コラム
2025年02月27日

温室効果ガスの削減目標であるSBTとその目標設定について~温室効果ガス削減イニシアティブSBTi~

総合政策研究部 研究員 土居 優

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図表5 短期目標におけるScopeごとの要件 2|Scope1、2について
Scope1、2については1.5℃水準で削減することが求められる(図表5)。手法は、目標設定と進捗管理の把握が容易なACAを優先して採用し、電力、建築、セメントなどの排出量が多いセクターについては、部門別脱炭素アプローチ(以下SDA)16を用いて削減を行う必要がある。

また、Scope2については再生可能エネルギー由来の電力を購入することで代替することもできる。
 
16 部門別脱炭素アプローチSDA(Sectoral Decarbonization Approach)とはセクター別の削減経路に沿った原単位削減を用いた方法。
3|Scope3について
Scope3についてはWB2℃水準または1.5℃水準で削減することが求められる(図表5)。Scope3がScope1~3の 合計の40%を超えない場合は、目標設定は求められない。一方で、Scope3がScope1~3の 合計の40%を超える場合は、目標設定が必要17となり、Scope3排出量全体の2/3(67%)以上をカバーすることが求められている。Scope3排出量全体の100%ではなく2/3(67%)以上とするのは、Scope3が企業の管理範囲を超える排出源であるため、全体の把握が困難であるということを考慮した措置であると考えられる。具体的にはGHGプロトコルの企業バリューチェーン算定報告基準に基づき、Scope3の15カテゴリー(図表3)それぞれで設定される最小バウンダリ18を対象に、それらの合計値が2/3(67%)以上になるよう目標範囲を設定する。

また、Scope3ではACAやSDAのほかに、前年対比で7%の削減を目指す経済的原単位削減19や物理的原単位削減20、その他にサプライヤーや顧客に対し、気候科学に基づく目標設定を求めるサプライヤー/顧客エンゲージメント目標21も認められており、これらのいずれか、もしくは併用して目標設定する必要がある(図表5)。
 
17 化石燃料の販売や流通に関連する場合は、Scope3の排出比率に関わらず販売した製品由来のScope3の目標設定が必要になる。
18 最小バウンダリは「Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard」Table [5.4]  Description and boundaries of scope 3 categoriesで分類されるMinimum boundaryのこと。
19 経済的原単位削減は付加価値あたりの排出量を前年比で少なくとも7%削減すること。
20 物理的原単位削減は部門別脱炭素アプローチ(SDA)の関連する部門削減経路に沿った原単位削減。もしくは、総排出量の増加につながらず、物量あたりの排出量の前年比で少なくとも7%削減すること。
21 サプライヤー/顧客エンゲージメント目標はサプライヤーまたは顧客に気候科学に基づく削減目標の設定を勧める目標。

5――中小企業向け削減目標について

図表6 中小企業向けSBTの対象要件 大企業とは異なり、リソースが限られる中小企業がSBTに参加することは、多くの困難が伴う。目標設定には専門的な知見が必要であり、Scope1~3の排出量を自社単独で算定・報告するのは非常に難しい。
図表7 中小企業向けSBTのと通常SBTの違い そのため、SBTiでは一定の要件(図表6)に適した中小企業に対して、中小企業向けSBTを導入している。中小企業向けSBTは排出対象範囲をScope1、2に限定していること、認定費用が安いこと、認定までの手続きが簡略化されているなどの中小企業にとってメリットがある(図表7)。SBTへの参加をためらう中小企業にとって、最も算出が困難とされるScope3が対象外であることは、大きな優遇措置と言える。

6――おわりに

カーボンニュートラルの実現に向けて、GHG排出量の削減は国際社会全体の課題であり、その中心的な役割を担うのは企業である。SBTはScope1~3までの削減を求めており、認定を受けるには短期目標の設定が必須である。

しかし、Scope3の排出削減は、排出源がサプライチェーン全体に広がるため、管理や把握が難しいという課題がある。このため、Scope3については条件が緩和され、柔軟な目標設定が可能となっている。また、中小企業向けSBTの制度でも、Scope3が対象外となっており、中小企業でも取り組みやすい仕組みが用意されている。

SBTを通じた削減目標の設定により、国際社会と歩調を合わせたGHG排出量の削減が可能になる。2050年のカーボンニュートラル実現という国際的な目標に向け、SBTへの参加が一層広がり、持続可能な社会の実現に向けた動きが加速することを期待したい。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年02月27日「研究員の眼」)

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総合政策研究部   研究員

土居 優 (どい すぐる)

研究・専門分野
日本経済、サステナビリティ

経歴
  • 【職歴】
     2016年 日本生命保険相互会社入社
         (資産運用部門にて資金繰り、クレジット審査、ベンチャー投資業務に従事)
     2024年 ニッセイ基礎研究所へ

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