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コラム
        2024年08月28日
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                                                                        中国では協議離婚をする際に「クーリングオフ期間(中国語では「冷静期」)」を設けている。離婚申請後30日間、冷静に考える期間を設ける、というものである。このクーリングオフ期間は2020年の民法の改正で盛り込まれ、2021年から施行されている。
具体的には、(1)婚姻登録機関に離婚登録の申請を行う、(2)申請をしてから30日以内に、一方が離婚を希望しないと判断した場合、申請の撤回を申請することができる、としている。また、(3)前掲(2)の30日満了後さらに30日以内に双方が揃って婚姻登録機関に赴き、離婚証の発行を申請しなければならず、申請しない場合は離婚登録の申請を撤回したものとする、となっている。つまり、協議離婚の登録を申請しただけでは離婚は成立しないことになっている。
 
この度、婚姻登記条例の改正案(パブリックコメント案)が発表され、そこにこのクーリングオフ期間の内容が盛り込まれることになった。ネット上では2020年の民法改正の時と同様、この制度への議論や関心が再燃している。パブコメ案の注目点としては、民法で定めた上掲の(2)の「申請をしてから30日以内に、一方が離婚を希望しないと判断した場合、申請の撤回を申請することができる」に加えて、一方が離婚の申請撤回を申請した場合、婚姻登録機関は「離婚登録の手続きを終了しなければならない」と新たに規定した点にある(パブコメ案第16条)。政府は今回の改正について、一時の感情による離婚(中国語で「冲動離婚」)、軽はずみの離婚(中国語で「草率離婚」)、スピード離婚(閃離)など1の防止を更に徹底し、広めていきたいとしている。
 
一方、ネット上の反応は冷ややかだ。「離婚は通常熟慮して決定する。特に協議離婚についてはそうで、クーリングオフ期間は不要。それよりも結婚はその時の勢いでするケースもあるため、むしろ結婚にクーリングオフ期間を設けた方がよい」、「離婚のクーリングオフ期間の適用者を詳細に規定するべきだ。例えば、家庭内暴力や家族による賭け事などの被害者の場合などは特別に救済すべきだ。被害者の離婚の自由を保護すべき」といった意見や、「中国で出生率が下がっているのは、教育費の高騰と若年層の婚姻制度への不信感が主な理由だ」、「今回の改正案で結婚の要件は緩和し、離婚を厳しくしている。こういうことをするから結婚したいと思う人が減る」、「クーリングオフ期間の設定と離婚の自由はコンフリクトにある」など様々な意見が上がっている2。
 
主務官庁である民政部はこれに対して、離婚のクーリングオフ期間をこれまで3年ほど実施する中で、一時の感情による離婚、軽はずみの離婚などの減少に効果が出てきているとしていると反論している。また、クーリングオフ期間を設けているのは協議離婚のみであるため、家族の安全など問題がある場合は、訴訟による離婚といった手段もある点を指摘し、この点からクーリングオフ期間の設定は離婚の自由を阻害していないとした。
当局のいう離婚のクーリングオフ期間の効果について考えてみると、実際、2021年及び2022年は離婚件数が減少し、離婚率も低下している(図表1)。しかし、その効果の多くがクーリングオフ期間の設定によるものかについては疑問が残る。その理由は2021年、2022年は、新型コロナウイルス禍によって多くの行政サービスの受付が停止または縮小しているからだ。今後、婚姻登記条例がどのように改正されるのか、その実施によって離婚を取り巻く環境がどう変わるのかについて注視していく必要がある。
            具体的には、(1)婚姻登録機関に離婚登録の申請を行う、(2)申請をしてから30日以内に、一方が離婚を希望しないと判断した場合、申請の撤回を申請することができる、としている。また、(3)前掲(2)の30日満了後さらに30日以内に双方が揃って婚姻登録機関に赴き、離婚証の発行を申請しなければならず、申請しない場合は離婚登録の申請を撤回したものとする、となっている。つまり、協議離婚の登録を申請しただけでは離婚は成立しないことになっている。
この度、婚姻登記条例の改正案(パブリックコメント案)が発表され、そこにこのクーリングオフ期間の内容が盛り込まれることになった。ネット上では2020年の民法改正の時と同様、この制度への議論や関心が再燃している。パブコメ案の注目点としては、民法で定めた上掲の(2)の「申請をしてから30日以内に、一方が離婚を希望しないと判断した場合、申請の撤回を申請することができる」に加えて、一方が離婚の申請撤回を申請した場合、婚姻登録機関は「離婚登録の手続きを終了しなければならない」と新たに規定した点にある(パブコメ案第16条)。政府は今回の改正について、一時の感情による離婚(中国語で「冲動離婚」)、軽はずみの離婚(中国語で「草率離婚」)、スピード離婚(閃離)など1の防止を更に徹底し、広めていきたいとしている。
一方、ネット上の反応は冷ややかだ。「離婚は通常熟慮して決定する。特に協議離婚についてはそうで、クーリングオフ期間は不要。それよりも結婚はその時の勢いでするケースもあるため、むしろ結婚にクーリングオフ期間を設けた方がよい」、「離婚のクーリングオフ期間の適用者を詳細に規定するべきだ。例えば、家庭内暴力や家族による賭け事などの被害者の場合などは特別に救済すべきだ。被害者の離婚の自由を保護すべき」といった意見や、「中国で出生率が下がっているのは、教育費の高騰と若年層の婚姻制度への不信感が主な理由だ」、「今回の改正案で結婚の要件は緩和し、離婚を厳しくしている。こういうことをするから結婚したいと思う人が減る」、「クーリングオフ期間の設定と離婚の自由はコンフリクトにある」など様々な意見が上がっている2。
主務官庁である民政部はこれに対して、離婚のクーリングオフ期間をこれまで3年ほど実施する中で、一時の感情による離婚、軽はずみの離婚などの減少に効果が出てきているとしていると反論している。また、クーリングオフ期間を設けているのは協議離婚のみであるため、家族の安全など問題がある場合は、訴訟による離婚といった手段もある点を指摘し、この点からクーリングオフ期間の設定は離婚の自由を阻害していないとした。
当局のいう離婚のクーリングオフ期間の効果について考えてみると、実際、2021年及び2022年は離婚件数が減少し、離婚率も低下している(図表1)。しかし、その効果の多くがクーリングオフ期間の設定によるものかについては疑問が残る。その理由は2021年、2022年は、新型コロナウイルス禍によって多くの行政サービスの受付が停止または縮小しているからだ。今後、婚姻登記条例がどのように改正されるのか、その実施によって離婚を取り巻く環境がどう変わるのかについて注視していく必要がある。
1 宇田川幸則「中国民法典における離婚冷静期に関する一考察」(法政論集289号(2021))によると、「2003年の婚姻登記条例施行後は当事者が自らの意思で登記離婚申請を行い、形式的要件が整ってさえいれば登記手続が行われ、しかもその場で離婚証が発行され、登記離婚が成立する、という流れに変化した」と離婚の手続きが2003年以降、簡素化した点を指摘している。それ以前は離婚には行政機関の審査が行われていた。
2 加拿大新聞「中国離婚冷静期新規引発激辯:為何結婚容易離婚難?」2024年8月18日
(2024年08月28日「研究員の眼」)
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経歴
                            - 【職歴】
 2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
 (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了、博士(学術)) 【社外委員等】
 ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
 (2019~2020年度・2023年度~)
 ・金融庁 中国金融研究会委員(2024年度~)
 ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
 ・千葉大学客員教授(2024年度~)
 ・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
 日本保険学会、社会政策学会、他
片山 ゆきのレポート
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