2024年03月15日

J-REIT市場の動向と収益見通し。借入金利上昇を背景に今後5年間で▲5%減益を見込む~シナリオ別の分配金レンジは「▲18%~+7%」となる見通し~

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

文字サイズ

1――J-REIT市場は年初から▲6%下落。金利の先高観やJリート投信からの資金流出が重しに

今年に入り、J-REIT(不動産投資信託)市場は下値を切り下げる展開が続く。市場全体の値動きを表わす東証REIT指数は昨年▲4.6%下落し、今年も▲6.0%下落している(2月末時点)。史上最高値を更新し活況に沸く株式市場(TOPIX)と比較すると、2023年以降、TOPIXが+41%上昇したのに対して、東証REIT指数は▲10%下落し、両者のパフォーマンス格差が一段と拡大している(図表―1)。
【図表-1】東証REIT指数とTOPIXの推移(22年12月末=100)
日本銀行による金融政策正常化に伴う金利の先高観や世界的に広がる不動産セクターへの警戒感に加えて、需給面では新NISAを契機としたJリート投信(毎月分配型)からの資金流出が重しとなり、投資家は様子見の姿勢を強めている。

もっとも、投資口価格が下落する一方で、J-REIT市場のファンダメンタルズは堅調である。市場全体の1口当たりNAV(Net Asset Value、解散価値)は、保有不動産の価格上昇を反映し前年比+2%増加し、予想1口当たり分配金(Distributions Per Unit、以下DPU)についてもホテル収益の本格回復や不動産売却益の計上が寄与し前年比+5%増加している(図表―2)。

こうした市場価格とファンダメンタルズのかい離は、いずれ修正に向かうと考えられるが、その前提となるJ-REIT市場の業績回復はどの程度期待できるだろうか。

そこで、本稿では最初に、現在のJ-REIT市場の収益環境を確認する。次に、各種シナリオ(オフィス賃料見通し、物件取得要件、金利見通しなど)を設定し、今後5年間の分配金の見通しを試算したい。
[図表-2]1口当たりNAVと予想1口当たり分配金(東証REIT指数ベース)

2――保有不動産は約4,600棟

2――保有不動産は約4,600棟、金額にして26.8兆円。予想1口当たり分配金は過去最高水準に

J-REITは、エクイティ資金及び借入金を調達して賃貸不動産に投資し、そこから得られる賃貸事業収益(Net Operating Income、以下NOI)を原資に、利益のほぼ全額を投資主に還元する金融商品である。J-REITは主に、(1)保有不動産の収益力を高める『内部成長』、(2)不動産を取得する『外部成長』、(3)金融コストを低減する『財務戦略』を通じて、DPUの成長を図る。

まず、2023年12月末時点のJ-REITの保有不動産は全体で約4,600棟、金額にして約26.8兆円の規模となっている(図表―3)。アセットタイプ別では、オフィス(10.2兆円、38%)、物流施設(5.7兆円、21%)、住宅(4.2兆円、16%)、商業施設(3.5兆円、13%)、ホテル(2.0兆円、7%)、底地など(1.2兆円、5%)の順に多い。過去5年間の物件取得額(6.4兆円)の内訳をみると、物流施設の比率が31%を占めて、オフィスに次ぐ第2のセクターとして存在感を高めている。
[図表-3] J-REITの保有不動産及び新規取得額(アセットタイプ別)
次に、業績動向を確認する。J-REIT市場全体の予想DPUは2020年3月のコロナショックを受けてホテルセクターを中心に事業環境が悪化し、2019年末対比で一時▲8%減少した。その後は緩やかな回復基調を辿り、現在は過去最高水準に達している(図表―2、右図)。また、J-REITの実績DPUは事前予想に対して上振れて着地しており、2023年(1月~12月期決算)の上方修正率は+4.3%となった(図表―4)。この上振れ要因の1つに、不動産売却益の計上が挙げられる。不動産価格が高値で推移する現在のマーケット環境を好機と捉えて、J-REIT各社は鑑定評価を8%程度上回る価格で保有不動産を売却し、投資主への利益還元を強化している(図表―5)。
[図表-4]事前予想に対する実績DPUの修正率
[図表-5]不動産売却損益、売却価格と鑑定評価のかい離率

3――各種シナリオを設定し

3――各種シナリオを設定し、今後5年間のDPU成長率を試算する

保有オフィスビルのNOIは減少が続く。2023年下期は前年同期比▲1.4%減少
三鬼商事によると、東京都心5区のオフィス空室率(24年2月)は5.86%(前年比▲0.29%)となり、2022年9月(6.49%)をピークに改善基調にある。また、平均募集賃料についても前月比プラスに転換するなど足もとで底打ち感がみられる。地方都市では新規供給の増加を受けて空室率が上昇している都市もあるが、募集賃料は前年比プラスで推移している1。このように、コロナ禍を契機に悪化したオフィス市場は空室率の上昇が概ね一巡し、調整局面を脱しつつあると言える。一方、J-REITが保有するオフィスビルの収益は減少が続いている。継続比較可能な保有ビルを対象に賃貸事業収益(NOI)の推移(前年比増減率)を確認すると、2021年からマイナスに転じ、2023年上期は前年同期比▲4.3%、下期は▲1.4%となった。2020年まではオフィスセクターの『内部成長』が市場全体のDPU成長を牽引してきたが、コロナ禍以降、マイナスに寄与している(図表―6)。
[図表-6] JREIT保有ビルの内部成長と東京都心5区のオフィス募集賃料
また、各社の開示データなどをもとに保有オフィスビルの賃料ギャップ(市場賃料と継続賃料のかい離率)を集計すると全体で▲1%と推計され、現状、市場賃料が継続賃料を下回る状態にある。したがって、オフィスビルの収益は減少率が縮小傾向にあるものの、その反転時期は今後の市場動向次第と考えられる。
保有オフィスビルのNOIは今後5年間で▲1%減少する見通し(標準シナリオ)
ニッセイ基礎研究所は国内6都市(東京・大阪・名古屋・札幌・仙台・福岡)のオフィス賃料予測を公表した2。今後5年間(2023年~2028年)の賃料変動率は、標準シナリオで東京が+2%、大阪が▲12%、名古屋が▲7%、札幌が▲9%、仙台が▲4%、福岡が▲13%となっている(図表―7)。このうち、東京については「新規供給が高水準で推移する一方、オフィス環境整備に向けた需要は底堅いことから、空室率の上昇は限定的で、成約賃料は概ね横ばいで推移する見通し」である。

この賃料予測並びに一定の前提条件(稿末に記載)に、保有オフィスビルのNOI成長率(今後5年間)を計算した。結果は、標準シナリオで▲1%、楽観シナリオで+4%、悲観シナリオで▲6%となった(図表―8)。
【図表-7】今後5年間のオフィス賃料予測(2023末~2028年末)/[図表-8] :JREIT保有ビルのNOI見通し(2023年下期=100)
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【J-REIT市場の動向と収益見通し。借入金利上昇を背景に今後5年間で▲5%減益を見込む~シナリオ別の分配金レンジは「▲18%~+7%」となる見通し~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

J-REIT市場の動向と収益見通し。借入金利上昇を背景に今後5年間で▲5%減益を見込む~シナリオ別の分配金レンジは「▲18%~+7%」となる見通し~のレポート Topへ