会1
〇生命保険料控除の拡充 
現在の制度では、
平成23年12月までの契約は生命保険が所得税5万円、地方税3.5万円、個人年金保険もそれぞれ同額(合計控除額 所得税10万円、地方税7万円)、平成24年以降契約は、介護保険に重点が置かれたため分離して、一般(遺族保障)、介護(介護・医療保障)、個人年金(老後保障)それぞれで所得税4万円、地方税2.8万円、(合計控除限度額 所得税12万円、地方税7万円)
となっている。

昨年の令和7年度与党税制改正大綱において、子育て世帯(23歳未満の扶養親族を有する場合を指す)に対する遺族保障については、遺族保障に係る控除額に2万円を追加し、介護・個人年金より大きい6万円(地方税4.2万円)とすることが明記された。ただしこれが令和8年度限りの時限措置となっているため、今回はその恒久化を要望するものとなっている。 
 
〇企業年金保険関係
企業年金制度等に係る特別法人税の廃止、または少なくとも課税停止期間の延長、を要望している。特別法人税は、これまでも課税停止期間がほぼ3年毎に延長されてきた経緯があり、現在は2025年度まで課税停止となっている。今回も例年通り、特別法人税そのものの撤廃を要望しているが、撤廃に至らない場合であっても課税停止期間の延長を要望している。本稿で、以降見ていくように、他のいくつかの業界等からも、同じ要望が出されている。

より広範なテーマとして、働き方に中立的な税制改正が議論される際には、私的年金全体の今後の見直し(とりわけ拠出時・運用時・給付時の課税のあり方)において、拠出限度額の見直し時に、年金制度のカバレッジの縮小が起きないよう一体的・慎重に議論を行うことを要望している。

また、確定拠出年金・確定給付年金ともに、現在よりもさらに税務上必要な条件を緩和する方向で、いくつかの項目を要望している。
 
〇相続税関係
死亡保険金の非課税限度額は現在、「法定相続人数×500万円」であるが、さらに「配偶者分500万円+未成年の被扶養法定相続人数×500万円」を加算することを求めている。(例年と同様)
 
1 https://www.seiho.or.jp/info/category/news/opinion-tax/pdf/2025.pdf
令和8年度税制改正に関する要望(2025.7.18 一般社団法人 生命保険協会)
<日本損害保険協会2
〇火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実
自然災害の激甚化・頻発化に対応して、火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実などを要望している。内容は、積立率の引き上げや無税積立枠の拡大などである。
 
〇地震保険料控除
従来あった損害保険料控除制度が、2007年から地震保険料のみを対象とするよう改正され、現在の控除限度額は所得税5万円、地方税2.5万円である。近年の地震リスクがより大きなものに見直される中で、地震保険料そのものの水準は、2017、2019、2021と引き上げられてきた。それに対する地震保険料控除制度の方もさらに制度として充実させるよう、検討を要望しているが、具体的な制度変更や金額にまでは言及されていない(昨年と同じ)。
 
〇企業年金関係
特別法人税の撤廃(生命保険協会と同じ)
 
2 https://www.sonpo.or.jp/news/release/2025/g34l0i00000085ow-att/250724_01.pdf
令和8年度税制改正に関する要望(2025.7.24 一般社団法人 日本損害保険協会)
<全国銀行協会3
確定拠出年金制度に関連して、特別法人税の撤廃、制度のさらなる普及のための利便性の向上や優遇措置などを要望している。

また、金融資産への課税の簡素化、中立化の観点から、金融商品課税の一体化4などを要望している。NISA(少額投資非課税制度)については、対象範囲の拡充(年齢制限の撤廃や投資対象の拡大)や事務手続きなどにおける利便性の向上を要望している。
 
3 https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/opinion/opinion370918.pdf
令和8年度税制改正に関する要望 -我が国の成長加速と社会過大解決に資する税体系の構築に向けて- (2025.9.18 一般社団法人 全国銀行協会)
4 金融商品ごとに異なる課税方式の統一や、損益通算範囲の拡大(例えば、株式損失と利子所得の相殺とか)のことを指す。
<信託協会5
信託協会は信託、年金、金融制度全般、不動産などの分野について要望をまとめている。うち年金については特別法人税の撤廃を特に強く要望している。その他に、確定拠出年金の利便性をより向上させるような税制優遇範囲の拡大や手続きの簡素化につき、具体的な項目をいくつか要望している。

また金融制度のなかでは、金融所得課税の一体化や、NISAの利便性向上にむけた要望を出している。
 
5 https://www.shintaku-kyokai.or.jp/archives/015/202509/20250918.pdf
令和8年度税制改正に関する要望(25025.9.18 一般社団法人 信託協会)
<経団連6
例年、産業全般あらゆる分野の要望が広く盛り込まれている。

金融・生命保険・年金の周辺では、子育て世帯に対する生命保険料控除制度の拡充の恒久化、金融所得課税の一体化、特別法人税の撤廃、確定拠出年金制度の拡充、火災保険に係る異常危険準備金制度の充実、NISAの拡充・利便性の向上など、各業界の要望を取り入れたものになっている。

また、具体的な項目ではないが、働き方に対し中立的な仕組みを構築するにあたり、年金・退職所得に係る税制の総合的な見直しを提言している。
 
6 https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/060_honbun.pdf
令和8年度税制改正に関する提言-成長と分配の好循環の定着に向けて-(2025.9.16 一般社団法人 日本経済団体連合会)
2|各省庁の要望
様々な業界が、この時期に税制改正要望をまとめるのは、政府・省庁、最終的には国会にむけて、予算や税制の検討が進められることに対し、タイミングを合わせているためである。その各省庁からは予算の概算要求とともに、税制改正要望が公表されている。それは以下のようになっている。
 
<金融庁7
金融所得課税の一体化などを要望している。また上記の生保業界の要望を受けて生命保険料控除拡充の恒久化と相続税関係の事項を要望している。同様に損害保険業界の要望を受ける形で、火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実を要望している。NISAの拡充と利便性向上に向けた要望が出されている。特別法人税についても撤廃、あるいは課税停止期間の延長を要望している。
 
7 https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20250829/01.pdf
令和8(2026)年度税制改正要望について(2025.8.29 金融庁)
<厚生労働省8
特別法人税の撤廃少なくとも課税停止期間の延長を要望している。また、子育て世帯の生命保険料控除の拡充の恒久化については、厚生労働省も要望している。
 
8 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_62355.html
令和8年度厚生労働省税制改正要望について(2025.8.29 厚生労働省)

3――今後の動きについて

3――今後の動きについて

例年、こうして8月末頃に各省庁から財務省に要望が出されたあと、その要望に沿って財源や費用対効果などについて省庁間の折衝が行われ、さらには政府あるいは与党の税制調査会で議論がなされていくことになる。12月中旬の与党税制改正大綱の発表により、相当程度細部まで事実上決定される。 

ただし、正式な決定は年明けの国会における予算案全体の審議を経て行われるため、もし政治的な混乱があれば内容が変更される可能性もあるなど、12月の段階ではまだ不透明な部分も残されている。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月10日「基礎研レター」)

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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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