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住宅を社会的資産に~ストック型社会における住宅のあり方~

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎
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今、人類のあらゆる活動の場面において気候変動への対策も求められている中で、直ちにストック型社会に移行しなければならない時期にきていると言えるだろう。
ここで問題となるのは、これまでのフロー型社会では、その過程で将来的にストック型社会に移行するというビジョンを持たないまま歩んできてしまったことである。
莫大な資金を投じて整備してきた社会資本が、いずれ老朽化することは予見できたはずであるが、それに対し十分な準備がなされないまま、ある日突然に事故の発生という形で、そのツケの大きさにようやく気付かされているというのが現在の状況であろう。
下水道管の老朽化に伴う道路陥没事故、高速道路トンネルの天井崩落事故など、人命が失われた事故も発生している。
老朽化した社会資本を修繕してさらに長期の使用に耐えるようにしていきながら、新たに必要な社会資本を整備していかなければならない。
さて、住宅はどうだろうか。フロー型社会においては、個人が所有する住宅は社会的資産とは見做さず、あくまで個人の資産として、その取扱いは所有者個人に任されるところであった。
その結果、多くの住宅が適切にメンテナンスされず新築から数十年で建て替える、あるいは誰も住まなくなって空き家になるといった状況を招き、空き家の増加は社会問題化してしまった。
住宅においてもストック型社会への移行が喫緊の課題と言えよう。質の高い住宅を整備し、適切にメンテナンスしていれば100年、200年使い続けることができる。
そのような住宅に何世代にわたり住み継ぐことが普通となる社会である。
長期の使用に耐え得る住宅は、そうではない住宅に比べて初期費用が嵩むことは避けられない。しかし、使用する期間の生涯コストと、同じ期間に数度建て替えるコストを比較すれば、前者の方が低く抑えられるはずである。
一方、何世代にもわたり長期間利用されるということは、それだけ価値が持続するということである。新築した世帯のみが居住して価値が無くなるというのが、これまでのフロー型社会における住宅であった。そのような住宅のあり方から早期に脱却して、価値が長期に持続する住宅を人々が普通に得られるようにしなければならない。それは言わば、住宅を社会的資産にするということである。
このような観点を背景として、2008年に制度化されたのが長期優良住宅の認定制度である。これは、国が定めた長期使用に耐え得る構造等の基準を満たした住宅を認定することで、質の高い優良住宅を増やしていこうとするものだ。認定された住宅は、維持保全計画に基づき適切な維持管理が求められる。まさに、個人住宅を社会的資産とするために設けられた制度と言える。それ故、税制や融資における支援措置が設けられている。
戸建の長期優良住宅は、新築と増改築をあわせて既に累計156万戸近くが認定されている。これは戸建住宅ストックの約5%程度であり、まだ充足にはほど遠い状況だ[図表]。さらに増やしていかなければならない。それには、よりいっそう人々の関心を高めるとともに、支援措置の継続が必要であろう。
住み継ぐ世帯の負担はリフォームに必要な資金が主で、新築するより軽くなるはずだ。こうして、良質な住宅ストックを次世代に容易に引き継ぐことができるようになる。これが、ストック型社会における住宅のひとつのあり方であろう。
(2025年06月25日「研究員の眼」)

03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
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