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2025年05月23日

「気になるけれど始めない」躊躇する潜在投資家-NISA“意向”者への理解を深める

生活研究部 研究員 西久保 瑛浩

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1――はじめに~NISA利用者は大きく増加、伸びしろも

2024年1月に拡充型の少額投資非課税制度(いわゆる「新NISA」)が施行され、1年以上が経過した。

日本証券業協会が実施している「証券投資に関する全国調査」によれば、NISA利用者(「口座を開設、投資あり」)の割合は直近2024年度調査で14.4%(2021年度:7.5%)と大きく増加している。NISA口座の未開設者をみても、「聞いたことあり、興味がある」が16.0%(2021年度:9.9%)と大きく増加、逆に「知らない」は21.8%(2021年度:42.0%)と大きく減少しており、認知・興味・利用ともに飛躍的な向上を達成したといえる。まさしく新NISAの施行やその基盤となる資産形成ブームによる影響と考えられ、「貯蓄から投資へ」の進展が窺える。

一方、見方を変えれば、NISA利用者の1.1倍が「聞いたことあり、興味がある」で留まっており、まだまだ利用者拡大の伸びしろがあるともいえる。今後の政策としての資産形成の推進や、証券会社をはじめとする金融機関の新規顧客獲得に向けて、「聞いたことあり、興味がある」の層に対する理解を深めることは、引き続き重要な意味を持つ。

そこで本稿では、このいわば「躊躇する潜在投資家」の解像度を、データを用いて高めていきたい。
【図表1】NISAの認知・利用状況の推移

2――属性から見る「躊躇する潜在投資家」

2――属性から見る「躊躇する潜在投資家」

まず、先に示したNISAの利用状況について、「聞いたことあり、興味がある」の回答者(以下「NISA意向者」)に焦点を当てて属性別にみていく(図表2)。

男女別にみると、NISA意向者は女性(17.1%)で高い。「知らない」は同様に女性で高いものの、NISA利用者~「内容理解済、開設意向なし」はそれぞれ男性で高くなっており、NISA認知者の中でNISA意向者は特徴的に女性への偏りがみられる。

年代別にみると、NISA意向者は40代以下の層で特に高く、60代以上の層で低い。他の項目と比較しても、NISA意向者は若年現役層に偏る単調な傾向がみられる。

また、「知らない」が20代以下で、NISA利用者が40~60代でそれぞれ高いことを踏まえると、平均的に20代までに認知へ、40~50代で利用へとステージを移行する様子がわかる。つまり、一定のNISA意向者は加齢に伴いNISA利用者へ移行することが期待できるわけだが、資産形成の開始時期として20~40代という期間を逸している現状はあまり好ましくないように思える。

次に個人年収別にみると、300~700万円未満の層で高く、低収入層・高収入層では低くなっている。「聞いたことあり、興味はない」が100万円未満および200~300万円未満で高いことを踏まえると、年収300万円が興味の有無の境目となっていることがわかる。
【図表2】NISAの認知・利用状況(属性別)

3――NISAに興味はあるが非開設の理由

3――NISAに興味はあるが非開設の理由~金融リテラシーが原因なのか

次に、同調査の「NISAに興味はあるが、口座開設していない理由」の回答結果(図表3)をみると、全体で「投資の方法がよくわからない」(75.0%)が過半を占めて最も高く、次いで「NISA口座の開設手続が面倒である」(25.0%)が2割を超えて高くなっている。

層別にみると、女性および年収100~200万円未満で「投資の方法がよくわからない」(79.5%、83.2%)が高く、「NISA口座の開設手続が面倒である」は層別の差はみられない。

ここから、NISA意向者が口座開設に至らない最も大きな原因が金融・投資に関する知識、いわゆる「金融リテラシーの低さ」である可能性が浮かび上がる。
【図表3】NISAに興味はあるが非開設の理由
そこで、ニッセイ基礎研究所が実施した調査における金融知識に関する設問の回答結果をNISAの利用状況別にみていく(図表4)。

まず金融知識に関するクイズ設問の正答数から分類した[金融リテラシー]をみると、NISA意向者(図表内「未開設・意向あり」層)では金融リテラシー「中」(43.2%)、「高」(43.8%)が高く「低」(13.0%)が低くなっており、NISA意向者が金融リテラシーの比較的高いグループであることがわかる。

一方、[金融知識に関する自己評価]の項目をみると、「金融商品の専門用語を理解できる」(9.3%)、「金融商品や金融機関について、人からよく聞かれることがある」(11.3%)、「金融商品については、他人より詳しい方だ」(9.3%)がそれぞれ低く、金融リテラシーの高さに反して自己評価は低く留まっている状況がみられる。

つまり、先の「NISAに興味はあるが、口座開設していない理由」で突出して高い割合を占めた「投資の方法がよくわからない」の示す意味は、金融リテラシーの低さではなく自己評価の低さであることがわかる。
 
さらに、[知識・情報に対する態度]の項目をみると、NISA意向者では「貯蓄や投資、保険などの金融商品の仕組みや利用方法について、もっとよく知りたいと思う」(74.2%)、「金融機関からの商品やサービスに関する情報提供が不足していると思う」(52.1%)、「将来的な人生設計や老後の備えを含め、資金計画について専門家に相談してみたい」(55.7%)が高いなど、受動的ではあるが知識や情報の吸収に対する一定の前向きさが窺える。

しかし、NISA意向者で「資産運用についていろいろ知識を身につけるのはおっくうだ」(49.7%)が高いことや、「新聞・雑誌の記事や広告などで貯蓄や投資の情報を積極的に得る方である」(22.3%)がNISA利用者(図表内「NISA口座開設者」)のようには高くないことを考慮すると、知識や情報の吸収についても「意向はあるが、積極的に実行しない」という「躊躇」の姿勢が表れているように見える。

すなわち、金融知識に関する自己評価の低さは、自身の考える十分な知識の吸収をしていないこと(あるいはそれを自覚していること)に起因すると考えられる。
【図表4】金融知識に関する設問の回答結果

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月23日「基礎研レポート」)

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生活研究部   研究員

西久保 瑛浩 (にしくぼ あきひろ)

研究・専門分野
金融マーケティング、行動ファイナンス、金融リテラシー、行動経済学、消費者行動

経歴
  • 【経歴】
    2018年 日本証券業協会 入職
    2024年 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社

    【加入団体等】
    ・日本マーケティング・サイエンス学会

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