2024年06月07日

東京オフィス市場は調整局面を脱する。ホテル市場は一段と改善-不動産クォータリー・レビュー2024年第1四半期

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.327]

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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日本経済は、下振れリスクの高い状態が続いている。2024年1-3月期の実質GDPは2四半期ぶりのマイナス成長となった。住宅市場では着工戸数が低迷している。東京オフィス市場は空室率が低下し賃料については上昇に転じた。東京23区のマンション賃料は上昇が続いている。ホテル市場は1-3月の延べ宿泊者数が2019年対比で8%増加した。物流市場は、首都圏の空室率が新規供給の影響を受けて上昇基調にある。第1四半期の東証REIT指数は▲0.7%下落した。

1―経済動向と住宅市場

1-3月期の実質GDP(1次速報)は前期比年率▲2.0%となった。物価高による下押し圧力が続くなか、自動車不正問題の悪影響が民間消費、設備投資、輸出と広範囲に及んだ。

1-3月期の鉱工業生産指数は前期比▲5.4%と2四半期ぶりの減産となった[図表1]。業種別では、不正問題の影響で自動車が前期比▲17.3%となったほか、ほとんどの業種が前期比でマイナスとなった。
[図表1]鉱工業生産(前期比)
住宅市場では、建築コスト上昇の影響などから着工戸数の低迷が長期化している。1-3月の新設住宅着工戸数は前年同期比▲9.6%減少、首都圏のマンション新規発売戸数は▲1.8%減少、首都圏の中古マンション成約件数は+6.6%増加した。また、2月の首都圏の中古マンション価格は前年比+3.9%上昇した[図表2]。
[図表2]不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2―地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2023年第4四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「79」、横ばいが「1」、下落が「0」で、5四半期連続で下落地区がゼロとなった[図表3]。同レポートでは、「住宅地は利便性や住環境に優れた地区においてマンション需要が堅調であり上昇。商業地は店舗需要の回復やオフィス需要が底堅く推移し上昇傾向が継続した」としている。
[図表3]全国の地価上昇・下落地区の推移

3―不動産サブセクターの動向

1|オフィス
三鬼商事によると、3月の東京都心5区の空室率は5.47%(前月比▲0.39%)、平均募集賃料(月坪)は2カ月連続で上昇し19,820円となった。他の主要都市をみると、空室率は新規供給の影響で横浜(9.18%)や仙台(6.69%)が大幅に上昇するなど、都市間で格差が生じている[図表4]。一方、募集賃料は全ての都市で前年比プラスを維持している。
[図表4]主要都市のオフィス空室率
成約賃料データに基づく「オフィスレント・インデックス( 第1四半期)」によると、東京都心部Aクラスビル賃料は25,360円(前期比+0.5%)と2期連続で上昇し、空室率は5.6%(前期比▲1.3%)に低下した[図表5]。
[図表5]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
東京オフィス市場は、企業の前向きな移転需要が顕在化し長らく続いた調整局面を脱したと言える。今後は来年にオフィスの大量供給を控えるなか、需要拡大の持続性が試されることになりそうだ。
2|賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。2023年第4四半期は前年比でシングルタイプが+3.5%、コンパクトタイプが+3.7%、ファミリータイプが+5.2%となった[図表6]。
[図表6]東京23区のマンション賃料
総務省によると、1-3月の東京23区の転入超過数は約4.1万人となり2019年同期対比で5%増加した[図表7]。都市部への人口回帰を受けて住宅需要が高まるなか、賃料が上昇している。
[図表7]東京23区の転入超過数(年間、2024年は1~3月累計)
3|商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、百貨店を中心にインバウンド消費が好調で施設売上が増加している。商業動態統計などによると、1-3月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+10.3%、スーパーが+3.8%、コンビニエンスストアが+2.3%となった。ホテル市場は、インバウンド需要が牽引し宿泊者数はコロナ禍前の水準を上回って推移している。宿泊旅行統計調査によると、1-3月の延べ宿泊者数は2019年同期対比で8%増加し、このうち日本人が+3%、外国人が+27%となった[図表8]。
[図表8]延べ宿泊者数の推移(2019年対比、2020年1月~)
また、CBREの調査によると、首都圏の大型物流施設の空室率(3月末)は9.7%(前期比+0.4%)と2012年以来12年ぶりの高水準となった[図表9]。
[図表9]大型マルチテナント型物流施設の空室率

4―J -REIT(不動産投信)市場

2024 年第1四半期の東証REIT指数は昨年末比▲0.7%下落した。金融政策正常化に伴う金利の先高観に加えて、需給面では新NISAを契機としたJリート投信( 毎月分配型)からの資金流出が響き、東証REIT指数は一時2020年11月以来の安値水準に下落した。J-REITによる第1四半期の物件取得額は5,091億円(前年同期比+39%)と大幅に増加した。アセットタイプ別では、オフィス(36%)・物流施設(28%)・住宅(17%)・ホテル(9%)・底地ほか(8%)・商業施設(3%)となり、オフィスと物流施設が全体の6割強を占めている。

ニッセイ基礎研究所は、3月にJ-REIT市場の分配金見通しを発表した。2024年はプラス成長を維持するものの、借入金利の上昇が下押し要因となり、今後5年間の分配金成長率は▲5%となる見通しである。今後の「金利のある世界」、「インフレのある世界」を前提にすると、J-REIT各社は金利とインフレに打ち克つ内部成長の実現が求められる。保有不動産のバリューアップを通じた賃料水準の引き上げや資本コストを意識したマネジメント力の発揮に期待したい。

(2024年06月07日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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