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- ECB政策理事会-利下げ決定、一方で今後の一時停止にも含み
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1.結果の概要:5会合連続利下げ
【金融政策決定内容】
・政策金利の引き下げを決定(預金ファシリティ金利で0.25%ポイントの引き下げ)
【記者会見での発言(趣旨)】
・見通しは実質成長率を25年0.9%、26年1.2%、27年1.3%と予想(下方修正)
(前回12月は25年1.1%、26年1.4%、27年1.3%)
・インフレ率を25年2.3%、26年1.9%、27年2.0%と予想(25年を上方修正)
(前回12月は25年2.1%、26年1.9%、27年2.1%)
・コアインフレ率を25年2.2%、26年2.0%、26年1.9%と予想
(前回12月は25年2.3%、26年1.9%、26年1.9%)
・金融政策は、実質的に(meaningfully)制限的ではなくなりつつある
・決定は全会一致(consensus)であり、反対意見はなかった(ホルツマン総裁は棄権した)
・特定の経路は確約せず、不確実性は高いためこれまで以上にデータに基づき会合毎に決定する
・防衛やインフラ支出の増加は成長率やインフレ率の押し上げ要因となり得る
2.金融政策の評価:利下げの一時停止にも含み
今回の会合では、スタッフによる見通しも同時に公表されている。最新の見通しでは成長率は下方修正、インフレ率は25年が上方修正された。成長率については、不確実性の増加が投資や輸出の重しなっており、25年のインフレ率はエネルギー価格の想定が上振れたことが主因と見られる。
また、声明文では、利下げが進んだことを受けて「金融政策は、実質的に(meaningfully)制限的ではなくなりつつある」との記載が追加された。また、リスク評価も大きく修正され、関税など貿易摩擦に関する不確実性や、理事会の直前に欧州委員会が公表した防衛支出拡大策並びにドイツが公表した防衛支出に関する債務ブレーキ緩和とインフラ投資のための基金設立といったニュースを受けて、財政支出に関する記載が追加された。
こうした状況を受けて、質疑応答では4月以降の利下げペースや、防衛・インフラ支出に関する質問が多く見られた。ラガルド総裁はこれまで以上に不確実性が増しており、利下げのペースについては、より一層、データに基づいて会合毎に決定すると強調した。また防衛・インフラ支出の影響は、実現すれば成長率やインフレ率の押し上げ要因になるとの理事会の見解を回答する一方で、公表されたばかりであり、現時点では定量的な評価ができる段階にはないことを示した。なお、財政拡大観測を受けて、すでに欧州の金利が急上昇して反応しているが、スプレッドへの影響は限定的であり、市場の反応を受けて政策姿勢を変更するつもりはないと回答している。
今回のスタッフ見通しについては、カットオフ時点(2月19日)時点で発効されたもののみ考慮されており、その後に課された関税や防衛・インフラ支出などは加味されていない。これらは、大きく見通しに影響を及ぼし、かつ不確実性の残る要因のため、ラガルド総裁が指摘するように、会合の都度、最新の状況を勘案した意思決定をせざるを得ない状況と言える。なお、現段階ではインフレ率については、エネルギー価格上振れ、財政支出の拡大という新しい上振れ要因がやや目立っているように思われる。
3.声明の概要(金融政策の方針)
- 理事会は、更新されたインフレ見通し、基調的なインフレ動向、金融政策の伝達の強さの評価に基づいて、本日、特に理事会が金融政策姿勢の操作に用いる預金ファシリティ金利など3つの主要政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した
- ディスインフレ過程は順調に進んでいる(on track)
- インフレ率は総じてスタッフが予想した通りに進展しており、また最新の見通しは前回の見通しにかなり一致している
- スタッフの総合インフレ率見通しは年平均で25年2.3%、26年1.9%、27年2.0%である
- 総合インフレ率の25年の上方修正は、エネルギー価格の強さを反映している
- エネルギー・飲食料を除くインフレ見通しは年平均で25年2.2%、26年2.0%、27年1.9%である
- 基調的なインフレ指標のほとんどが、インフレ率が理事会の中期的な2%目標前後に持続的に落ち着くことを示唆している
- 域内インフレ率は依然として高く、特定部門の賃金や物価が過去のインフレ高騰に対して遅れて調整を続けていることが主因である
- しかし、賃金上昇率は予想通り鈍化しており、利益は部分的にインフレ率への影響を緩和している
- 金融政策は、利下げが企業や家計に対する新規貸出費用を低下させ、貸出伸び率が上昇しており、実質的に(meaningfully)制限的ではなくなりつつある
- 同時に、資金調達環境の緩和に対する逆風は過去の利上げが依然として信用残高に波及していることから生じており、貸出は引き続き総じて抑制されている
- 経済は引き続き課題に直面しており、スタッフは成長率見通しを引き下げ、25年0.9%、26年1.2%、27年1.3%と予想する
- 25年と26年の下方修正は、一部には紡機政策の大きな不確実性やより広範な政策の不確実性から生じている輸出の低迷と投資の弱さを反映している
- 時間が経過するにつれて、引き続き実質所得の改善と過去の利上げの効果が段階的に解消されることが需要の増加を期待する鍵となるだろう
- 理事会は、確実にインフレ率を中期的な2%目標で持続的に安定させると決意している
- 特に不確実性が増加する現状において、理事会は適切な金融政策姿勢を決定するために引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチを行う(表現を追加)
- 特に金利の決定は経済・金融データに照らしたインフレ見通し、基調的インフレ率の動向、金融政策の伝達の強さへの評価に基づいて行う
- 理事会は、特定の金利経路を事前に確約しない
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 理事会は3つの主要政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した(金利の引き下げを決定)
- 預金ファシリティ金利:2.50%
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:2.65%
- 限界貸出ファシリティ金利:2.90%
- 25年3月12日から実施
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの元本償還分の再投資(内容の変更なし)
- APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
(資金供給オペ)
- (流動性供給策の監視は貸出条件付長期資金供給オペの返済が完了したため記載を削除)
(その他)
- 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
- インフレが2%の中期目標で持続的に安定し、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
- 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
4.記者会見の概要
(冒頭説明)
- (声明文冒頭に記載の政策姿勢への言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- ユーロ圏経済は24年10-12月期に緩やかに成長した
- 25年の初めの2か月では昨年のパターンが継続している
- 製造業は、サーベイ指標は改善しているにもかかわらず依然として成長の足を引っ張っている
- 域内および域外の双方の高い不確実性が投資を手控えさせ、競争力の課題が輸出の重しになっている
- 同時にサービス業は強靭である
- 加えて、消費者信頼感は依然として弱く、貯蓄率は高いものの家計所得の増加と強固な労働市場が段階的な消費の上昇を支えている
- 失業率は1月に歴史的な最低水準の6.2%にとどまり、雇用者数は24年10-12月期に0.1%上昇したと推計される
- しかしながら、労働需要は穏健で、最新のサーベイデータは25年の最初の2か月の雇用伸び率が停滞したことを示唆している
- 不確実性が増加しており、依然に予想されていたよりも投資や輸出の重しなると見られる
- しかしながら、高い所得と低い調達コストが成長を支えるだろう
- スタッフ見通しによれば、貿易の緊張がさらに深刻化しない限り、輸出も世界需要の上昇を支える
- 財政政策、構造政策は我々の経済をより生産的、競争的、強靭化させるよう実施されるべきである
- 欧州委員会の競争力コンパスは具体的な行動計画を提示しており、その提案は迅速に実施されるべきである
- 政府はEUの経済統治枠組み(economic governance framework)に沿って持続可能な政府調達を強固にし、必要不可欠な成長を促進させる構造改革と戦略投資を優先すべきである
(インフレ)
- ユーロスタットの速報値によれば、インフレ率は12月の2.4%、1月の2.5%の後、2月は2.4%となった
- エネルギーインフレは、12月の0.1%と1月の1.9%の急上昇の後、0.2%に減速した
- 対照的に飲食料インフレは12月の2.6%、1月の2.3%から2.7%に上昇した
- 財インフレは0.6%に上昇する一方、サービスインフレは12月の4.0%、1月の3.9%から3.7%に緩和した
- 多くの基調的なインフレ指標は我々の2%の中期目標への持続的な回帰を示している
- 域内インフレは、サービスインフレと近い動きをしており、1月に下落した
- しかしながら、賃金や一部のサービス物価は過去のインフレ高騰に対して大幅に遅れて依然として調整を続けているため、引き続き高止まりしている
- 同時に最近の賃金交渉は人件費圧力の緩和が継続していることを示している
- エネルギー価格が上振れるという仮定により、25年のスタッフ見通しの総合インフレ率は上昇修正された
- 同時にスタッフは、人件費圧力のさらなる緩和と過去の金融引き締めが引き続き物価の重しとなるため、コアインフレ率は鈍化を続けると見ている
- 多くの長期のインフレ期待は2%付近で推移している
- これらの要因すべてがインフレ率の目標への持続的な回帰を支えるだろう
(2025年03月07日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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