2024年09月24日

あの“同期”はなぜ飲み会に参加しないのか-Z世代のアルコールに対するスタンスについて考える

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

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5――飲酒も、飲酒が伴う場に行くことも「選択」の時代へ

飲酒することが強要されることなく自身で選択することができるからこそ、酒が提供されるような場所に足を運ぶというコト自体も強要ではなく「選択」対象としてのフェーズに移行しているのかもしれない。確かに上司や同僚は毎日顔を合わせる仲間であることには違いないが、同じ目的をもってたまたま集まった集団に過ぎず、自身で選んだ人間関係ではない。親密な仲間内でですら酒を飲むことが必然でないのならば、会社という組織に対するプライオリティが低下していると言われている中で、そこで生まれる上司や同僚という淡白な人間関係のために飲酒をせざるを得ないという「選択」をしなくてはいけない事自体が苦痛になるだろう。

筆者が出版した『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか』においては、上司視点で彼らが飲み会に参加しない理由を考察したが、SHIBUYA109 lab.が行った別の調査である「Z世代の仕事に関する意識調査」13においては、上司を含めた会社の飲み会は好きかどうかについて「好き」が33.4%、「苦手」が66.7%となる一方で、同期や同世代の同僚との会社の飲み会が好きかについては「好き」が50.8%、「苦手」が49.1%と、上司ほどは嫌ではないが、半数近くが同期や同僚と飲む事に対して前向きではないことがわかる。
図11 仕事に関する価値観で当てはまるものを教えてください (m=411 男性:212, 女性:199)
これを読んでいるZ世代の読者の中にも、同期から飲み会や仕事の後一緒に出掛けることを断られたという経験がある人もいるかもしれない。同世代だからといって、そこまで親しくない相手と仕事の後に会ったり、酒の場で話すというコト自体のハードルは下がるわけではない。同世代同士ですらそうならば、会社の飲み会や上司の誘いなら益々うれしいモノではないだろう。個人のプライオリティが優先され、時間を無駄にしたくないと考える生活者が一定数いるからこそ、彼らとコミュニケーションをとるには、十分な配慮をする必要があり、彼らの選択を尊重してあげることが重要なのである。実際に前述した株式会社R&Gの調査では、行きたくなる飲み会の要素として「費用負担が少ない」や「短時間・一次会のみの開催」が上位に挙がっている。

「会社の飲み会で会費徴収されたけど、こっちがその分時給欲しいくらいだ」といった投稿がSNSで散見される。奢ってやるから相手はうれしいはず、という認識を捨て、相手はこの飲み会のためにプライベートの時間を割いている、別に会社での人間関係に親密性を求めていない、と認識することで、飲みニケーションの形も変化していくだろう14。併せて、全ての若者がお酒を飲まないわけではなく、飲酒を好む若者がいることも留意したい。また、会社での飲み会が好きな若者もいるだろう。本レポートの内容はあくまでも傾向であり、自身や自身の身の回りにいる若者には当てはまらない事もあるだろう。ただ、相手の人となりがわかるまで飲酒の場に誘ったり、酒を勧めるといった事を配慮することも、飲酒に対する多様性が追求される現代社会において大事なコミュニケーション手法なのかもしれない。皆が皆自分と同じように酒や飲み会が好きという訳ではない、と念頭に置くことでより良い人間関係(煙たがられない)構築につながるのではないかと思う次第だ15
 
13 SHIBUYA109 lab. 「Z世代の仕事に関する意識調査」2023/02/22 https://shibuya109lab.jp/article/230222.html
14 チャミスルやクライナーのブーム、ガールズバーやホストの需要、ナイトクラブに通う若者など、全ての若者がお酒を飲まないわけではなく、飲酒を好む若者がいるのも確かだ。ただ、本稿で論じた通り、お酒自体が特別な気分をアゲるためのツールになっていたり、ガールズバーやホストに通うのは酒の為ではなくそこにいるキャストと交流するためだろうし、ナイトクラブも、出会いやその場の雰囲気、承認欲求の充足など酒以外のことを求めて消費しに行った結果酒が伴った、というケースも多いのではと思う次第だ。どちらにせよ「酒」をフックに消費やコミュニケーションがとられているというコトに変わりはないが・・・。その中で酒を代替するように雰囲気づくりや気分をアゲるという動機の下「エナジードリンク」の需要が生まれているのは注目すべき点であると考える。
15 筆者は本レポートを通して会社での飲み会を否定したかったわけではない。飲みニケーションの楽しさなど理解しているつもりではあるが、だからこそ、その文化が否定されないためにも、それが好きな側が嫌いな側に強要したり、断れない雰囲気を生むべきではないと考えるのだ。また、上司との飲み会や会社での飲み会を断ることが自由なのであれば、参加すること自体も自由であり、それに参加したことによって贔屓が生まれたり、仕事のノウハウなどが教えられる場となってもそれはそれで仕方のないことであると思う。どちらにせよ、自身のプライオリティを優先して参加しないという「選択」をとっても、円滑なコミュニケーションを行うために会社の飲み会に参加することを「選択」しても、どちらを選択してもよい、というその選択自体は尊重されるべきだと思う。就業時間内でのパフォーマンスだけで評価されることがフェアではあるが上司も人間だから自分の親密圏にいる部下に対して思い入りが生まれてもしょうがないと思う。

(2024年09月24日「基礎研レポート」)

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生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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