2024年06月10日

2024・2025年度経済見通し-24年1-3月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2024年1-3月期の実質GDPは前期比年率▲1.8%へ小幅上方修正

6/10に内閣府が公表した2024年1-3月期の実質GDP(2次速報値)は前期比▲0.5%(年率▲1.8%)となり、1次速報の前期比▲0.5%(年率▲2.0%)から若干上方修正された。

公的固定資本形成(前期比3.1%→同3.0%)、純輸出(前期比・寄与度▲0.3%→同▲0.4%)は1次速報から若干下方修正されたが、2024年1-3月期の法人企業統計の結果が反映され、設備投資が前期比▲0.8%から同▲0.4%へ、民間在庫変動が前期比・寄与度0.2%から同0.3%へと上方修正された。

1-3月期の成長率は若干上方修正されたが、物価高による下押しが続くもとで、自動車の認証不正問題による悪影響が民間消費、設備投資、輸出と広範囲に及んだことで、経済活動が大きく落ち込んだことは1次速報時点と変わらない。

また、2023年度の実質GDPは前年比1.2%と3年連続のプラス成長となったが、年度内成長率(2023年1-3月期から2024年1-3月期までの伸び率)は▲0.3%のマイナスとなった。日本経済は2023年度を通して停滞が続いたと判断される。
(経常利益が過去最高を更新)
財務省の法人企業統計によれば、2024年1-3月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比15.1%(2023年10-12月期:同13.0%)と5四半期連続の増益となり、4四半期連続で前年比二桁の高い伸びとなった。製造業が前年比23.0%(10-12月期:同19.9%)と2四半期連続の増益、非製造業が前年比11.5%(10-12月期:同9.5%)と13四半期連続の増益となった。

季節調整済の経常利益は前期比6.7%(10-12月期:同▲1.9%)と3四半期ぶりに増加した。製造業が前期比5.1%(10-12月期:同▲2.0%)と2四半期ぶり、非製造業が前期比7.6%(10-12月期:同▲1.8%)と3四半期ぶりに増加した。
経常利益(季節調整値)の推移 経常利益(季節調整値)は28.1兆円となった。経常利益は2023年4-6月期に過去最高水準を更新した後、2四半期連続で減少したが、24年1-3月期にはその減少分を取り戻すことにより、再び過去最高を更新した。製造業(10.1兆円)、非製造業(18.0兆円)ともに過去最高となった。

2024年1-3月期は鉱工業生産が前期比▲5.2%の大幅減産、実質GDPが前期比年率▲1.8%のマイナス成長となるなど、経済活動は極めて低調だった。それにもかかわらず企業収益が好調を維持したのは、輸入物価上昇や人件費増加に伴うコスト増を販売価格に転嫁することにより、利益率の改善が続いているためである。

2.実質成長率は2024年度0.7%、2025年度1.1%を予想

2.実質成長率は2024年度0.7%、2025年度1.1%を予想

2024年1-3月期のGDP2次速報を受けて、5/17に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2024年度が0.7%、2025年度が1.1%と予想する。2024年度の成長率見通しを5月時点から▲0.1%下方修正した。新たに自動車の認証不正問題が発覚したことを受けて、2024年4-6月期の見通しを下方修正したことがその主因である。2025年度の見通しは修正していない。
(新たな自動車の認証不正問題が生産を下押し)
2024年1-3月期は、物価高による下押しが続くもとで、不正問題発覚による自動車の生産・出荷停止の影響で消費、設備、輸出が落ち込み、前期比年率▲1.8%のマイナス成長となったが、4-6月期は前期比年率1.8%のプラス成長となることが予想される。

2024年1-3月期の鉱工業生産は前期比▲5.2%となり、四半期ベースの落ち込み幅は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて緊急事態宣言が発令された2020年4-6月期(前期比▲15.1%)以来の大きさとなった。1-3月期の大幅減産の主因は、半導体不足等の供給制約の緩和を受けて増産が続いていた自動車が、2023年12月に発覚したダイハツの認証不正問題に伴う出荷停止の影響で前期比▲17.3%と急速に落ち込んだことである。ダイハツの出荷停止は順次解除され、自動車生産も3月には前月比9.9%の高い伸びとなり、これに伴い自動車販売台数も4月が前月比10.4%、5月が同10.5%(当研究所による季節調整値)と急回復していた。4-6月期は自動車が生産、消費の牽引役となることが期待されていた。
自動車生産・販売の推移 しかし、4月の自動車生産は前月比▲0.6%のマイナスとなり、6月にはトヨタ、ホンダなどで新たに認証不正問題が発覚した。全車種の出荷・生産が停止されたダイハツと異なり、今回の生産停止は一部の車種に限られるが、自動車は鉱工業全体の12%を占めることに加え、他産業への波及も大きい。4-6月期は2四半期ぶりの増産が見込まれるものの、1-3月期の落ち込みを取り戻すことは難しいだろう。

2024年4-6月期は1-3月期とは逆に自動車の挽回生産が消費、設備、輸出の押し上げ要因となることが見込まれるが、不透明感は増している。
2024年6月から実施される所得・住民税減税は7-9月期以降の民間消費を押し上げる。2024年7-9月期は民間消費の高い伸びを主因として前期比年率2.9%の高成長となることが予想される。減税のうち消費の回る割合は2~3割程度と想定しており、消費押し上げ効果は限定的にとどまるとみられるが、10-12月期以降は実質賃金上昇率のプラス転化に伴う実質可処分所得の持続的な増加が消費を下支えする。

また、2023年度の設備投資は伸び悩みが続いたが、高水準の企業収益を背景に基調としては回復の動きが続いている。2024年度後半以降は、国内民間需要を中心に潜在成長率とされるゼロ%台後半を若干上回る年率1%前後の成長が続くだろう。
実質GDP成長率の推移(年度)/実質GDP成長率の推移(四半期)
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、前年の伸びが高かった食料を中心に上昇ペースの鈍化傾向が続いており、2024年4月は前年比2.2%と上昇率が前月から0.4ポイント縮小した。
コアCPIに対するエネルギーの寄与度 しかし、電気代は2024年5月から再生可能エネルギー発電促進賦課金単価が引き上げられ、電気代・都市ガス代は2024年5月使用分(CPIの反映は2024年6月)に激変緩和の幅が縮小された後、6月使用分以降は延長されないことが決定した。電気代は5月から7月までの3ヵ月で20%近く値上がりすることが見込まれる。2024年4月に1年3ヵ月ぶりに上昇に転じたエネルギー価格は夏場には前年比で二桁の高い伸びとなり、コアCPI上昇率への寄与度は1%程度まで拡大することが見込まれる。
激変緩和措置による消費者物価(除く生鮮)への影響 一方、2022年1月から実施されてきたガソリン、灯油等に対する燃料油価格激変緩和措置は2024年4月末までとされていたが、5月以降も延長されることとなった。今回の見通しでは、ガソリン、灯油等に対する燃料油価格激変緩和措置は2024年度末まで現行どおり、2025年度は補助率を縮小した上で継続することを前提とした。

激変緩和措置による消費者物価上昇率への影響は、2023年10-12月期まではコアCPI上昇率の押し下げ要因となっていた。しかし、2024年1-3月期に押し上げ要因に転じた後、電気・都市ガス代の激変緩和措置終了の影響で2024年7-9月期には押し上げ幅が0.7%程度まで拡大するだろう。激変緩和措置によるコアCPI上昇率への影響を年度ベースでみると、2022年度が▲0.7%程度、2023年度が▲0.3%程度、2024年度が0.5%程度、2025年度が0.3%程度となることが見込まれる。
2024年4月のサービス価格は前年比1.7%となり、9ヵ月ぶりに2%を割り込んだが、2024年の春闘賃上げ率が前年を大きく上回ったことを受けて、再び伸びが高まることが予想される。
サービス価格と賃金(ベースアップ) 財と比べてサービスの価格は人件費によって決まる部分が大きい。実際、サービス価格と賃金の連動性は非常に高く、2023年のサービス価格の上昇率は前年比1.8%となり、2023年のベースアップ2%程度とほぼ一致した。連合の集計結果で、2024年の春闘賃上げ率のうちベースアップに相当する「賃上げ分」が3.54%(第6回集計結果)となっていることを踏まえると、サービス価格は3%台まで上昇率が高まることが予想される。

コアCPIは、食料(除く生鮮食品)の伸び率鈍化をエネルギー価格の上昇ペース加速が打ち消す形で、2024年度前半は前年比2%台後半の推移が続くだろう。2024年度後半以降は円高に伴う財価格の上昇率鈍化を主因として2%台前半まで鈍化し、2025年度入り後には日銀の物価目標である2%を割り込むことが予想される。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 財・サービス別には、2022年度は物価上昇のほとんどがエネルギー、食料(除く生鮮食品、外食)を中心とした財の上昇によるものだったが、2023年度はサービス価格の上昇率が高まり、物価上昇の中心は財からサービスにシフトしつつある。2024年度後半から2025年度にかけて、消費者物価上昇率への寄与度はサービスが財を上回るだろう。

コアCPIは、2023年度の前年比2.8%の後、2024年度が2.5%、2025年度が1.8%、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は2023年度の前年比3.9%の後、2024年度が同1.9%、2025年度が1.6%と予想する。

 
日本経済の見通し(2024年1-3月期2次QE(6/10発表)反映後)
 
 

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(2024年06月10日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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