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- AI事業者ガイドライン-総務省・経済産業省のガイドライン
2024年12月03日
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1――はじめに
2024年4月19日に総務省と経済産業省は「AI事業者ガイドライン(第1.0版)(以下、ガイドライン)」1を公表した。ガイドラインは、AIの安全安心な活用が促進されるよう、我が国におけるAIガバナンスの統一的な指針として策定された。またガイドラインの内容を詳述する別添が策定・公表されている2。
経緯としては、これまで総務省の「国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案」「AI利活用ガイドライン」及び経済産業省の「AI原則実践のためのガバナンス」が策定・公表されてきた。これら3つのガイドラインを現状に照らして統合・見直しし、昨今のAI技術の発展、またAIの社会的実装に関する議論を反映し非拘束的なソフトロー3として、今回のガイドラインとして取りまとめられた。
ガイドラインとして取りまとめられた意義としては、「AIの利用は、その分野とその利用形態によっては社会に大きなリスクを生じさせ、そのリスクに伴う社会的な軋轢により、AIの利活用自体が阻害される可能性がある4」ためである。このようなリスクを特定・把握し、対処することでAIの進展を阻害しないためにもガイドラインが必要となる。
本稿ではガイドラインを簡単に紹介し、一定の評価をすることを目的とする。その際、EUにおけるAI規則(以下、EU規則という)を参考にする。
なお、ガイドラインおよびEU規則の規定は多岐にわたるので、本文で重要な部分には下線を引いている。
1 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20240419_1.pdf
2 別添 https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240419004/20240419004-2.pdf
3 法律のような要件・効果のはっきりしているルールをハードローと言い、自主的に遵守する類のルールをソフトローという。
4 前掲注1 p3参照
2024年4月19日に総務省と経済産業省は「AI事業者ガイドライン(第1.0版)(以下、ガイドライン)」1を公表した。ガイドラインは、AIの安全安心な活用が促進されるよう、我が国におけるAIガバナンスの統一的な指針として策定された。またガイドラインの内容を詳述する別添が策定・公表されている2。
経緯としては、これまで総務省の「国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案」「AI利活用ガイドライン」及び経済産業省の「AI原則実践のためのガバナンス」が策定・公表されてきた。これら3つのガイドラインを現状に照らして統合・見直しし、昨今のAI技術の発展、またAIの社会的実装に関する議論を反映し非拘束的なソフトロー3として、今回のガイドラインとして取りまとめられた。
ガイドラインとして取りまとめられた意義としては、「AIの利用は、その分野とその利用形態によっては社会に大きなリスクを生じさせ、そのリスクに伴う社会的な軋轢により、AIの利活用自体が阻害される可能性がある4」ためである。このようなリスクを特定・把握し、対処することでAIの進展を阻害しないためにもガイドラインが必要となる。
本稿ではガイドラインを簡単に紹介し、一定の評価をすることを目的とする。その際、EUにおけるAI規則(以下、EU規則という)を参考にする。
なお、ガイドラインおよびEU規則の規定は多岐にわたるので、本文で重要な部分には下線を引いている。
1 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20240419_1.pdf
2 別添 https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240419004/20240419004-2.pdf
3 法律のような要件・効果のはっきりしているルールをハードローと言い、自主的に遵守する類のルールをソフトローという。
4 前掲注1 p3参照
2――AIシステムの構造
1|AIシステムの構造
ガイドラインが定義するAIシステムは一読してもわかりにくい。ガイドラインによると、「『AIシステム(以下に定義)』自体または機械学習をするソフトウェア若しくはプログラムを含む抽象的な概念」とする。そしてガイドラインが定義する「AIシステム」とは「活用の過程を通じて様々な自立性をもって動作し学習する機能を有するソフトウェアを要素として含むシステム」としている。また、AIシステムは「明示的又は暗黙的な目的のために推測するマシンベースのシステム」であり、「受け取った入力から物理環境又は仮想環境に影響を与える可能性のある予測、コンテンツ、推奨、意思決定等の出力を生成する5」ものである。ガイドラインの定義を図にすると図表1のようなものである。簡略化していえば、AIシステムとは、(1)自律性をもって動作・学習し、(2)特定の目的のために推測し、(3)現実等に影響を及ぼす出力を生成するものである。
1|AIシステムの構造
ガイドラインが定義するAIシステムは一読してもわかりにくい。ガイドラインによると、「『AIシステム(以下に定義)』自体または機械学習をするソフトウェア若しくはプログラムを含む抽象的な概念」とする。そしてガイドラインが定義する「AIシステム」とは「活用の過程を通じて様々な自立性をもって動作し学習する機能を有するソフトウェアを要素として含むシステム」としている。また、AIシステムは「明示的又は暗黙的な目的のために推測するマシンベースのシステム」であり、「受け取った入力から物理環境又は仮想環境に影響を与える可能性のある予測、コンテンツ、推奨、意思決定等の出力を生成する5」ものである。ガイドラインの定義を図にすると図表1のようなものである。簡略化していえば、AIシステムとは、(1)自律性をもって動作・学習し、(2)特定の目的のために推測し、(3)現実等に影響を及ぼす出力を生成するものである。
ここで図表中央にあるAIモデルは「AIシステムに含まれ、学習データを用いた機械学習によって得られるモデルで、入力データに応じた予測結果を生成する6」ものとされている。例示的に言えば、AI利用者がインプットしたデータ(たとえば内臓の画像データ)から想定される出力結果(たとえば特定の病状)を推測するようなものを指す。出力結果を出すためにAIモデルには多量のデータセット(=一定の目的のために一定のフォーマットで作成されたデータ群)が学習のため読み込ませてある。
これは機械学習というもので、コンピューターに大量のデータセットを読み込ませ、データ内に存在するパターンを学習させることで、新規のデータの性質等を判断するためのルールを獲得することを可能にする技術である。さらに、機械学習の一種にディープラーニングがある。これは人間が物(たとえば犬と猫)を判断する際に見分ける鍵となる特徴量(たとえば耳の形状や鼻の形状)をAIモデルに与えなくとも、AI自体が自動的に特徴量を獲得する技術である。この技術はヒトの脳の仕組みをベースに開発されたものである。最近の機械学習はディープラーニングを利用している。
ちなみにEU規則ではAIシステムのことを「AIシステムとは、さまざまなレベルで自律的に動作するように設計され、配備後に新たな状況に適応することができる機械ベースのシステムであって、かつ、明示的または暗黙的な目的のために、予測、コンテンツ、推奨、または決定(これらは物理的または仮想的な環境に影響を与える)などの出力をどのように生成するかを、受け取った入力から推論するもの」と定義している(3条1項)。EU規則の定義とガイドラインの定義の相違の有無やポイントを明確に示すことは難しいが、ポイントとして、EU規則では「推論する機械ベースのシステム」がAIシステムであるとする一方で、ガイドラインでも「明示的又は暗黙的な目的のために推測するマシンベースのシステム」とするので、大きな相違はないものと考えられる。
5 前掲注1 p8参照。
6 同上
これは機械学習というもので、コンピューターに大量のデータセットを読み込ませ、データ内に存在するパターンを学習させることで、新規のデータの性質等を判断するためのルールを獲得することを可能にする技術である。さらに、機械学習の一種にディープラーニングがある。これは人間が物(たとえば犬と猫)を判断する際に見分ける鍵となる特徴量(たとえば耳の形状や鼻の形状)をAIモデルに与えなくとも、AI自体が自動的に特徴量を獲得する技術である。この技術はヒトの脳の仕組みをベースに開発されたものである。最近の機械学習はディープラーニングを利用している。
ちなみにEU規則ではAIシステムのことを「AIシステムとは、さまざまなレベルで自律的に動作するように設計され、配備後に新たな状況に適応することができる機械ベースのシステムであって、かつ、明示的または暗黙的な目的のために、予測、コンテンツ、推奨、または決定(これらは物理的または仮想的な環境に影響を与える)などの出力をどのように生成するかを、受け取った入力から推論するもの」と定義している(3条1項)。EU規則の定義とガイドラインの定義の相違の有無やポイントを明確に示すことは難しいが、ポイントとして、EU規則では「推論する機械ベースのシステム」がAIシステムであるとする一方で、ガイドラインでも「明示的又は暗黙的な目的のために推測するマシンベースのシステム」とするので、大きな相違はないものと考えられる。
5 前掲注1 p8参照。
6 同上
EU規則では、AI開発者という用語の定義はなく、開発(他社に委託して作成する場合を含む)し、市場投入および/または運営する者を提供者(provider)と呼び、自社が事業目的で利用する者を配備者(deployer)と呼ぶこととしている。EU規則では、禁止されるAIの行為や高リスクAIシステムにかかわる規定などに加え、提供者と配備者の義務を中心に規定されている。
ガイドラインは各主体全体の責務を規定するとともに、AI開発者、AI提供者、AI利用者別の事項として、各主体の役割を規定している。AIシステムに関係する各主体別に責務を規定するという点では、構造的にEU規則とガイドラインで大きな相違はない。
ガイドラインは各主体全体の責務を規定するとともに、AI開発者、AI提供者、AI利用者別の事項として、各主体の役割を規定している。AIシステムに関係する各主体別に責務を規定するという点では、構造的にEU規則とガイドラインで大きな相違はない。
EU規則の目的は「域内市場の機能を向上させ、人間中心の信頼できる人工知能(AI)の導入を促進することである。同時に、域内におけるAIシステムの有害な影響に対して、健康、安全、民主主義、法の支配、環境保護など、憲章に謳われている基本的権利の高水準の保護を確保し、イノベーションを支援することである」(1条)とされている。要するにEU規則が目指すのは基本的人権の尊重とイノベーションの支援である。
EU規則1条を見ると、(1)~(3)は含んでいるように思われる。ただ、ガイドラインでは権利の保護を超えて「多様な幸せを追求できる社会」といった権利を積極的に追及していくということが理念として目指されている点に特徴がある。
なお、EU規則に目的として掲げられているイノベーションの支援はガイドラインにおいて基本理念には含まれていないが、次項の「原則」に含まれている。これは内容が異なるというよりも、整理の仕方が異なっているだけで大きな相違ではないだろう。
7 前掲注1 p10参照
EU規則1条を見ると、(1)~(3)は含んでいるように思われる。ただ、ガイドラインでは権利の保護を超えて「多様な幸せを追求できる社会」といった権利を積極的に追及していくということが理念として目指されている点に特徴がある。
なお、EU規則に目的として掲げられているイノベーションの支援はガイドラインにおいて基本理念には含まれていないが、次項の「原則」に含まれている。これは内容が異なるというよりも、整理の仕方が異なっているだけで大きな相違ではないだろう。
7 前掲注1 p10参照
ここで挙げられている原則に関しては、EU規則の各条文にも規定されていることから、EU規則とガイドラインとで大きな相違はないと考えられる(次の「4-共通の指針)を参照)。
ただし、ここで留意しておくべき点として、EU規則の各条文は、AIシステム一般ではなく、規則上、高リスクAIシステム9に分類されているものに対して、適用されるものがほとんどであることである。この点、ガイドラインではこのような区分をせず、一般にAIシステムの適用される原則・指針を網羅的に規定したうえで、高度なAIシステムに関係する事業者に共通の指針を別途定めている(後述)という形式をとっている。
8 同上 p11参照
9 EU規則では人の権利や安全にリスクをもたらすAIシステムなど一定のAIシステムを高リスクAIシステムとしてカテゴリー化している(6条4項、49条)。
ただし、ここで留意しておくべき点として、EU規則の各条文は、AIシステム一般ではなく、規則上、高リスクAIシステム9に分類されているものに対して、適用されるものがほとんどであることである。この点、ガイドラインではこのような区分をせず、一般にAIシステムの適用される原則・指針を網羅的に規定したうえで、高度なAIシステムに関係する事業者に共通の指針を別途定めている(後述)という形式をとっている。
8 同上 p11参照
9 EU規則では人の権利や安全にリスクをもたらすAIシステムなど一定のAIシステムを高リスクAIシステムとしてカテゴリー化している(6条4項、49条)。
(2024年12月03日「基礎研レポート」)

03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
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