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男女別にみたシニア(50代後半~60代前半)の転職状況~厚生労働省「雇用動向調査」(2023年)より~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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次に、シニアの転職が多い産業について、厚生労働省の「雇用動向調査」に戻って分析する。まず「55~59歳 男性一般労働者」では「運輸業,郵便業」がトップで、母数が最大の「製造業」を抜いている。厚生労働省の「労働経済動向調査」によると、運輸業は、12産業の中でも建設業に次いで人手不足感が強く、シニアにとっても転職しやすいと考えられる。2位から4位までは、1-2でみたように、母数となる雇用者数が上位の産業である。
「55~59歳 女性一般労働者」のトップである「医療,福祉」は、雇用者数も1位であり、かつ専門性があって、同様に、人手不足感の強い産業でもある。2位の「卸売業,小売業」、3位の「宿泊業、飲食サービス業」も雇用者数が多く、人手不足感が強い。
「60~64歳 男性一般労働者」では上位3位が、「卸売業,小売業」、「製造業」、「建設業」と、概ね雇用者数が多い産業がランクインしている。「60~64歳 女性一般労働者」では、雇用者数で5位だった「宿泊業、飲食サービス業」がトップとなっており、人手不足の影響が大きいと考えられる。
4――賃金アップした人が多いシニアの転職先
次に、厚生労働省の「雇用動向調査」より、シニアの転職によって賃金が増加した人が多いかを、転職先区分ごとに分析する。まずは企業規模別にみたものが図表5である。
まず「55~59歳男性」を見ると、「一般労働者」から「一般労働者」への転職者13万7,000人のうち、賃金が「増加」した人は全体の21.3%、「減少」した人は35.2%で、減少した人の方が多い。もちろん賃金アップだけが、転職希望者が転職に求める要素ではないと思うが、多くのシニアにとって、金銭面では転職の課題が大きいということが分かる。
企業規模別に見ると、賃金が増加した人の割合は、「30~99人」や「5~29人」など、相対的に、小規模企業で大きい。上述したように、役職定年を機に、大企業で専門知識や専門スキルを持っていた人が、中小企業やベンチャー企業でより良い処遇で迎えられる、というパターンが一定数あると考えられる。
これとは違って、ユニークな動向を示しているのが、「55~59歳女性」である。「一般労働者」から「一般労働者」への転職者数は3万7,000人で、男性よりも10万人少ないが、賃金が増加した人の割合は4割近くに上り、減少した人の割合より10ポイント以上大きい。
企業規模別に見ると、男性と違って、「1,000人以上」の大企業が最も高い44%となっている。筆者の前稿「女性管理職転職市場の活発化~『働きやすさ』を求めて流動化し始めたハイキャリア女性たち~」(基礎研レポート)で説明したように、女性管理職比率の引き上げを、政策によって迫られている大企業が、部長級などに就いている50代後半女性に対して、前職よりも良い条件を提示して、管理職ポストに招いている可能性があるだろう。
「60~64歳男性」では、「一般労働者」から「一般労働者」への転職者は18万6,000人に上るが、賃金は約7割が「減少」している。この割合は、「1,000人以上」と「300~999人」企業に多く、定年後の再雇用で賃金ダウンするパターンが多いと考えられる。
「60~64歳女性」では、「一般労働者」から「一般労働者」への転職者は3万6,000人で、うち賃金が「増加」した人は2割弱にとどまる。転職者数自体は少ないものの、「300~999人」、「100~299人」、「5~29人」など、小規模の企業では賃金が増加した人は、3~4割に上っている。
最後に、同調査より、シニアの転職によって賃金が増加した人が多いかを産業別に分析したものが図表6である。まず「55~59歳男性」では、「増加」が2割を超えた産業は、「建設業」、「製造業」、「運輸業、郵便業」、「生活関連サービス業、娯楽業」(理美容やクリーニング業、スポーツ施設など)である。「55~59歳女性」は、産業別にすると、転職者数の値が小さくなるが、「運輸業、郵便業」、「宿泊業、飲食サービス業」、「生活関連サービス業、娯楽業」などで増加の割合が大きい。
「60~64歳男性」では、増加が2割を超えたのは「運輸業、郵便業」のみである。「60~64歳女性」では、「製造業」で増加が3割弱となった。
5――終わりに
しかし、職種で見ると、「管理的職業従事者」や「専門的・技術的職業従事者」に分類されるような、専門知識やスキル、高度な職務経験を持つシニア人材は、転職者数が多いことは確かである。また、一般的には「専門職」には分類されない「事務従事者」の転職者数も多い。同じ事務であっても、経営戦略や財務、広報など、実際には専門スキルや経験を必要とする職務もあり、これらの人材はシニアでも転職を果たしているとも考えられる。4-1で述べたように、特に中小企業やベンチャーでは、このような事務分野の専門スキルを持つ人材が不足しているとも考えられる。シニアが50代後半、そして60代以降の働き方を考えていく上で、「中小・ベンチー」は有力な選択肢になるのではないだろうか。
女性に関しては、そもそも中高年では非正規雇用が多いため、パートなどを除く一般労働者の転職者数は男性よりも少ないが、50代後半で転職を果たしている人の状況を見ると、賃金アップしている人の割合が4割近くに上り、賃金ダウンする割合よりも大きい点や、特に1,000人以上の大企業で最も賃金アップの割合が大きい点など、注目すべき動向が、本稿の分析で新たに判明した。当てはまる女性は一部ではあるが、繰り返し述べて来たように、部長級などのハイキャリア女性人材が、転職市場で、大企業を中心に奪い合いになっているという最新動向を示しているのではないだろうか。
(2025年03月17日「基礎研レポート」)

03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/31 | 男女別にみたミドル(40代後半~50代前半)の転職状況~厚生労働省「雇用動向調査」(2023年)より~ | 坊 美生子 | 基礎研レポート |
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