2024年05月09日

「中高年女性正社員」に着目したキャリア支援~「子育て支援」の対象でもなく、「管理職候補」でもない女性たち~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

「中高年女性正社員」の数は近年、増加している。仮に「45~59歳の女性正社員」でみると、2022年に初めて400万人を超え、10年前から4割増えた1。「男女雇用機会均等法」施行直後に入社した「均等法第一世代」の女性たちが50歳代後半になったことや、人口が多い「団塊ジュニア」が同年、50歳前後に到達していたことが背景にある。

そのような「中高年女性正社員」に対する従来型のキャリア支援というと、子育てと仕事との「両立支援」だった。育児休業の法制化に始まり、短時間勤務やフレックスタイム制度の導入・拡大、コロナ禍以降は在宅勤務の導入など、両立のハードルを下げるために、柔軟な働き方が整備されられてきた。これと並んで、近年、企業が力を入れているのが、女性の管理職登用である。いずれも、育児・介護休業法や次世代育成支援対策推進法、女性活躍推進法などに裏付けられている。

しかしこれらはいずれも、女性社員の中でも、対象が限定されたものだと言える。両立支援の恩恵を受けるのは、どうしても小さな子がいる若年層が多くなる。管理職は、中高年女性で登用される人もいるが、一握りの“エース級”社員に絞られている。従って、そのいずれの対象でもない中高年女性の中には、家庭の事情に配慮してもらえる訳でも無ければ、管理職候補として教育を受ける訳でも無く、置き去りにされたように感じている方もいるのではないだろうか。

一方で、企業人事の現状を見ると、若年層の採用難や離職増加により、人手不足を感じている企業が多い。そのような中で、ボリュームが増えつつある中高年女性に、いかに意欲を高め、能力を発揮し、役割を担ってもらうかは、企業にとっても、今後ますます重要な課題となるのではないだろうか。

そこで筆者は、これまであまり注目されてこなかった「中高年女性正社員」に今後、能力を発揮してもらうための、雇用上の課題を明らかにしていきたい。本稿ではまず、政府統計や、一般社団法人定年後研究所・ニッセイ基礎研究所「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」をもとに、彼女たちのキャリアや意識について考察していきたい。

なお、働く中高年女性(45~59歳)のうち、最も多い雇用形態はパートなどの非正規雇用であり、中高年女性全体の能力発揮と地位向上のためには、非正規雇用の処遇改善が重要な課題であるが、本稿では、正社員として働き続けてきた中高年女性の役割を見直すことをテーマとしているため、正社員に絞って論じる。また本稿では、注意書きがない限り、「中高年」を45~59歳とする。
 
1 総務省「令和4年就業構造基本調査」。

2――中高年女性正社員とは

2――中高年女性正社員とは

2-1│性・年齢階級別にみた中高年正社員の人数
まず、「中高年女性正社員」の全体像を把握するため、現在のボリュームから確認したい。総務省の「令和4年就業構造基本調査」で、雇用形態が「正規の職員・従業員」の人数を、性・年齢階級別にまとめると、「45~49歳」と「50~54歳」と「55~59歳」の合計は、男性は約939万人であるのに対し、女性は約416万人であり、男女比はおよそ7対3である(図表1)。すべての年齢階級を合わせた正社員総数は計3611万人であり、45~59歳の中高年女性正社員が全体に占める割合は1割強となっている。

なお、正社員の人数の男女比を、5歳ごとの年齢階級別に見ると、「5対5」と男女同数だったのは「20~24歳」のみで、「25~29歳」と「30~34歳」では「6対4」、「35~39歳」から「65~69歳」まではいずれも「7対3」と、女性が少なくなっている。近年は、結婚・出産期に女性の労働力率がいったん下がる「M字カーブ」はほぼ解消されたと言われているが、正社員の人数で比べると、結婚・出産期から構成割合が減少していることが分かる。
図表1 性・年齢階級別にみた正社員数の構成割合
2-2│性別にみた中高年正社員の人数の推移
次は、中高年女性正社員のボリュームが近年、どのように変化してきたかを見ていきたい。同じく総務省の「令和4年就業構造基本調査」から、1987年から最新の2022年まで、45~59歳の中高年の「正規の職員・従業員」の人数を比較したものが図表2である。人口が多い「団塊世代」が50歳前後だった1997年と、「団塊ジュニア」が50歳前後だった2022年に山があるが、35年間の長期でみれば、男女ともに増加している。男性の中高年社員は2022年に全国で約940万人と、かつてないボリュームゾーンとなっているが、女性の中高年社員も約400万人となり、数は男性よりは少ないものの、過去最大のボリュームである。男女いずれも、「中高年」の塊が大きくなっていることが分かる。
図表2 男女別にみた中高年正社員数の変化

3――「中高年女性」の雇用状況の変化と今後の見通し

3――「中高年女性」の雇用状況の変化と今後の見通し

3-1│中高年男女の有業率の推移
次に、正社員数の増加の背景として、有業率の変化を確認しておく。男性(図表3左)は、1987年以降の過去35年間、いずれの年齢階級でも、有業率はほぼ横ばいだが、女性(図表3右)は、いずれの年齢階級も大きく伸びてきたことが分かる。女性の「45~49歳」は12.8ポイント、「50~54歳」は16.5ポイント、「55~59歳」は23.8ポイントも上昇している。
図表3 性・年齢階級別にみた有業率の推移
3-2│中高年男女の正社員割合の推移
次に、雇用形態が正社員の有業者に限って過去35年の上昇幅をみると、有業率とは変化の状況が異なる。男性は、「45~49歳」は10ポイント、「50~54歳」は13.7ポイント、「55~59歳」は19.8ポイント上昇しており、大幅な伸びが見られるが、女性は、「45~49歳」は8.3ポイント、「50~54歳」は4ポイント、「55~59歳」は8ポイントの上昇幅であり、伸びは小幅である。
図表4 性・年齢階級別にみた有業者に占める正社員の割合
3-3│中高年女性正社員の人数と構成割合に関する今後の見通し
上記の状況から踏まえて、「中高年女性正社員」は、今後どうなっていくのだろうか。3-1|でみた中高年女性の有業率の大幅な上昇傾向と、3-2|でみた正社員構成割合の緩やかな上昇傾向からみると、今後も人数は増加していく可能性がある。

しかし、人数以上に着目すべきは、正社員全体に占める構成割合であろう。2-1|でみたように、男性では、年齢階級が5歳若くなるほど、正社員の数が顕著に減少し続けていく。これが少子化の影響だとすれば、各企業においては、今後、若年層の割合はさらに縮小し続けるだろう。それとは対照的に、中高年の構成割合は増える。中高年男性はもちろん、中高年女性の構成割合も大きくなっていくだろう。そのような中で、これまであまり注目されてこなかった「中高年女性正社員」の役割を見直し、意欲や能力を高め、組織の成長に貢献したり、支えたりしてもらう必要性が増しているのではないだろうか。

(2024年05月09日「基礎研レポート」)

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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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