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現役世代の実質賃金下落が年金額の目減りに影響し続ける可能性-2024年度の年金額と2025年度以降の見通し (4)

保険研究部 主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任 中嶋 邦夫
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1 ―― 本稿の問題意識:2025年度以降の年金額改定を展望する
1 例年は6月15日だが、今年は6月15日が土曜日のため6月14日になっている。
2 拙稿「年金額改定の本来の意義は実質的な価値の維持:2024年度の年金額と2025年度以降の見通し(1)」、
「将来世代の給付低下を抑えるため少子化や長寿化に合わせて調整:2024年度の年金額と2025年度以降の見通し(2)」
賃金変動率は、年金額改定に用いられる賃金が年金保険料や年金額の計算に使う標準報酬であることに加え、性別や年齢構成等の変化の影響を除去して上昇率が計算されるため、正確な把握が難しい。標準報酬の構成要素の大部分を占める標準報酬月額は、通常は4~6月の給与をもとに9月に定時改定されるが、大幅な給与の変化が3か月続けば4か月目から随時改定される。現時点で把握可能な標準報酬月額(共済以外)の動向を見ると(図表2の中央)、例年は定時改定が反映される9月に大きな変化が見られるが、2023年度は7月から緩やかに上昇率が拡大する傾向になっている。
また、2022年10月に厚生年金の適用拡大が行われ、短時間労働者に関する厚生年金の企業規模の要件が社員501人以上から101人以上へと拡大され、士業の個人事業所も新たに対象となった。ただし、年金額の改定に使われる賃金変動率の計算では、適用拡大の影響は補正される。これを考慮して短時間労働者を除いた上昇率を見ると(図表2の中央の点線)、2023年10月以降は+1.7%程度で推移している5。2024年1月以降の前年同月比も2023年12月と同じだと仮定すると、2022年度平均は+1.5%となる。また、標準報酬のもう1つの構成要素である標準賞与(共済以外・短時間労働者以外)の上昇率は、対象者数が多い月を見ると、6・7月の平均が+2.0%、12月が+0.7%となっている(図表なし)。
賃金変動率を見込むためには、前述した標準報酬月額(共済以外)と標準賞与(共済以外)以外に、共済年金分の標準報酬月額と標準賞与や、性・年齢構成等の変化の影響の除去も考慮する必要があるが、これらは現時点の公表資料では把握できない。そこで、前述した共済以外の標準報酬月額と標準賞与から、2023年度の標準報酬(月額の12か月分と賞与の合計)の変動率を+1.7%と仮定する6。この値は名目の変動率であるため、これを2023年(暦年)の物価上昇率+3.2%で実質化した-1.5%を、2023年度の実質標準報酬の変動率と仮定する7。名目の賃金変動率は+1.7%のプラスだが、大幅な物価上昇率(+3.2%)には及ばないため、実質賃金変動率としてはマイナスになる。
公的年金の加入者(共済以外)の動向を見ると(図表2の右)、2023年の4~9月は2022年10月に実施された厚生年金の適用拡大の影響で+3%程度で推移したが、10月以降は増加率の分母となる前年の値に適用拡大が反映されるため、±0%程度で推移している。2024年1月以降の前年同月比も2023年12月と同じだと仮定すると、2023年度平均では±0.2%となる。共済年金の状況は把握できないため、共済以外の動向から、2023年度の公的年金加入者数の変動率を±0.2%と仮定する。
3 斎藤太郎(2024)「2024・2025年度経済見通し-24年1-3月期GDP2次速報後改定」『Weeklyエコノミスト・レター』2024-06-10.
4 なお、2024年4月に決定された公的年金の将来見通し(財政検証)に用いる経済前提でも、2024年(暦年)の物価上昇率を+2.6%と仮定している。
5 実際の改定率では適用拡大の影響(短時間労働者では社員101~500人の企業)のみが補正されるが、公開されている資料では詳細が不明なため、短時間労働者全体を除いた増加率を参照した。
6 厚生年金の加入者数4558万人のうち共済年金の加入者数は472万人であるため(2022年度)、共済年金を考慮しなくても大きな影響は生じない。なお、2021年度の実質賃金変動率は、同じ方法で計算した値が+1.4%、実績が+1.2%だった。
7 賃金変動率は年度ベースで物価変動率は暦年ベースと両者の時期が食い違う仕組みになっているが、この方法で計算した実質賃金変動率に暦年の物価変動率を掛けて本来の改定率を計算するため、問題はないと考えられる。
3 ―― 年金額改定率の粗い見通し:現役世代の実質賃金下落とマクロ経済スライドで目減りが進行
まず、2025年度の本来の改定率の計算過程を確認する(図表3の上段の2025年度の行)。
物価変動率(図表3上段の①の列)は前述した+2.6%(仮定)であり、2024年度の改定率で使われた+3.2%より低い水準になる見込みである。
実質賃金変動率(図表3上段の②の列)は、4年度前(2021年度・実績)がコロナ禍初年度(2020年度)の反動等で+1.2%と高いものの、3年度前(2022年度・実績)は-1.1%、2年度前(2023年度・見通し)は-1.5%と2年連続で物価の伸びに賃金の伸びが追いつかない影響で、この3年度分の平均は-0.4%となる見込みである8。
可処分所得割合変化率(図表3上段の③の列)は、可処分所得という名称が付いてはいるが、具体的には厚生年金の保険料率の引上げに伴う可処分所得の変化を反映するための項目である。厚生年金の保険料率は2017年9月に引上げが終了しているため、ゼロ%である。
名目手取り賃金変動率(図表3上段の①+②+③の列)は、物価変動率(+2.6%)と実質賃金変動率(-0.4%)を合計した(厳密には掛け合わせた)+2.2%となる見込みである。
この結果、賃金変動率(+2.2%)が物価変動率(+2.6%)を下回るため、本来の改定ルールは特例に該当する見込みである(図表4の左)。そのため、本来の改定率は、67歳以下も68歳以上も賃金変動率(+2.2%)となる見込みである(図表3上段の④の列)。
年金財政健全化のための調整率(いわゆるマクロ経済スライドの調整率)のうち当年度分は、公的年金加入者数の変動率から引退世代の余命の伸びを勘案した率(-0.3%)を差し引いた(厳密には掛け合わせた)率である。公的年金加入者数の変動率(図表3下段の⑤の列)は、4年度前(2021年度・実績)は-0.3%、3年度前(2022年度・実績)は-0.0%、2年度前(2023年度・見通し)は+0.2%であるため、3年度の平均は-0.0%となる見込みである。ここから引退世代の余命の伸びを勘案した率(-0.3%)を差し引いた-0.3%が、2024年度の当年度分の調整率となる見込みである。他方で、前年度(2024年度)からの繰越分(図表3下段の⑦の列)は、別稿で確認したように±0.0%であるため、2025年度に適用すべき調整率は-0.3%になる見込みである。
年金財政健全化のための調整(いわゆるマクロ経済スライド)の適用は、67歳以下/68歳以上ともに本来の改定率が適用すべき調整率の絶対値を上回るため、適用すべき調整率がすべて適用される見込みである(図表4右の原則)。この結果、実際の年金額に反映される調整後の改定率は、67歳以下/68歳以上ともに+1.9%となり(図表3下段の⑧の列)、翌年度へ繰り越す調整率は67歳以下/68歳以上ともに±0.0%となる見込みである(図表3下段の最右列)。
8 厳密には、幾何平均(掛算による平均)であり、ここでは、(1-1.1%)×(1+1.2%)×(1-1.5%)の3乗根となる(実際には各年度の端数も含めて試算している)。公的年金加入者数の変動率の3年平均(図表3下段の⑤の列)も、同様に幾何平均で計算される。
(2024年06月21日「基礎研レポート」)
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03-3512-1859
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
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