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- 御社のサービスの適正価格は?
2024年04月05日
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今やロボットは、犬型の癒し系を超えて、実用系にまで進化している。
ファミレスなどで配膳ロボットが当たり前になってきた。導入当時は「コロナだから仕方がない」「人手が足りないから仕方がない」「でも、やっぱり怖い」といった声が聞かれ、ご高齢の方からは「自身の歩行の妨げになる」「やはり配膳は人にやってもらいたい」といった声も耳にして来た。
私の場合、コロナが収束し出張が増え、出先でファミレスを利用することが増えている。そんな時、お孫さんを連れたおじいちゃん、おばあちゃんの楽しげな会話が聞こえてくる。お孫さんが「ロボットかわいいねえ」と言えば、おじいちゃん、おばあちゃんは「本当にかわいいね。早く(ロボットが)料理を運んできてくれないかね」と楽しそうだ。配膳ロボットの普及が進み、当初あった少しネガティブなイメージも変わって来たのだろうか。
そういえばファミレスなどでは、タッチパネルを使った注文システムも当たり前になった。タッチパネルの方が、細かな注文ができるため便利に感じることも多い。また中には、QRコードの読み取りで注文するモバイルオーダーのお店も増えている。いまと少し前では、だいぶ感覚が変わって来た。
これまで日本の労働力人口は、生産年齢人口(15-64歳)が減る中でも、女性や高齢者の労働参加が進むことで増えて来たが、ここ数年はそれも頭打ちになっている。女性のM字カーブは欧州並みに解消が進み、人口のボリュームゾーンである団塊世代も75歳以上を迎え、労働市場からの退出が進む。
いたるところで人手不足の大合唱が始まった。人手不足倒産も増え、最近ではバスや鉄道といったエッセンシャルな業界で、人手不足のために会社がやっていけないというニュースを耳にする。この先、日本は「成り手なし」の企業や産業が散見されるようになる。人口減少社会の日本では、10年、20年経っても人手不足は続き、解消はしない。
日本はロボット大国と言われるが、それは製造業など工場で働くロボットである。これからはサービス業など、日常生活の中にどんどんロボットやAIを導入しないと、我々の生活は成り立たなくなってしまう。
人手不足に悩むサービス業では、人口減少問題に加えてインバウンドの本格回復というプラス面の変化も、人手不足に拍車をかけている。人件費は上昇し、供給制約が課された状態であり、工夫を凝らさなければ業務も資金も回らない。
以前みたテレビでは、インバウンドのお客をお寺に泊め、座禅などの修行を体験してもらうプランが人気を博していた。そのお寺の住職さんが、レポーターからこの先のビジネス展開について質問され「客数を減らして、客単価を上げる」と言っていた。つまり、御もてなしの質をさらに高め、その対価はしっかり頂くということだ。まさに高付加価値化のお手本のような答えである。
最近、経営者の方から「うちのサービスの値段を上げたら、お客は受け入れてくれるかなあ」といった吐露をお聞きする機会が増えた。そんな時、私に明確な答えがある訳ではないが「御社のサービスの適正価格はおいくらですか?」とお聞きしている。
日本の経営者はデフレの中、コストを下げることで何とか生産性を維持してきた。しかしそれは、本来、適正価格の中に入れるべきものまで、価格から削ぎ落してしまったのではないだろうか。会社事業のオペレーションを継続し、顧客に十分なサービスを提供する従業員のモチベーションに直結する賃金すら削ってきたのではないだろうか。それを長い期間続けたことで、適正価格という感覚が麻痺してしまったように感じられる。
今年は2024年問題への対応が、いよいよ4月に始まる。今のまま行けば、運送や建築で幾つかの仕事が、ところどころで止まるという事態が起こるかもしれない。そのような供給制約に直面したとき、普通であればオペレーションを維持するため、価格を引き上げきちんと人を雇うが、価格の「適正」を忘れてしまった日本に果たしてそれができるのか。すったもんだが予想される。
ロボット・AIの拡大とともに、人のやる御もてなしの適正価格を取り戻すことが、これからの日本には必要である。「労働」に対して経営者はきちんと向き合っているかそこが問われている。人にしかできないサービスの価値は高いはずだ。ただ最近、エコノミストして、自分の仕事の適正価格を見つけることが重要だと偉そうに訴えているが、自分の講演の適正価格はいくらなのか。もしかしたら、昨年より安いかもしれないと、びくびくしている。
ファミレスなどで配膳ロボットが当たり前になってきた。導入当時は「コロナだから仕方がない」「人手が足りないから仕方がない」「でも、やっぱり怖い」といった声が聞かれ、ご高齢の方からは「自身の歩行の妨げになる」「やはり配膳は人にやってもらいたい」といった声も耳にして来た。
私の場合、コロナが収束し出張が増え、出先でファミレスを利用することが増えている。そんな時、お孫さんを連れたおじいちゃん、おばあちゃんの楽しげな会話が聞こえてくる。お孫さんが「ロボットかわいいねえ」と言えば、おじいちゃん、おばあちゃんは「本当にかわいいね。早く(ロボットが)料理を運んできてくれないかね」と楽しそうだ。配膳ロボットの普及が進み、当初あった少しネガティブなイメージも変わって来たのだろうか。
そういえばファミレスなどでは、タッチパネルを使った注文システムも当たり前になった。タッチパネルの方が、細かな注文ができるため便利に感じることも多い。また中には、QRコードの読み取りで注文するモバイルオーダーのお店も増えている。いまと少し前では、だいぶ感覚が変わって来た。
これまで日本の労働力人口は、生産年齢人口(15-64歳)が減る中でも、女性や高齢者の労働参加が進むことで増えて来たが、ここ数年はそれも頭打ちになっている。女性のM字カーブは欧州並みに解消が進み、人口のボリュームゾーンである団塊世代も75歳以上を迎え、労働市場からの退出が進む。
いたるところで人手不足の大合唱が始まった。人手不足倒産も増え、最近ではバスや鉄道といったエッセンシャルな業界で、人手不足のために会社がやっていけないというニュースを耳にする。この先、日本は「成り手なし」の企業や産業が散見されるようになる。人口減少社会の日本では、10年、20年経っても人手不足は続き、解消はしない。
日本はロボット大国と言われるが、それは製造業など工場で働くロボットである。これからはサービス業など、日常生活の中にどんどんロボットやAIを導入しないと、我々の生活は成り立たなくなってしまう。
人手不足に悩むサービス業では、人口減少問題に加えてインバウンドの本格回復というプラス面の変化も、人手不足に拍車をかけている。人件費は上昇し、供給制約が課された状態であり、工夫を凝らさなければ業務も資金も回らない。
以前みたテレビでは、インバウンドのお客をお寺に泊め、座禅などの修行を体験してもらうプランが人気を博していた。そのお寺の住職さんが、レポーターからこの先のビジネス展開について質問され「客数を減らして、客単価を上げる」と言っていた。つまり、御もてなしの質をさらに高め、その対価はしっかり頂くということだ。まさに高付加価値化のお手本のような答えである。
最近、経営者の方から「うちのサービスの値段を上げたら、お客は受け入れてくれるかなあ」といった吐露をお聞きする機会が増えた。そんな時、私に明確な答えがある訳ではないが「御社のサービスの適正価格はおいくらですか?」とお聞きしている。
日本の経営者はデフレの中、コストを下げることで何とか生産性を維持してきた。しかしそれは、本来、適正価格の中に入れるべきものまで、価格から削ぎ落してしまったのではないだろうか。会社事業のオペレーションを継続し、顧客に十分なサービスを提供する従業員のモチベーションに直結する賃金すら削ってきたのではないだろうか。それを長い期間続けたことで、適正価格という感覚が麻痺してしまったように感じられる。
今年は2024年問題への対応が、いよいよ4月に始まる。今のまま行けば、運送や建築で幾つかの仕事が、ところどころで止まるという事態が起こるかもしれない。そのような供給制約に直面したとき、普通であればオペレーションを維持するため、価格を引き上げきちんと人を雇うが、価格の「適正」を忘れてしまった日本に果たしてそれができるのか。すったもんだが予想される。
ロボット・AIの拡大とともに、人のやる御もてなしの適正価格を取り戻すことが、これからの日本には必要である。「労働」に対して経営者はきちんと向き合っているかそこが問われている。人にしかできないサービスの価値は高いはずだ。ただ最近、エコノミストして、自分の仕事の適正価格を見つけることが重要だと偉そうに訴えているが、自分の講演の適正価格はいくらなのか。もしかしたら、昨年より安いかもしれないと、びくびくしている。
(2024年04月05日「基礎研マンスリー」)

03-3512-1837
経歴
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
矢嶋 康次のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/02/12 | 供給制約をどう乗り切るか-設備投資の増勢を維持するために | 矢嶋 康次 | 研究員の眼 |
2025/02/07 | 日米貿易交渉の課題-第一次トランプ政権時代の教訓 | 矢嶋 康次 | 基礎研マンスリー |
2024/12/03 | 日米貿易交渉の課題-第一次トランプ政権時代の教訓 | 矢嶋 康次 | 研究員の眼 |
2024/10/21 | 日本はどんなリスクを取るべきか~デジタル・リアルの勝ち筋 | 矢嶋 康次 | 基礎研レポート |
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