2024年05月09日

「中高年女性正社員」に着目したキャリア支援~「子育て支援」の対象でもなく、「管理職候補」でもない女性たち~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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4――中高年女性正社員のキャリア

4-1│中高年女性正社員の役職
ここからは、中高年女性に今後、能力を発揮してもらうための課題について、一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年10月、大企業で働く45歳以上の女性正社員を対象に行った「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」の結果を参考にして検討していく。本稿では、45~59歳の女性を、5歳ごとの年齢階級別にまとめて分析した結果を紹介する。

まず中高年女性正社員の「現在の役職」を見ると、いずれの年齢階級でも、「課長相当職」以上の管理職の割合は1割前後である(図表5)。企業の中には50歳代後半で役職定年を設けている場合もあるため、共同研究では「これまでに就いた最も上位の役職」も尋ねたが、いずれの年齢階級でも、「課長相当職」以上の管理職の割合は1~2割にとどまった。つまり、中高年女性のうち、管理職を経験した人は一握りだということができる。

なお、共同研究は女性のみを対象としているが、公益財団法人21世紀職業財団が2019年に行った「女性正社員50代・60代におけるキャリアと働き方に関する調査―男女比較の観点からー」によると、300人以上の企業に勤める50代男性正社員(n=1,010)のうち課長相当職以上の管理職(役員を含む)は51.3%と過半数であるのに対し、50代女性正社員(n=1.001)のうち課長相当職以上の管理職(役員を含む)は13.3%であり、大きな男女格差があった。
図表5 年齢階級別にみた中高年女性正社員の役職
4-2│中高年女性正社員の職場での経験
次に、中高年女性がこれまでに職場でどのような経験をしてきたかを整理した(図表6)。例えば、図表6で上から3本の棒グラフ「人事・配置」について見ると、「転勤を伴う異動」の「経験がある」は2割弱、「転勤を伴わない異動」の「経験がある」は4割超、「チームリーダーの仕事」の「経験がある」は3割超だった。また、図表には記載していないが、「転勤を伴う異動」と「転勤を伴わない異動」のいずれも経験がない女性が約4割に上った。つまり、中高年女性正社員の約4割は、入社以来、ずっと同じ部署で働いていることになる。

次に図表6の「教育」面を見ると、「実務スキル研修」は「経験がある」が半数近くに上ったが、それ以外の研修は、いずれも「経験がある」は約1割から約3割と少数派で、未経験者が多数派だった。ただし、未経験であっても「経験はないが、希望している」がいずれの研修でも1割から2割弱いたことは、注目すべきであろう。企業の中で、社内研修の受講対象者とはなっていない中高年女性の中にも、自身のスキルアップのために「本当は自分も受けてみたい」という希望を持っている層が一定、存在するということが分かった。
図表6 中高年女性正社員の職場での経験
4-3|中高年女性正社員のキャリアに関するまとめ
4-1|と4-2|をまとめると、中高年女性正社員は役職に就いている割合が小さく、組織の意思決定に携わっている割合は小さい。また、配置や教育など、社内の育成についても、未経験の人が多数派であり、職場での経験値も限定的である。しかし、個人の意識を見ると、未経験の人の中にも、経験を希望している層、つまりスキルアップへの意識の高い層が、一定いることが分かる。

5――中高年女性正社員の仕事への意識

5――中高年女性正社員の仕事への意識

5-1│中高年女性正社員の今後の仕事への姿勢
次に、中高年女性正社員が、どのような姿勢で仕事に臨んでいるかをみていきたい。共同研究で「現在の会社で、今後どのように働いていきたいか」(複数回答)を尋ねた結果が図表7である。ここでは、様々な仕事への姿勢を“貢献志向”、“上昇志向”、“成長志向”、“和気あいあい志向”、“両立志向”、“負担軽減志向”に分けてまとめた。

その結果、いずれの年齢階級でも、最も多いのは「健康面や体力面で無理のない範囲で働きたい」(すべての年齢階級で4割前後)や「現在行っている仕事をそのまま続けたい」(すべての年齢階級で3割超)という“負担軽減志向”だった。“和気あいあい志向”の「同僚たちと和気あいあいと働きたい」も、いずれの年齢階級でも2割を超えていた。

一方で、“成長志向”のうち、「自分の成長につながる仕事をしたい」(各年齢階級で2~3割)や「自分の人生経験にとってプラスになるような仕事をしたい」(各年齢階級で2~3割)など、自身の人間的な成長を志向する回答も目立った。

“両立志向”の回答も多かった。「できるだけ在宅勤務で働きたい」は、いずれの年齢階級でも約2割に上った。「介護と両立できる働き方をしたい」はいずれの年齢階級でも15%前後だった。「家事、育児と両立できる働き方をしたい」の割合は年齢階級が下がるほど高かった。若いほど、育児中の女性が多いためだと考えられる。

このように見ると、中高年女性では、“負担軽減志向”や“和気あいあい志向”に代表されるように、心身への負担が過重にならないように働きたいという割合が最も多いが、“成長志向”も、いずれの年齢階級でも、一定、いることが分かった。また、「両立」については、介護のために重視している女性が多いことも分かった。
図表7 中高年女性正社員の今後の仕事への姿勢
5-2│中高年女性正社員の学び直しへの経験・関心
次に、中高年女性正社員の自発的な「学び直し」への経験・関心について、年齢階級別にまとめた(図表8)。「学び直しの経験がある(学び直し中も含む)」は、いずれの年齢階級でも1割から1割強だったが、「学び直しの経験はないが、関心がある」と「学び直しの経験はなく、関心はあるが、実際に行う時間が無い」を含めた「経験または関心がある層」は、いずれの年齢階級でも5~6割に上ることが分かった。

4-2|でみたように、中高年女性は職場での経験の幅が狭い分、会社の外で、自発的に学ぼうとする意識が非常に高いと言える。

ただし、家庭と仕事との両立で忙しいこともあってか、「学び直しの経験はなく、関心はあるが、実際に行う時間が無い」がいずれの年齢階級でも2割近いことには、注意が必要であろう。企業は、中高年女性の自発的な学び直しに期待するだけではなく、従来の社内研修の受講対象を見直すなどして、中高年女性を含めたより幅広い層にスキルアップの機会を提供することが重要ではないだろうか2
図表8 中高年女性正社員の「学び直し」の経験・関心

(2024年05月09日「基礎研レポート」)

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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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